「虹の〜真下で〜願うと〜願いがかなうんだよ〜」
願いがかなうという事より、そう教えてくれた時の柔らかい笑顔が強く印象に残っている、と言ったら貴女は怒りますか?


10.虹の真下まで、走ろう!


「虹が出たみたいですよ」
「本当〜?」
エレノアさんにそう伝えると、彼女の表情が明るくなりました。
ほわり、と柔らかい笑顔を浮かべると、ゆったりと――彼女にしては早いスピードで――立ち上がっり、ぱた、ぱた、とこちらに歩いてきました。
そんな彼女の手をとり外へと出ます。
「また行くの?」
「行ってらっしゃ〜い」
途中で出会ったテルとアプクピさんに手を振り、手をつないで大きな扉を開けて外へと出かけます。
扉の外は、短い丈の草が先程まで降っていた雨粒を乗せてきらきらと輝いていました。
「今度こそ行けるかな〜」
「行けると良いですね」
楽しそうに、歌うように言うエレノアさんに、俺もいつものように返します。
うふふ、と楽しそうに笑うエレノアさんは、いつもより早いスピードで歩いています。
彼女的には走っているつもりだそうなのですが、コンパスの差か歩くスピードの差か俺にとっては早く歩く程度のスピードです。
「虹の下で何をお願いするんですが?」
「内緒〜」
このやり取りもいつもの事です。エレノアさんは彼女の願いを教えてくれません。
彼女の願いはなんでも叶えるつもりなのですが、何度聞いても教えてくれないので少し寂しいです。
「あ〜!」
エレノアさんが大きな声を上げます。
彼女の視線を追えば、虹が少しずつ消えつつありました。
エレノアさんの走るスピードが上がります。
そうなると俺も自然と早歩きから小走りに変わり、二人で虹に向かって走り続けます。
ですが、虹は見る見るうちに端から消えていき……とうとう見えなくなってしまいました。
「消えちゃった〜」
「また次のチャンスがありますよ」
残念そうに呟くエレノアさんの頭を撫でて慰める。
「俺達には、時間はたっぷりあるのですから」
そう言って、エレノアさんの手をとる。
「さあ、(うえ)に帰りましょう」

* * *


「あ……」
「どうしたの、アニス」
傍から聞こえた声に名を呼ぶと、アニスは天を見上げたまま残念そうに言う。
「虹消えちゃったな、と思って」
「アニスもエレノア嬢みたいに虹の下でお願いしたいの?」
「ううん、そっちじゃなくて……虹は魂が天に昇る道なんでしょう?
 逆に降りてこられないかなあって」
「そっか……」
アニスの頭をそっと撫でる。アニスは甘えるように此方にもたれてくると小さな声で呟いた。
「母様は虹の下で何を願いたかったのかな……」
「ん〜…
 エレノア嬢から内緒って言われていたけど。クロじゃないから良いか」
少しかがんでアニスの耳に口元を寄せ、小さな声で耳打ちする。
「『次はクロさんと子供達と一緒に暮らせますように』」
アニスは目を丸くして此方を見る。
そんなアニスの頭をわしわし、と撫でてウインクを一つ。
「おとーさんには、ナイショだよ?」



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