薔薇に囲まれたある庭にて。
ベストに身を包んだ金髪の女性が、遠くを見るまなざしで呟く。
「地中にあるどこかの国には、それは詳細にお二人の軌跡をまとめた場所があるといいます。
しかしやはり、ここほどあの方の影が残っている場所はありませんね。
あそこの茂みなど、身をひそめていたエレ様の姿が見えるよう…」
それを聞くのは、赤い髪の少女。
レースのほどこされたブラウスをまとう、愛らしい少女。
「身をひそめていたなら見つかってはいけないのではないでしょうか」
うっとりとつぶやく自分のおせっかいおばさんこと執事に、ぼやく火乃香。
話を広げたわけではないので、あくまでこっそり。
そんなつぶやきは執事に聞こえるわけがないのだった。

そして小一時間後。
「…火乃香、大丈夫?」
「…ええ。いつものことですので」
ジョウロを片手に庭でたそがれる火乃香に、問いかける咲良。
少し前、彼女のもとに執事が訪れた―――強襲とも言っていい―――のは、知っている。
だから咲良は庭にあるテーブルにお茶を置き、用意したクッキーを並べる。
着々と進められるお茶会の準備に、火乃香はまなざしを和らげる。
その好意に甘えて腰を下ろしたころには、ポットからほのあまい茶の香り。
心なごませるその香りとともに目に入るのは、件のくさむら。
「あのあたりの草むらにお母様が隠れていたそうですね」
「ああ、あったな。そういうこと」
「懐かしそうに話す話題なんですね」
そんなことを聞かされてもどうすればいいのやら。
ある日を境にとんでもないことになっている日記を見たときに似た気持ちに、可憐な唇からため息が一つ。
そのスキのある姿に、咲良は笑う。苦く淡く、懐かしく。
「まあ、エレ嬢もあいつも色々伝説が残るやつだったから」
「伝説ですか」
「優雅っぽいのからそうじゃないのまで。ネタになるやつだったな」
「それは娘として誇るべきことかしら? 嘆くべきことかしら?」
「笑えばいいんじゃないかな」
冗談混じりのどこかできいたことのあるセリフ。
おどけたそれにふふふと笑って、カップを運ぶ火乃香。
薔薇に囲まれた美少女二人がお茶に興じる。
絵本めいたその光景は和やかに続く。
いつまでも続くかと思われたその光景は、しかし唐突に破られる。
「待たせたばーい!」
「待ってねぇ!」
「なぜ! もっと熱く! もっと熱くなるばい! フェレス!」
「意味がわからないこと言わないでくれよ!」
和やかとか優雅とかなにそれおいしいの。
そんな言葉がよく似合う二人が、68番地の前を走っていく。
性格には、一人が一人をかついで、どこまでも走っていく。
とても豪快だ。意味不明だ。
「…伝説というなら、あちらのほうがふさわしいかと思います」
「まあ…生ける伝説かもな。すでに」
離せくそ兄貴ぃいい!
悲痛な悲鳴は尾をひいて、しばらくあたりを漂う。
それが消えるよりはやく、二人はカップを口元に運んだ。
それもまた、朝色の町にはよくあることである。