平和な日常だ
そう、何気ないやりとりでそれを感じると気軽。
『ねえねえねえねえ!』
「フェレース!」
「ん?」
少し遠くから響く姉の声……正確には姉ではないが、まあ本人が姉というところをかなり強調していたので尊重しよう。
決して、決して連続三回も弟だ姉だ他人だ自分だという、実に不毛で実に無駄な言い合いに負けているからではない。
兄弟間にもあるちょっとした、大人になるというやつだ。
68番地に何かのついで…と言うより、僕目的で来たのだろう。
朱音さんの所で買ってきたと思わえるケーキ箱を右手に、走ってくる。
白いワンピースに、麦わら帽子という、すごく清純系女子の風体で、
キラキラという効果音をどこからかつけての登場だ。
持っているケーキ箱が相まってまるで、何かのワンシーンのようだ。惚れはしないけど。
……ケーキ箱が地面と平行になったまま、左右に全く揺れない理由は今は考えないでおく。
一緒にいた火乃香が見てはいけない物を見てしまったかのように…いや、実際に「うわっ」と言いつつ顔を背ける。
と言うか、背ける際になぜ僕を見た…目が「この人も元々あれなんですよね」ってものすごく言っていたのは気のせいだよね?
姉…トゥエルヴはその状態を維持したまま僕の間近まで走ってきて……
「フェレス!」
「なに?……姉さん」
「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ!」
「…で、なに?」
「さて何回言ったでしょうか」
ねえを何回も続けていった後、すごく真剣な顔でそう言い切った彼女に、
僕の頭は真っ白になった。
「……姉さん?」
「ねえ何回言った?ねえねえ!」
明らかに、答えなければその先は聞く気ありません!という顔で、
期待を込めた目が僕を覗いてくる。
ああ、もう…僕は目を閉じて、さっきのセリフを数える。
「……12回」
「英語で言うと?」
「…姉さん、英語ってこの世界だとないはずの言語じゃ…」
「メタイことはどうでもいいから、さっさと答えなさい」
こうなると、完全に面倒な人でしかない。だが、仕方ない。
一つため息を吐くとともに…
「トゥエルヴ」
「さんをつけてー」
「…個数に「さん」っておかしくない?」
「…あ゛?」
明らかに女性が出してはいけない声出しつつ、メンチを切ってくる姉(元同一人物)から目をそらせて、
仕方なく僕は指示通りに言葉を続ける。
「トゥエルヴさん」
「さまをつけてー」
「…トゥエルヴサマー…」
「…なんか、季節と一緒にされたような気がするけど、まあいいわ」
ようやく満足したのか、姉はニッコリと満面の笑顔を浮かべ、
ケーキ箱を火乃香の方にそっと置き、
「はっずれーイエーイっ!」
すっごく嬉しそうな顔をしたまま、そう言って走り去っていった。
「……は?」
走り去っていった姉の姿。
すごく楽しそうなその後姿を見つつ首を傾げる。
数え間違え?
いや、29行目を再度見返してみても、12回しか「ねえ」を言っていない。
なのに…ハズレ?
「え?えっ?えっ?」
だったら何回が正しいんだよ、という言葉や、
そもそも数えていたのか?という投げかけをすることすら、今や対象がいないのでできない。
と、ケーキの箱を開けて中身を確認し、カステラの蜂蜜ソースがけをちゃっかりキープした火乃香が「ああ」という声を漏らした。
「そういうことですか、リーヴァさん」
そう言いつつ、指を鳴らせば現れる125番地の闇竜の姿。
いつの間にか火乃香と僕との間の椅子に彼女は座ってカステラのチョコレートソースがけをお皿に出している。
箱を除けば最後の一つはカステラのホイップクリーム載せ…
一応姉さんは、お茶会メンバーのことを考えて買ってきてくれていたらしい。
なんとなく納得行かず、取り敢えず椅子に座り、
「火乃香はなんのことだか分かったの?」
「まあ、おおよそは…誰が最初ですか?あれ」
なんでわかんないんですかという顔を浮かべつつ、火乃香がリーヴァさんに話しかける。
リーヴァさんは、苦笑を浮かべつつ、
「メフィストさんからで、種明かしして頂いてから目が輝いていたんで、もしやと思ったんですけどね」
ほんとにやるとは思ってませんでしたと言って、彼女は僕にお茶を注ぎ、火乃香にもお茶を注ぐ。
「正解は15回ですね」
「ええ…正確には「言った回数は12回、全部で15回」が完全回答かと……」
そこまで言われて…あっと気づく。
「ああああああ!」
そう、そういえば、言っていた……何回かを聞くタイミングで…ワザワザ「ねえ」をつけていた。
「2段構えってことですね。どうやっても当たらないように、当てられても正確に言ってこなかった相手にはハズレというために」
「ちなみにトゥエルヴさんは、純粋に最初数を間違えておられて、メフィストさんに遊びにならんよーって怒られてました」
つまりは、ほんとにしょうもない遊び…ねえを連続して言ったあとに、ねえをつけることで、数をごまかしすそんな遊び。
なんだ?っと崩れ落ちつつ、ちょっとしたしてやられた感。
ちょっとした遊びで、ほんと平和なことを実感させるそれを……
「…ちょっと出かけてくる」
「はいはい、いってらっしゃーい」
「がんばってくださいねー」
女性二人に見送られて、この気持ちを共有、もとい押し付けるために僕はカステラをかきこんだのだった。
フェレスがカステラを食べきって出かけて数分後、女同士のおしゃべりが一段落ついて、ふとリーヴァが言った。
「でも、フェレスさん。「さん」をつけてってヒントまでもらっていたのに…」
「…え?あれ、ヒントだったんですか?」
「えっ?違いますかね?」
「……」
火乃香は、そこから偶然だたのか必然だったのか数時間悩むこととなってしまった。
そんなほんとに、平和な午後。