※学園パロです。
愛さん=アプクピちゃんと脳内で変換してください。
13. まだ濡れたままのアスファルトの上を
某月某日。朝から降っていた雨が昼前に止んだので銀行に行った帰りの事。
遠くに想い人によく似た人が見えた気がしてちょっと気を緩めて居たら、不幸なことにひったくりにあった。
「まてっ!」
そう叫んで追いかけるが、待てと言われて待つ奴はいるわけもなく、運動の評価は並以下の自分の足ではあっという間に引き離されて行く。
よりにもよってお金を下ろした直後にというのは痛すぎる。今日は厄日だ、と心の中で毒づいた時。
「まーーーてーーーー!!」
聞きなれた声と、ひゅん、という音が耳を打ち、横を風が吹き抜ける。
「愛さんっ!?」
陸上部のホープである彼女の健脚は、雨上がりのアスファルトの上だろうと衰える事はないようだった。
パシャパシャと水たまりも蹴散らし、彼女はあっという間に犯人との距離を詰めていく。調理部員である自分が彼女に自分がかなうはずもないのは重々承知なのだが、こういう場合かなり情けなく思う。
「テル君の鞄返しなさーーーい!!」
その素晴らしいスピードのまま、僕の鞄をひったくり犯人の背中ににとび蹴りを仕掛ける姿を見て、こっそり心の中で犯人に合掌したのだった。
「本当にありがとうございました」
気絶した犯人を警察に引き渡した後。お腹がすいた、と困った顔で呟いた彼女をお礼にと言ってバイト先兼下宿先の喫茶店に連れて(というか引っ張って)行き、大盛りパスタとクラブサンドとサラダとポタージュスープをお礼の言葉と共に出す。
「ほ、本当にいいの?」
「ええ、遠慮なく食べてください。
今月の生活費を取りかえしてくれたんですから、これ位じゃ足りない位です。
食べてもらえないと逆に悲しいです」
料理と此方を見比べて、嬉しさと戸惑いが混じった表情をする愛さんにカウンター越しににっこりと笑顔を返す。
ここの店主である真夜に確認を取ったら笑顔で「原価で良いよ」と言われたので、懐的にも遠慮など不要なのだ本当に。
僕の言葉に、彼女の表情から戸惑いが消える。
「それじゃあ、遠慮なく。
いただきまーす」
行儀よく両手を合わせてそう言うと、クラブサンドを両手で持って、ぱく、と頬張る。
彼女の表情が、幸せそうに緩んだ。
「美味し〜い」
「それは良かったです」
パクパクと美味しそうに食べる彼女の姿は見ていて気持ちいい。クラブサンドを食べ終わると、次はパスタに口をつける。
「ベーコンとアスパラのパスタ好きでしたよね?」
「うん♪ 本当に美味し〜 幸せ〜」
……ついさっきまで「今日は厄日だ」と思っていたはずなのに。
「テル君の作るお料理は美味しくて全部大好き」
その言葉と彼女の幸せそうな笑顔に、現金にも「今日は良い日だ」と思うのだから自分は結構……いや、かなり単純だと思う。
「……ありがとう、ございます」
かろうじてそうとだけ返す。本当は「僕も美味しそうに食べるあなたが大好きです」位言えればいいのだけれど、そう言う言葉は殆ど胸とのどに詰まって口から出てくることは無い。
……恥ずかしくてそんな事など彼女には言えやしないのだ。
胸に満ちる幸せをかみしめながら、お土産用のミルクレープを作るべくクレープを量産したのだった。
おしまい。