南瓜のランプが明かりを灯す夕暮れの通り。ハロウィンのイベントである仮装した子供たちでごった返す道を一つの影が回りの様子を伺うようにして歩いている。
きょろきょろと左右を伺い自分の身内のものが周囲にいないことを確認するとそのまま真っ直ぐ進もうとして……
「ト、トリック。オア・トリート
「!?」
鈴のような声が背後から響いた。人影は驚いて振り返り、なぜ気づかなかったのかの理由とそれが身内でなかったことに気づいてほっと。安堵のため息をつく。
「お、おかしがないならいたずらします、よ……」
銀の髪を一房だけ金に染めた111番地の秋桜。ハロウィンの仮装として、濃紺の魔女っこスタイルと魔女帽を手にしながらもじもじとしている。
「お、おかしがないならいたずらします、よ……」
どうやらお菓子をもらうためにずっと歩いているらしかった。
南瓜の明かりにぼんやりと浮かび上がった日に焼けた肌のその少女、ダージリンは笑みを浮かべると、ちょうど手にしていたバスケットからラッピングされたお菓子を取り出す。
「どうぞ。悪戯しないでね?」
「わー!ありがとうございます」
目をぱっと輝かせて差し出されたお菓子を受け取る秋桜の様子を、頬に両手を当てながら見守るダージリン。
「あ、そこにいた」
今度は背後から男の子の声が響く。反射的にまたバスケットからお菓子を差し出して。
「どうぞ……わわっ??!!」
お菓子を手にしてまた反対側に振り返った途端、真っ先にダージリンの目線は上に上に上がり、そのまま慌てて後ずさりする。視界にあるのは茶色の長髪をした訝しげな表情の青年。
あ、ポコス兄さまーと秋桜の無邪気な声が響く間も後ずさりしたまま硬直する彼女の前にいたのは、よく足を運ぶ某カフェでもお世話になっているあのポコスだった。
「え。なんで?ポコスさん……貴方がこんなところに……?」
慌てるあまり、思わず口調に地が少し出てしまっている。
「……君は、ダージリンじゃないか。なんでそんな格好を?」
そんな彼女を物珍しそうにまじまじと。もとい『その』服装を眺めるポコス。ダージリンはますます表情を強張らせる。その服装はいつものスーツ姿ではなく、絹のローブを全身に纏い、頭部をケープですっぽりと覆う。所謂シスターの格好をしていた。さすがに色々な意味で突っ込まれる姿だ。
「……き、決まってるじゃない…ですか、そんなの。……やだなあボクはここら辺のボランティアに来てるんですよ?」
「ふうん」
確かにここは教会の近くの通りだった。が、なにより近くで行われているある『ショー』の看板すぐ近くに出ていることを(何でも出演者の一人がこの辺のボランティアを主催してる側の教会の神父らしい)思い出し、非難がましい視線を送っているシスター服のボクっ娘を講義に見比べる。
「つまり……あれか?」
ポコスが流し目を送った先には、入り口のすぐ先の特設売り場と、そのカウンターに並んでいる人形の数々。
「……!!!」
まるで湯気が出そうな勢いでダージリンの顔が赤くなった。
「ぽ、ポコスさ……サン」
「おねえ……さんもあのにんぎょう……すきなんですか?」
このまま割りと本気でポコスに掴みかかろうとする勢いになってた彼女に秋桜がおそるおそる質問する。
「え…?」
キョトンとした表情の一瞬あとに、ダージリンに意地悪な笑みが浮かぶ。
「そう……なんだよ。秋桜サン。ボクも人形大好きなんだ。カナリアンショー大好きでねー。カッコいいし。一番の理由は中に入ってしまえばボランティアって言いながら時間潰せるからだけど。あの人形も造詣いいしね。
あれ?
……そう言えばこの間新しい魔法少女入ったんだっけ?確かレッドサウンドって言う?」
「おい……」
今度はポコスが狼狽する番だった。秋桜の銀の髪を撫でながらちらりとポコスのほうに黒い笑みを一瞬浮かべる。そんな中。
「「二人とも、喧嘩はあきまへんで」
落ち着いた独特の訛りのある声。気がつくとダージリンの背後に長い黒髪をたなびかせた同じく漆黒の異国風の着物姿の女性が立っていた。
「あ?」
「志和子……サン?」
ダージリンにとって、最も恐れていた『身内』の志和子だ。
「おひさしゅうぶりどす。ポコスはん。あと光龍のお嬢はんも」
「こ……こんにちは?」
礼儀正しく一例をする志和子に対して、少し怖いのか恐る恐るポコスの陰に隠れるように挨拶を返す秋桜。その様子にくすりと微笑しつつ志和子は眼前のダージリンの肩にそっと手をやりながらその笑みを崩さず囁いた。
「だーじりんちゃん、時間が時間やからと思うたら、やっぱりしょーを見に行こうとしてたんやね?」
今まで興奮傾向だったダージリンの顔が今度はさっと青褪める。
「し、志和子サン……だって……」
「ふふ、まあええわ。美魔法戦士『少女』のかなりあんは。彼女はほんに大人気やしなあ……」
口元を袖で隠しながら悪戯っぽく笑う志和子を見ながら、ポコスは合点が行ったという表情になる。確かさっきも少し思い出した神父の世話で来てるのだ、志和子は。そして、ダージリンがボランティアの合間にあのヘブンズ・レイ製に似た人形ほしさに抜け出さない顔監視も兼ねて。
「私も魔法少女やってみたいくらいやわ……」
そこで色々と出てきた言葉がまずかった。続いてポコスが思わず口にしてしまうことも含めて。
「あー、少女と呼べなくもないかな?」
『ピシリ!!』
周囲の壁に亀裂が走る。
「……ポコスはん、なんや私に魔法少女は微妙な響きがあるとでも?」
笑顔はそのままだが、表情に妙に影が差している。
「いや……なにかまずいことでもあったのか?」
隣で怯えているダージリンをよそに、訳が分からないといった様子のポコス。
「……
志和子はしばらく無言のまま影が差したままの笑顔で立っていたが。
「だーじりんちゃん」
「え?」
不意に話を振られて困惑するダージリンの今度はケープ越しの頭に手を当て。
「ちょい、人手があくと思うから、このままショーでも見といてええで?」
「え?ええ?」
あまりに唐突な話の転換にダージリンは返事に詰まる。
しかし答える前に、志和子はそのまま勝手に、さっきまでいたらしい楽屋のほうに戻って言った。

  
ブザーが鳴り、会場の証明が落ちる。
結局ショーをそのまま観ることになったダージリンは、前列の方でショーを食い入るように見ている秋桜から離れてショーを見物するポコスの隣に座っている。
「一応、お礼は言っとくけど……中に無事入れたし」
「ん?人形のことなら今更構わないぞ?」
「今更?」
いや、なんでもない?
「ふうん?」
さっきからヘブンズレイのことっぽい言い回しと言い、何だか自分の行動を妙に具体的に見たように言う言い方が引っかかるダージリンだった。
そうこうしているうちにブザーが鳴り照明が落ちて会場の幕が揚がる。
「わーっはっはっは!お前たちを洗脳して悪い子にしてやるたい!」
真っ黒な髪に真っ黒な服の変な仮面の三人組が息のあったやり取りで登場して悪事を働く。
そして、それがしばらく続いたとき――
「そこまでです、悪党ども!」
その某とレジャーハンターによく似た風貌の少女が現れてからが本領発揮だった。
「シャイニングチェンジ!」
掛け声とともにリボンとレースたっぷりのコスチュームになった美・魔法戦士少女カナリアンの登場に会場の子供たちは一気に沸く。
「愛ある限り戦いましょう。空に月ある限り」
決め台詞とともにステージはそのまま一気にクライマックスに流れ込む。
「灰汁が……じゃなかったー、悪が邪魔をする限り、私はそれを捌き続ける。
魔法戦士少女レッドサウザンド、見参!」
「さー、カナリアン。一緒に行くのですよー!」
途中参戦したレッドサウンドの登場や神父仮面の登場に更に子供たちは興奮して声援は跳ね上がる。
なにやら悟ったような顔でその光景をを見つめる端っこの大きなお友達二人を除いてだが。
「ははは。
まだまだ甘いったいね」
そこでリーダー格が追い詰められているにも関わらずに高笑いを始める。
「これを見るたい」
どう見ても裏方さんのおかげです。と言ったタイミングでばさりと黒い布がめくられると、そこにはまたロープと猿轡で縛られた神父仮面の姿。
「く、卑怯な……」
二人の美・魔法戦士少女が歯噛みしたその時。
『ひゅん!』
黒い影が飛ぶ。
黒い影は新婦仮面を抱えて
すたんとカナリアンとレッドサウンドの間に颯爽と立った
漆黒の和服をアレンジしたような(但し少女趣味前回の)コスチュームに長刀を手にし、白い顔の上半分を角のついたマスクで覆った女性……もとい
「彼岸の端から、遥か彼方の果てまで。おいたの過ぎる悪党は成敗どすえ?」
魔法戦士『少』女リコリス・シワと名乗ったその女性。
第三の魔法戦士の前に、わああと子供たちの賞賛が惜しみなく送られている。

――うわあ……――
そして、それを同じく見ていたダージリンとポコスは真っ白になってドン引きしていた。
最初から見破られてる手ってどうかと思うが。二人の共通見解。
「く、また新しいのが。撤退たい」
戦い終わって撤退する悪役らしい。
子供たちの惜しみない拍手と歓声の中、ポコスとダージリンはずっと石のようになっていた。
――
――
舞台が終わったと、妙に疲れた
「ダージリンちゃん」
「あ、志和子……さん」
そこには志和子が微笑みを浮かべながら立っていた。
「だめやないの?また油売ってたんやろ?」
え?そ、それは……うん、ごめんなさい」
決まり悪そうに俯く。ちょっと昼方は志和子の前でも迷惑をかけそうになったのだ。
「まあ、今流行のカナリアンショー、見てみたい思うのはわかるけどなあ」
そこでふっと遠くを見るような目になって。
「それにしても、聞いたで?新しい魔法少女が現れたって、
ほんに誰何やろうなあ?」
(いやいやいや)
最初から見破られている嘘をつかないでくださいよ……と思えど和子のあまりにいい笑顔の前に効果それは言えないでいた。。
「ところで、だーじりんちゃん」
「え?」
志和子がダージリンに手渡したもの。それはひとつの小包。
「え?これって」
ふふ、欲しかったんと違うの?
蓋をこっそりと開けてみると、それはヘヴンズ・レイ製の最新の記念の番号入り限定人形。
「え?た、確かに……でもいいの?」
「ふふ、遠慮せんでほしかったんでしょ?
「志和子さん!」
思わず目頭を厚くして涙ぐんだ。そして、喜んだのもつかの間
「え?」
そこにメッセージカードのようなものがついていた。
「いつも応援ありがとう。リコリス・シワから貴女へ」
「えっと、志和子さん。これ」
「ほんに律儀やなあ。謎の第三の美少女」
「いえですから」
「あそこにおらんかった私の変わりに」
「その……ひょっとして会場に」
もし、うっかりみんなにリコリス・シワの正体(笑)を口にすれば自分の趣味も志和子の口から発覚するだろう。限定人形を持っていた(この場合、手渡されたは通用しないかも)
「ほんにダージリンちゃんのためのケアも忘れんとは、魔法『少女」戦士やわ」
反抗する余地はなかった。
いや、もうすぐにばれる嘘をついても夢が変わるわけじゃないから……そうぼやきつつ新美魔法戦士少女は登場したのだったな。なにせよ最初から見破られてもその時と割り切ることをにした。
とりあえず、ダージリンはすっかり暗くなってもその場に立ち続けていた。



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