びしょ濡れのTシャツ。
とある雨の日のこと。
某カフェへと向かう道を、フェレスはアランと二人、並んで歩いていた。
カフェで宴会している御主人様たちのお使いを任された、その復路なのである。
左側を歩くフェレスは左手に、右側を歩くアランは右手に、それぞれ違う柄の傘を差して。
アランは時々くるくると、水滴が飛ばない程度に、新しく買ってもらったばかりの傘を回す。
「今日はもう一日この天気かな」
「かもね。風も強いし、嵐になるかもね」
天気の話などしながら、黒い瞳が二対、くるりと動いて空を見る。
どんよりと重苦しい空。ざあざあと降りしきる雨。遠くでかすかに稲光が見える。
朝色の町の空は、いつもならば大小色とりどりの龍が飛び交っているのが見えるのだが、さすがに今日は数が少なかった。
フェレスの言う通り、どうやら嵐が近い。それを押して飛ぶ龍など風龍くらいだろう。
しかしその風龍たちも、雷がこちらにやってくる前に巣へ帰ろうと急いでいるように見えた。
「僕はそんなに嫌いじゃないんだけどね、嵐って」
呟くフェレス。
嵐が好きというより非日常感が嫌いじゃない。そう付け加えた。
ふーん、とアランは頷く。
「トゥエルヴ…姉さんも、嫌いじゃないらしい」
何故かトゥエルヴを名前で呼び、その後言い直すフェレス。
元は同一人物なだけに、扱いが難しい。
「そうなの?」
「まあ正確に言うとだね、気分によって好きになったり嫌いになったりしてるんだけどね、彼女」
「あー、まあ解る気も…」
出歩く予定がある日は雨は憎いが、家の中で眺めている分には雨は好き。
そういう者は決して少なくないだろうと思った。
「だけどね、風が吹くとね。
…女の子のスカートが捲れるじゃない」
「ぶっ!」
アランは吹き出した。
まあ、彼も姉の特殊な性癖はそれなりに把握してはいるのだが。
いるのだが…こんなときどんな顔していいかわからないの。
「まあそれも正確に言うと、女の子のパンツが見えることよりも、女の子がきゃーとかいってスカートを押さえるのがいいらしいんだけど。…どう思う?」
「こっちに振らないでほしいと思う」
あくまで淡々と語るフェレス。
背中に嫌な汗をかきはじめるアラン。
ただでさえその手の話題には余り耐性がないというのに、相手が兄弟となると尚更だ。
こんなときどんなことを言っていいかわからないの。
「笑えばいいと思うよ」
「心を読まないで」
「笑えばいいと思うよ」
「二回言わないで」
「それはともかく」
アランを混乱させておいて、「それはともかく」の一言で話題を転換させた。
少々釈然としないものを感じながらも、内心ほっとする。
「僕はそういうチラリズムよりも、濡れ透けにロマンを感じるんだよね」
「…………」
話題転換してなかった。
しかも風でスカートが、よりもディープな話になっている予感がする。
「こう…雨に降られた女の子が、Tシャツ…いや、ブラウスでもいいな。色は白に限る。こう、濡れた布が肌にはりつくエロス。濡れ髪っていうのもまたいいよね」
確実にディープな話になっている。
引いた筈の背中の汗がまた出始めた。
フェレスの方は変わらず淡々としているのがまたタチが悪い。
「そういう地味な違いを考えると、やっぱり違う存在なのかなあ、とか思ったりして」
「ああ、うん、違うと思うよ、多分」
色々と。
多分フェレス的にはアイデンティティというかなんというかそういう深い話題なのかもしれないが、エロスの趣向を例にして語られると、なんかこう、困る。
「アランは嵐にどんなエロスを見出すのかな」
「エロスを見出すの確定っ!?」
「アラン、こういう話題の時、あんまり叫ぶのはよくないと思うな。外だし」
「〜っ!」
騒がしい兄弟が二人並んで、雨の中を歩いていく。
今日の教訓1:エロスを感じるポイントは例え近しい間柄といっても個人それぞれ
今日の教訓2:暇だからといって弟を弄るのはやめましょう
トゥエルヴの弄りには(不本意ながら)慣れ始めているのだが、フェレスのそれにはどうも慣れていないアラン。
似ているようでポイントが違う(色々と)、元同一人物の兄姉に、やっぱり別人だ…との思いを強くする、とある雨の日の昼下がりだった。