貴方を一目見る度に、
頬は甘く綻びいく。
貴方を想えば想うほど、
蒼い空は眩しくて。
とても、幸せだった、けど。
けれどあの時、
離れゆく命を想うほど、
今日の心は雨降り模様。
だからずっと探してた。
貴方の笑う光景へと繋がる道を。
君の笑顔を見れば、空は晴れ渡るから。
台所から漂う、ふんわり優しく芳ばしい香り。甘い、焼き菓子の香り。
微かなそれに泣き声を上げるお腹を抱えながら、緑色の龍は脚を動かす。
ふらりふらり、その手が焼き立てのクッキーへと伸びかけ―――…
「アプエゲ」
尖った声と冷たい視線に、ぴくん、と立ち止まる。かと思えば伸びて、2、3枚さらっていく。皿ごと持っていかなかった辺りは、制止の効果かもしれない。
「
もごもごと名前を呼ばれた紫色の髪をした少女は、ゆるく息をつく。
そして、しかたないとばかりに肩をすくめると、テーブルに置いてあったひょいと大きな皿を差し出す。
「あんたにはこっち、よ」
口を動かしていた少年の顔がぱぁ、と輝く。
そうして、当然のようにそれを受け取り、山もりのクッキーをかぽかぽ口に放り込んでいく。
リーヴァは安堵したように息をつきながらも、手早く手を動かす。山もりのクッキー…とはいえ、大食漢の彼にかかれば3分と持たないことを、彼女はよく知っていた。
小奇麗な透明な袋に包まれた数枚のクッキーは、艶やかなリボンで閉じられて、柔らかな眼差しを受け止める。柔らかで、どこか熱っぽく―――なにより幸せそうな眼差しを。
それを横目に見ながら、アプエゲは早くも最後の数枚となったクッキーを口に放る。舌に触れるのは、柔らかな甘さ。さっくりと軽やかな感覚を楽しんだ後、ほのかに漂う優しい味わい。美味しい。
「これ、フェレスさんに?」
「そうよ?」
だから残しておいてね。微かな笑顔で暗にそう告げる彼女に、彼はとても残念だと感じた。もっと食べたい、とそう思う。
けれどそういうことならば、これを食べては悲しがるのだろう。自分の分にと用意された最後の一枚を食べながら、ぐっとそう言い聞かせる。ふらふらと伸びかける手も、意地で押さえた。
だって、今の彼女はとても幸せそうだ。
一時、どうにも辛そうな顔をしていた頃があるから、それを大切にしなければいけないのだな、と思っている。
ある目的からダークデビラゴスを探していた一時、彼女は幸せそうには見えなかったから。
「見ててもこれは駄目よ」
「えー」
だから、不満を素直に口にしながらも、思っている。
きっと、今、とても幸せなのだろう、と。
大食漢を通り越してもはやフードプロセッサー…―――否、食べ物のみがその食欲の対象ではないから、それすらも正確ではない―――からクッキーを無事に守りきったリーヴァは、笑顔で道を歩く。
彼女の主人と浅からぬ仲を持つ少女の家に―――彼女にとっては、想い人の暮らす家に。
こうして訪ねていけるのは、とても幸せなことだ。
その想いをかみしめて、彼女はきゅっとクッキーを胸の中に軽く抱いた。
はじまりは、酷い言葉をぶつけてしまった。
けれどこの想いを自覚してからというもの、顔を見ると、胸が高鳴った。
声を聞ければ、甘い幸福が顔をほころばせた。
恋はとても辛いけれど。それでも、幸福だから。
とても幸せで―――幸せだった。なのに。
なのに。ある日、彼の命が―――存在が危いことが分かって。
また失うのかと、恐怖した。
その時の悲しさは、なにごとにも例えがたい。
もう、失うのは嫌。
強く強くそう思い、救う手段を探して―――今、彼を失わずにすんだ。
それが自分の努力が実った結果とは言い難い。彼を失わずに済んだのは、もっと多くの善意―――否、彼を失いたくないという気持ちが重なった結果なのだから。
だから今、ただこの幸福に感謝する。想い人がそこにいて、言葉をかわせる事実に、感謝する。
だから、飛び切りの笑顔を浮かべておこう。
万感の思いをこめて、笑っておこう。
思い、彼女は笑みを浮かべる。
視線の先にある薔薇に囲まれた庭は、日差しを浴びてきらきらと輝いていた。