「わーっはっはっはっは! お前達を洗脳して悪い子にしてやるたい!」
真っ黒の髪に丈の長い上着を着た男が、真っ赤な仮面をつけて高笑いをする。
席に座っている子供たちから「きゃー」と悲鳴が上がった。
「魔龍アーラン、闇の使途トゥエール! 子供たちをピリオドの向こうへと連れて行くたい!」
「「ははっ!! メフィスト総裁のお望みのままに!」」
同じように真っ黒な髪に真っ黒な服、真っ赤な仮面の男女がずい、と一歩前へ出る。男の子の方の口元が若干ひきつっているのは御愛嬌だろう。
さあ、打ち合わせのタイミングだ。
その行動を牽制するように少し高くなっている所に立ち、気合を入れて声を上げた。
「そこまでです、悪党ども!」
8.冒険は自己責任です。
「誰だっ!」
二人組の男の方が声を上げながら周囲を見渡す。
「あそこよっ!」
女性の方がこちらに気が付き、指をさしてくる。
闇龍3に……もとい、悪党を見下ろしながら、ブレスレッドをつけた右腕をすっと横に出す。
その手で何もないところを掴む仕草をすると手の中に月と鳥があしらわれたステッキが現れた。
すうと息を吸い、羞恥を押さえて声が震えないように一息で叫ぶように言う。
「シャイニングチェンジ!」
声に呼応するようにステッキが輝き、光が部屋に溢れる。
その光を目を閉じてやり過ごす。光が収まると、自分の着ていた普通のシャツとズボンがふわふわとしたリボンとレースたっぷりなものに変化した。
どういう仕組みだ、とつっこみたいのをこらえ、打ち合わせで何度も言った台詞を言う。
「愛ある限り戦いましょう。空に月があるかぎり」
一歩足を前に出す。高めのヒールがカツンと高質な音を響かせた。
「美・魔法戦士少女カナリアン! 惨状!」
漢字が違うのはわざとです。どうせ声だから見えないし!
わーーーー!!
子供達から歓声が上がった。受けているのがせめてもの救いか。
「とう!」
立っていた所から一息に飛び降りる。ふわふわのペチコートのお陰で中が見えないようになっているのは正直ありがたい。
そのままの勢いで、びしっとステッキで敵をさし、決めポーズをする。
「その狼藉、たとえ死女神様が許しても、このカナリアンが許しません!」
「はっはっは、いったなこむすめ! このおいと闘いたくば、アーランとトゥエールを倒してからばい!
いけ! アーラン! トゥエール!」
「「ははっ!」」
双子の声が綺麗にハモリ、此方へと向き直る。
「貴女に恨みはありませんが」
「メフィスト総帥の邪魔をするものを生かしてはおけないわ」
二人は良く似た動きでじりじりと此方との距離を詰めてくる。
じりじりと後退する。正直戦闘は適当にアドリブで、本気で殴っても大丈夫だからとしか言われていないのでどうするかを悩む。
たしか、この後何事もなければ彼の出番が来るはず。タクトを握りしめながら二人とにらみ合っていると、横から凛々しい声が飛んできた。
「そうはさせない!」
カカッっとアラン君達……もとい、アーラン達の足元に小さな十字架が刺さり、動きを阻害した。
「何者!?」
「我が名は神父仮面! この地に害なすものを放置するわけにはいかぬ!
さあ、私が二人を押さえているうちに、総帥とやらを倒すのだ!」
「ありがとう神父仮面様! 総帥、いざ尋常に勝負! やああああ!!」
「ははは! 甘いぞ魔法戦士少女カナリアン! おいには魔法なんぞ効かながふっ!」
ごめんなさいメフィストさん、と心の中で謝ってから思い切り杖で横殴りにする。
ばき、という音がひびいた。ちょっとまって杖の素材柔らかいので作ったって真夜さんから聞いてたのになんか凄く痛そうな音がした!?
思い切り動揺するが、止まるわけにはいかないので決められた台詞を言う。
「魔法が効かないのは先刻承知です! 魔法が効かぬなら、拳で友情を語り合うのみです!
月と鳥の杖、封印解放!」
そう叫び、杖のレリーフを全力で引っ張る。
杖の中に仕込まれていた刀がずるりと光のもとにさらされた。
「さあ総帥、御覚悟を」
刀をかまえ、臨戦態勢を整えれば、チッと総帥は舌打ちをした。
「くっ! ……仕方がなか。皆、撤退たい!」
ざっと上着を翻し、総帥が舞台のそでに消えると、それに続くようにアーランとトゥエールの姿も消えた。
「光ある所に影ある様に、我らも消えることなど無くあり続けるだろう……さらばだ!」
そんな言葉を残して退場していったのを確認して、此方を見て居る子供たちに笑顔を向ける。
「皆無事でよかったー これからどんどん敵も強くなるだろうけど、頼りになる神父仮面様も、まだ見ぬ魔法少女も居てくれるからきっとこれからも大丈夫!」
笑顔で見渡せば、頬を真っ赤にした雛姫ちゃんや興奮しているつくえさんと目があった。
「皆を守るために、これからもがんばるから、応援よろしくねー☆」
そう言って手を振りながら退場する。子供たちは立ちあがってぴょんぴょん跳ねながら見送ってくれた。
『以上をもちまして、闇龍演技隊と有志による「魔法戦士少女カナリアン」の公演を終了いたします。
お忘れ物など無いようお気を付け下さい』
楽屋裏
「私もう無理です」
「俺も無理です」
楽屋で乾さんと一緒にぐったりする。
ちょっとだけ、と勇気を出していつもはやらない事をと冒険したら大惨事に巻き込まれた二人だった。
「超ノリノリだったじゃないですかお二人とも。子供たちも喜んでいましたよー」
ナレーションがメインだった真夜さんはけろっとして二人に茶とお菓子を出してくれた。
「所で、あの変身ってどういう仕組みだったんですか?」
今回の衣装を作ったのは磨智だけれど、それに細工をしたのは真夜さんのはずだった。
「あれはですねー、不思議な魔鏡の改造品で、かなた様の言葉をキーにして服に対して干渉して衣装が変わる様にしたのです。結構良い感じに出来て居て満足ですー♪」
実験がうまくいって幸せそうに笑う真夜さん。
そこにハイテンションな勢いでトゥエルヴさんが飛び込んできた。
「きーてきーて! 追加公演の依頼も既に来ているわよー!!」
「あら、おめでとうございます」
「直ぐ新しいシナリオ考えないと! あとで打ち上げするから集まってね」
トゥエルヴさんは凄く楽しそうにそう言って去って行った。台風の様な人である。
「追加公演頑張ってくださいね?」
こくり、と首を傾げながら言ってくる真夜さんを恨めしそうに見上げる。
「……真夜さんもやってくれるなら考えます」
「朱音様や羽堂様も巻き込んでいただけるのなら」
恨み事をしれりと交された。くすん。
この発言が、後日現実のものとなるなどと思ったものは誰も居なかった……
おしまい