空を見上げれば、青い空。
耳に聞こえるのは、どこからか流れる川のせせらぎ。
いい天気だなあ…
和む私は、その気持ちのままお弁当箱を広げる。
ああ、本当に。良い天気だ。本当に、良い日だ。
よい、お弁当日和だ。
切り株にこしかけ、そんなことを思う。
…と、後ろから音がした。
教訓「他人の言葉を簡単に信じてはいけません」
ふりむくと、金髪の少女と目が合った。
「おお。かなたか」
ああ、乃亜さんも探索ですか?
朗らかっぽく笑う彼女に、私はそう声を返そうとした。
したんだけど。
ぐー、と。
彼女のおなかのあたりから響いた不穏な音が、私の喉を凍らせる。
「――――あげませんよ!?」
「そうか。わかった」
あっさりと頷かれて、う、とうめきそうになる。
とっさにしまおうとしたお弁当箱が重い。
いや。偶然会ったからってあげないよ。きりがないもの。きりがないもの。
けれどこう。けれどこう。
「極限状態ならいざしらず、今は平時。わしとて他人の飯を略奪する気はないからな! シュッセバライも相手がよしといわねばダメなのだろう!」
けれどこう。いい子な返事をされるとこう。
こ、こう……
ぐー、とまた音がした。
乃亜さんは、最近こしてきた…アプエゲ君2号というか食欲大魔神というか、かわいいけど食べる量可愛くない系女子で…
度々たかられ…お財布的に切ない思いはしているけど…
こう…おなかがすいているけど今から狩りだー、って時にあって、私だけおっきめのお弁当箱を持っていると……こう………!
う。ううう。う。うー。みたいな! 言葉にできないよ!
「…は、ハンバーグ一個だけですからね!」
「よいのか!」
わあいい笑顔ー。おいちゃんいっぱいあげちゃうぞー。
と、冗談でも言えないあたりがつらいところだ。
いっぱいあげたら私のぶんは残らないだろう。多分きっとメイビー。いや、確実にな!
痛む頭を押さえる間にも、乃亜さんはフォークで刺したミニハンバーグにいい笑顔を向ける。
うーん。いい笑顔だ。本当に。
だから邪険にできないねえー。自分のご飯の確保とはらぺこな隣人さんのご飯。どちらも大事にしなきゃいけないのがつらいところだぜ!
なんて。思っていたのだけれども。
パクンとハンバーグを口の中にほうった乃亜さんの表情が変わる。
とってもとっても微妙な感じ。
…な、なにごと!?
乃亜さんは肉が好き。そして緋那の作ってくれたハンバーグは美味しい。今日は豆腐も入って、ちょっぴりヘルシーあっさり目なのも、またぐっと。
……ん、豆腐?
「…乃亜さん、お豆腐嫌いですか?」
「オトウフとは…なんだ?」
「えっと、豆をいろいろした…まあ、豆ですね」
「肉では…ないのか…」
しょ、しょんぼりしていらっしゃる!
しんなりしていらっしゃる!
うわああ。なんつーか…え、マジでぇ…?
「………乃、乃亜さん」
「うむ…?」
「こっちはソーセージだよー。タコさんウィンナーだよー?」
「肉か!」
「肉です!」
力強く保障してあげれば、ぱあああと輝くお顔。
ぐっとほだされそうな気持ちを抑えて、一個だけですからね!と付け足したのは、いうまでもないのでした!
○おまけ
「緋那ぁー。おなかへったああ」
「帰るなりなんだ。だらしがない。お前今朝弁当作ってた、というか。風矢のつくったのパクったり昨日の残りつめたりしただろう」
「したけどぉー。私意思弱いからぁー」
「かなた。だらだら喋るな」
「ご飯……」
「つ、作るから。今作ってるから。ちゃんと着替えてきなさい」
「う。うう…でもわが人生に大した悔いなしなんだよ緋那ちゃんや…なぜならかわいいは…正義なんだ……」
「かなた…そうか。ひもじいのがそんなにつらいのか…こんな、いつにもましてあほに…」
「可愛そうな目でみないでよ!?」