2人でいる幸せに、慣れることなくいつだって。
 いつだって、愛してると伝えたい。

 けれどそれは、あまりに照れ臭いのだから。
 少し遠まわしに、繰り返す。

2人でいることに「慣れ」たくない

 少し日の陰ったその日。朱音は暇ですねと呟いた。
 昼食時が終わり、おやつには遠く。少し客足の緩んだ時間帯の呟きに、ポコスはああ、と頷いた。
「暇ですね。ポコス、何か面白いことはないでしょうか」
「特にないんじゃないか?」
「ポコス、何か面白いことしてくれないでしょうか」
「なんだよ、面白いことって」
 自分で考えてくださいよ。笑顔で告げられた言葉に、ポコスは僅かに苦い顔をする。
 従者の仕事にそんなことは含まれていない。いないはずなのだが、この笑顔はそれを期待してきて。
「お前のの考えていることは未だにわからない」
 期待に答える義理はないのに、その笑顔を好ましく思う彼は、少しだけ胸が苦しかった。
「やだなあ。面白いことが大好きなだけですよ」
 そして、見ているだけで色々と面白い貴方も、結構。
 そう口に出せばなぜかうろたえてくれるだろう従者を思い、朱音は明るく微笑んだ。

「…なにかしら、あれ。いちゃついているようにしか見えないわ」
「そうですね…僕とタラニス譲にも匹敵するいちゃつき具合です」
「いちゃついてないわよ。馬鹿みたいなこと言わないで」
 店の片隅、そんなやりとりをする光龍二人の目線の先、地龍は困った顔で溜息をついていた。


 よく晴れたその日。イソレナが差し出してきたものは、野に咲く綺麗な雑草だった。
 なぜいきなり花。女なら花が好きというなら勘違いだ。
 いつかも感じた感覚と、変わらぬ嬉しさを胸に、羽堂はやはり聞いてみた。
「この花、なんて言うんですか?」
「知りませんねえ」
 渡してしまえば気が済んだらしいイソレナはごくごく穏やかな調子で答える。
 綺麗だったからつんだのだろう、やはり。
 だから彼女は返そうとした。そうですか、という一言を。
 けれど、彼が続けたのは、
「でもなんか、綺麗な紫で。うーちゃんっぽかったから。
 見せたいな―と思ったんですよ」
 明るく自然な、彼女が好きな笑顔で。
 当たり前のようにそんなことを言う恋人に、羽堂は僅かに頬を染める。


「…カフェで繰り広げられる愛の営みにリア充末永く爆発してしまえと言いたい私」
「なにを今更。もっと色ボケてんの見てるじゃん、お前」
「くっそう春ね春よね君もひどいのの筆頭だからねー!?」
「え、まじで!?」
 そんな光景を部屋のドアの脇で目撃し、どうにも入りずらくなった某トレハンが、そんなことを呟いて。
 それを見たカフェのいつものメンバーに慰められたりつつかれたりするのは、別の風景だった。


 しとしとと雨の降るその日。太陽から手紙がきた。
 なぜわざわざ手紙を、と思いながら開けてみれば、書かれているのはごく普通の内容。
 近状報告や、おもしろおかしい話。
 わざわざ手紙を送るより、会いに来てくれる方が。
 ちらりと浮かんだ言葉にぽっと染めつつ頭をふる咲良。雨だし仕方ない。いやそうじゃなくて、そんな。そんな待ち遠しく思っているようなことを思うのは、照れる。
 ふるふると頭をふる拍子に、ふわりと香るのはかんきつの香り。
 便せんからなぜそんなものが。
 そうやって思いだしたのは、かつて弟分の炎龍との会話。あぶり出しででてきた、メッセージ。
 思い出に従い、黙って炎に近づけてみれば、やはり文字が浮き出てきた。
 一枚目の便せんには『あ』次は『い』続いて『し』―――
 六枚の便せん似同じことをし終わった後、咲良はふうと溜息をつく。
 一体これにどうリアクションすればいいというのか。突っ込みをいれるべきか、それとも。
 喜ぶべきなんだろうなあと呟いた彼女は、やはり赤く頬を染める。

 そんなことがあった、数日後。
 眼鏡を光らせ白衣を揺らす太陽に、咲良は問いかける。
「…で、なんであんなことしたんだ?」
「それはですね咲良さん、たまには口に出すだけではなく趣向をこらして、打倒マンネリと言う奴です」
「私は普通でいい、普通でいいよ!」
「HAHAHAHA! そんな枠に貴女への愛は収まらないんですよ!」
「少しは落ちつけよ!」
 びしりとつっこむその顔は、再びほの赤く。

「どこにマンネリが入る余地があるというのか」
「さあ知りません畜生コーラ持ってこいー」
 お互いのマスターの生温かい視線を買っていたことは、わりといつものことだった。




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