ここ最近朝町に出来た仕立て屋の中。
奇麗に飾り付けられた店内で、黄色のリボンを頭のてっぺんで結んだ少女が、目まぐるしく仕立て生地を切っては頼まれた服を作り上げていく。
常人の倍の量の仕事を一度にこなす店主であるその少女。そういう表現はこの場合一切の比喩はない。
「ピオニアさん、さすが仕事速いですねえ」
カウンター越しでその光景を目にしていた、短い茶髪の地龍は感嘆の声を挙げる。
「いえ、このくらいはお安い御用ですよ?」
器用によどみなく交互に動く6本の手を動かしたまま、仕立て屋の少女ピオニアは外れにある教会に住むスーツ姿の少女に微笑んだ。
「朝町で服を作ってくれるお店や売ってくれるお店はもちろん前からありましたけどね。こうして仕立てのお仕事をきっちりやってくれる人が新しく増えたのはボクも本当に助かりますよ」
今日ここに仕立ての仕事を持ち込んできたのは、他でもないダージリン自身だった。あまり服飾関係の店に直接足を運ぶほうではないダージリンだったが、いつも着用しているスーツの補修に関しては意外と気を使っている。新しい仕立て屋の情報を聞いてすぐにカフェで声をかけたのだった。
「でも、ダージリンさん」
ピオニアはミシンをかける手を寸分狂わせることなくそのままに、目線だけをダージリンに向けて質問する。
「この服はいったいどなたのなんです?」
「う〜ん……??
ダージリンは頬を人差し指で目を上向きに泳がせた。返事に困った者特有の仕草だ。
「乾さんにしては小さすぎるし、あのもう片方一緒にいる龍の服でもないですし……大きさで言えば……子供用みたいな」
確かに今ピオニアが仕立てようとしている服は奇妙なものだった、袖も上下も完全に一体化したようなのっぺりした服で、おまけに随分とサイズが小さい。まるで子供の体格に合わせたかのようだ。
「なんて……いうかな。ボクは乾クン……ああ、その一緒にいるシワコさんもね。とパッチーさんや乃亜さんたちとお肉に誘われてるんです」
短く切った茶髪の髪の下の顔を困惑の色に染め、歯切れ悪く質問の答えを探すダージリン。
「とりあえずは……この町って本当に色んな人や種族が一緒になってますよね……」
「?それは本当にこの町の不思議なところですけどね。私もここに来たばかりですけど、驚くことだらけですし」
うねうねとミシンから離れている方の手を動かしながら、ピオニアは同意するジェスチャーをしてみせる。
「うん、空飛ぶことや珍しい魔法も。驚くほど進んだ機械も。ボクらみたいな龍と人が一緒にいることもね」
「本当に不思議な町です」
そう言いつつ、ピオニアの仕事は終わりに近づいていた。
「実は、そこでちょっと会う人のための服なんだそれ。ボクはピオニアサンのお店に興味あったし、行く口実ついでにって思って……」
「まあ、そうだったんですね。またお仕事にはいつでも来てください」
ピオニアはその後、品物と会計をまた6本の腕で器用にこなし、ダージリンを見送った。
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「おお、遅かったではないか」
ダージリンの姿を確認した乃亜が声を挙げる。既にウサギの絵がプリントされたエプロンをつけたダニを中心に焼肉の用意をした面々が集まっていた。
「主、そろそろ新しい肉が焼きあがるが……俺の分も残してくれると助かる。きわの部分が食いたい」
ダニの横でやはりエプロン姿の二ウロの声に振り向く乃亜と一緒になるように、ダージリンはようやく注文された袋を依頼者であるパッチーの契約龍に手渡しに向かう。
「ダニサン。これ、ピオニアさんのところで仕立ててもらったよ。これでパッチーサン返して貰えると……たぶん思う」
「うむ、ご苦労だったな、済まない」
落ち着いた声で短く労いの言葉を言うと、そしてダニは僅かにため息を津きながら問題の主と……その主と一緒にいるある集団の方を振り返った。
「まったく、いくら朝町がなんでもありな町とはいえ」
「ボク、昔故郷に住んでたときに聞いたことあります。飛行船と全然違った鉄の円盤の話…」
「のう、あれは美味いのか?」
「背が低いけど、発育不良の種族なのかな?」
「辺に波風立てることあらへん、丸く治められるならそうしとくべきどす」
周りの視線が一同向かう先、焼肉の最中に降りてきた空飛ぶ円盤にぶつかってその時服が破けたのを怒ったのか降りてきた小柄な一体化した服の一段に掴まってもがくパッチーの姿があった。