なんでバレた
それは唐突な出会いだった。
「「あ…」」
お化けや魔女の扮装仮装した子供たちで賑わうハロウィンの朝町中央広場。
催し物として、カーニバルに屋台に商店街主催のくじびきが行われる広場には不似合いな気まずい声が同時に声が重なる
「!?……なんで、お前がここに?」
先にうろたえた様子で口を開くのは光龍、メー。
「それは、ボクの方の台詞ですよ……」
じりじりと後ずさりをしながら目を泳がせているのは、ちょうど布を被ったお化けの格好の見慣れない子供(すでに顔見知りの龍の子供たちにはお菓子を配る試みはしていた)にお菓子を上げようと手に抱える紙袋を開けていたスーツ姿の地龍、ダージリン。
「たまたま広場に来たと思ったら、なぜメーさんが……ああ」
ダージリンの頭にひらめいたのは、既にそのメーの服装が大体の理由を物語っているからに他ならなかった。
「っって、お前これは磨智が今日はそういう日だからって……違う!俺がここにいるのは小町を見たからだ」
触れてほしくないポイントに触れたことに気がついて、魔女の格好をしている銀髪の光龍――メーの眦が大きく上がる
しかし、その後半に出てきた言葉は意外なものだった。
「……え!?小町サン?」
ダージリンの目の前のメーの格好――いわゆる魔女(っ子?)の格好はやはり磨智にさせられたもののようだったが、広場にいた理由は別のものだったようだ。
「小町サン、ここに来てたの?最近あちこち森の中回ってたそうだけど」
風矢サンと一緒に……と何故か気まずそうに照れ、顔を紙袋で半分隠そうとするダージリン。ちなみにお菓子を上げようとしていた白い布を被った子供はいつの間にか消えたようにいなくなっていた。
「ん?知ってるのか?小町と風矢が最近なにしてるのか?」
今度は逆に意外そうな顔をするメー。
「知ってるもなにも……」
紙袋で半分顔を隠したまま、視線をあさってに向けるダージリン。
彼女にとっても。と言うより彼女の身内に先日少々のことがあったのである。
「……直に会ったわけじゃないんですけどね。ただ小町サンと風矢サンが一緒にいる時に乾クンが色々と二人のデートに水を挿したとか……」
今の時期は色々と現れるものがあるらしいそうですけど。と、つけくわえた上で、ため息を吐く。
「まあ……だからその、ここに来たのはなぜかその小町をさっき見たからだ。で、そしたらお前がさっきお菓子を上げてた子が俺の格好を見てついて来たから」
気がついたらここに来てたんだよ。と釈然としない様子で言うメー。
「え?あの子を?そして……その。小町サンを?」
ああ、あいつ何故かお菓子貰おうとするだけで受け取らなかったんだけど。と言葉の最後にメーは付け加えて。
「で、お前のほうは結局なんでここに。……ああ、ひょっとして『それ』か?」
「え?」
そう言われてメーの前のめりの目線に気づく。
ついさっきメーと顔を合わせる前に子供にお菓子を上げようとしたときに開いた袋の口が(スルーされたが)丸見えになっていた。
「!!??……わわわっ!?いや、これは……」
袋の隙間から覗く、並んだ本の帯には『葉隠』、『菊と刀』『オイラーの多面定理』と言った仰々しい(?)タイトルが並んでいる。
「それ、お前の趣味なのか?」
「ち、違うって一緒に住んでいる相手から買って来てって頼まれたんだよ?」
こんなのはボクの趣味じゃないから取り乱して強調するダージリン。
「ふうん……?」
まあ、確かに幾らなんでも異国のと言うより武器や何やら理数系の知識のことが書いてある本は目の前の地龍の好む地龍ではないだろうとメーも思う。
マスターかあの浮世離れした闇龍の少女のことか。それにしては一緒にいる子って言っていたので、まだメーの面識のない誰かなのかもしれない
「それにそのお菓子、『ヘブンズ・レイ』のだろ?」
その言葉でダージリンの自我が一段階飛ぶ。大きく動揺する横に『ピョ』と言った小鳥の鳴き声みたいな擬音が浮かびそうな感じだ。
「わわわ――!!!こ……れ……はー!!?」
「あー、例の店で買ったのかよ、うまいもんな」
以前ヘブンズ・レイと言う磨智に食べさせてもらった評判の菓子店のことを覚えていたメーにとっても、その『目的』は充分に理解できた。
「だから、こいつ買ったついでにくじ引きをしたいってことなんだろ?」
メーは横目伝いに商店街の主催で行われている商品を買ってのくじびきが行われている屋台を促す。
当りで出るのはいずれも真新しい髪飾りやら人形やら。
「い、いや」
悪気のないメーに取り繕うこともできず、しぶしぶダージリンは認める。
「まあ、このくじ引くための券をてにしちゃったからね……」
本当は色々と家のものにごねて買い物の代理などをして入手した券を取り出す。
「それなら引けばいいじゃん」
「まあ……当たればの話なんだけどね……」
「いえ、大宇宙の意思はその券を使うように仰せです」
二人の間を挟むように涼やかな声がした。その音色は会話の最中の二人を黙らせるには十分すぎるほどだ。
「小町?」
小町サン?」
そこに唐突に現れたのは、さっき噂にのぼっていた小町の姿。
「その券を使って使ってくじを引ようにと大宇宙の意思の仰せです」
まるで表情のない整った顔はどちらに言うでもなく粛々と『お告げ』のことを口にする。
そこで、驚く二人に初めて申し訳なさそうな表情を作り。
「そこで……大変申し上げにくいお願いあるのですが……」
すっかり日の暮れた森の中、おいしげる葉が風でざわめき、空には星が浮かんでいる。
その周囲には光龍と風龍の男女以外は見当たらない。
「それにしても」
寄り添うようにして傍に立つ風矢は少しだけ笑ってまるで耳打ちするように言う
「昼間は心配しましたよ、急に小町さんいなくなるんだから」
なにもない空間の前で立っている少女の表情が少しだけ曇る。
「私、やっぱり身勝手な行動で風矢さんを困らせてしまったでしょうか?」
唇をほんの僅かこわばらせて小町の視線が風矢に訴えるかのように動く。
「いえ、びっくりしましたけれど……それのためだったんですね」
一旦小町に微笑んだ風矢の目の向く先。小町の手元にあるのはくじであたった真新しい髪飾りと一つの錆びた髪飾り。
小町はくじびきでそれを当てる代わりに交換条件として二人に自分の知っている甘味処の会員権を与えることで髪飾りを譲ってもらうように提案し、メーとダージリンはそれを承諾した。大きな魔女の格好をしていることと、くじ引きの券を手にしているということで今回はその二人も『大宇宙の意志』の宣託に入っていたからだった。
「今日は子供たちの集まる日でもありましたから。『向こう』と境界が薄れる日はこうして出てきてしまうのです」
それはどうやら、この間から小町の主人や大商人の真夜とも少なからず因縁のできている『あの子』のことを挿しているらしかった。
ハロウィン、この世ならぬものとの繋がりが強まる日。『それ』が子供ならこっそり昼間に紛れているのもおかしくないもしれない。自分の恋人がどうやら以前から見えているらしい『それ』のためにくじをひいてあげようとしていたのだった。
「だけれども」
いったん、今回のことは一段落がついたとはいえ、風矢の中には自分以外の誰かにかまっていたのが平気だったわけじゃない。
だから、風矢をそっと小町の手から髪飾りを取って言う。
「小町さん」
もう一度小町の目の前で微笑んだ風矢は言う。
「え?」
きょとんと眉をひそめる小町の前で。
「君にも見て欲しいものはあるんですよ」
そういって風矢は小町の髪に髪飾りを飾った。