11.風邪気味
執事が風邪をひいたらしい。
らしい、というのは龍がひく風邪なんてものが存在するのか良く分からないからだ。
なんか別の病気かも、と思い太陽に見てもらうも、
「ああ。ほっときゃ治ります」
と症状を聞くだけでそう診断を下されてしまった。
良いのかねぇ、と思いながらパッチーはダニと一緒に執事の看病をしている。
ダニが執事の傍で額に手を当てて熱を測ったり、濡れタオルを頭に置いたりしている作業をし、パッチーは色々な角度から応援をしている。
少ししてちょいちょいとダニが手招きをしたのでパッチーが傍に行くと。
スパーンっ!
「正気に返ったか?」
「おお、いい平手だな。天辺狙えるんじゃね」
「もう少し高位だったら狙っても良かったがな」
奥歯ががくがくする良い気付けだった。
正気に返って考えると、ここにパッチーが居ても邪魔にしかならない。
「じゃあ俺は部屋に戻るが、ダニ、後は頼んだぞ」
「了解した。夕飯は太陽にでも作らせてくれお前は厨房に立つな殺すぞ」
「殺意が危険でやばいんでしません、サー!」
本気の文字が見えたためピシッと敬礼を返して拝命する。
ダニがダニさんになってる時は逆らわない事がこのパッチー家で生き残る秘訣なのだ。
・・・・・・あれ、俺家長・・・
パッチーは深く考えないようにした。
「執事、何か欲しいものとかあるか?」
普段は執事に色々任せてしまっているし、これを機会と捉えて何かしらで報いるのも良いだろう。
家人の精神的幸福を守るのも家長の務めである(キリッ
と常日ごろから考えているかもしれないパッチーは、短絡的にそう考えて発言をした。
ダニが「あ、やっちまった」的な表情をしているがガンスルーである。
「ケホッ・・・それなら、どうしても叶えたい事が」
「うんうん。どんなことだね」
「エレ姉さまに一目お会いしたいです」
パッチーは真っ白になった。
「ということで何とかなりませんか先生」
「出来るけどめんどくさいです先生」
困った時の羽堂さんとばかりに頼み込むパッチーにさっとお茶漬けを出す羽堂さん。
風流である()
「天界から現界につなげるのって色々手間隙かかる上に結構事前準備が必要な上、良い感じに画像出せるかもわからないんですよね。あと向こうがどうなってるかわかんない」
「やぁ、やっぱり難しいですか」
「難しいですね。あとそもそも準備がまるで出来てないんで無理です」
バサっと切り捨てるように羽堂は言い切った。
右手で何かを切るジェスチャー付きである。
「・・・こ、こうなったら火乃香さんに黒いカツラをつけてもらうしか!!!」
「本気で追い詰められてるのが良く分かりましたけど言う言葉は気を付けましょうね。それマジ切れされてもおかしくないっすよ」
「そうですよね・・・申し訳ない」
「いや、よーそこまで深く考えるなって面白がってるんで良いですよ?」
「ゆ、許された!?」
「許してないから」
駄目か。駄目ですね。
マスター二人は目と目で語り合った。
お茶漬けは美味しかったらしい。
「最終手段にでる。ルート、前へ!」
「でーつでつでつでつ。何かはわからないでつがこの最終秘密兵器ルート様に任せるでつよ!」
「ここにエレの残した服があってな」
「お疲れ様でちたー」
「逃がさない、お前だけは!」
「HA・NA・SE!」
気合フルパワーで色々滾りながら女物の服を片手に童子に迫る男。
完全に事案である。
騒ぎを聞きつけたメフィストに(パッチーが)鎮圧されることしばし。
「あれ、意外と似合いまつね?」
満更でも無さそうに女装するルートくんの姿がそこに!
「・・・カツラ被るとマジでエレに似てるんだな」
「顔立ちは一緒ですからねぇ」
いつの間にやら居た太陽がエプロンをつけて立っていた。
そういえば夕食を頼んでいたんだった。すっかり忘れてたよごめんね。
「いや、咲良さんと一緒の共同作業が出来たのでこちらとしては捗りましたがね」
「いよっ、ラブラブだねぇ」
「HAHAHAもっと言って良いんですよ?」
「じゃあ言わない!」
「そりゃねえよ父っつぁん」
バカ話をしながらどたどたと家を歩き、執事の部屋にたどり着く。
「あ、ルート。最後の仕上げにこの薬を飲んでみなさい」
「はーい。ごくん」
「執事!ご要望のお嬢様だぜ!」
太陽がこしょこしょとルートに話しかける傍らパッチーは勢い良く執事の部屋のドアを開いた。
中には先ほどと同じようにベッドに横たわる執事と、その隣で看病をするダニの姿がある。
「・・・パッチー」
「お、看病ありがとうなダニ!」
「病龍が居るんだ。静かにしろ」
「はい、すみません・・・」
ちょいちょいと手招きされ顔面蒼白のパッチーを尻目にトテトテとルートが執事に走りよる。
台本はばっちりだ。
「・・・執事ちゃん!」
「・・・・・・ルート・・・お嬢様!?」
「一発でバレたと思ったらちょっと違う反応で困惑するルートでつ」
ガバっと起き上がった執事に困惑を隠せないルート。
太陽は部屋の前で爆笑している。
ダニに往復びんたを食らって相撲取りのような顔になっているパッチーは「はぶ、はぶ」としか喋れなくなっているため、ダニが変わりに周囲を眺めて状況を確認する。
「太陽、何をした?」
「擬似的に性別を変えるお薬がありましてな」
「把握した。おい、執事」
「ルート坊ちゃま・・・いえお嬢様、私はどうすれば」
「どうもしなくて良いから眠ってろ」
「た〜つ〜け〜て〜」
執事の胸元でもがくルートを力尽くで救出しながら、ダニは一つため息を吐いた。