夏だ。
「山だ!」
「川だ!」
「遭難だ!」
はい、お約束。


夢オチを希望します


「何回目ですかね、こういうの」
朱音は言う。
川魚に手際よく串を刺しながら。
「ふふ…朱音さんは今までに食べたパンの数を覚えているんですか?」
かなたは言う。
串に刺された魚を焚火の周りに並べながら。
「町に来てから結構食べましたからちょっと難しいですかねえ」
「ま…町に来る前は覚えていたというのか!」
「…朱音さんの故郷が麺派かコメ派である可能性が微粒子レベルで存在している」
羽堂は言う。
特になにもせずに。
…魚の調理が苦手なのである。
「羽堂さんとこって主食何でした?」
「パン…とおいもさんかなあ。町来てからはパンばっかですけど」
「おいもさんって響きがなんかかわいい」
どうでもいい話題で盛り上がる女子三名。
現実逃避…ではなく、純粋に落ち着いている。
「練った小麦粉を粒にしておコメみたいにして食べるところもあるみたいですね」
「なにそれすごい大変そう」
「食事の準備で一日終わりそう…」
「咲良にやらせたら晩御飯の時には軽く手が麻痺してて」
「鬼だこの人!いやエルフ!」
「素直にやる咲良さんかわいい!」
「あんた咲良ならなんでもいいのか!」
「本気で割となんでもいい!」
「駄目だこの人!いや人!?」
ぎゃーすかぎゃーぎゃー。
女三人寄れば、の言葉の通り、散々盛り上がった後…ふっと沈黙が訪れる。
羽堂と朱音を見るかなた。
朱音とかなたを見る羽堂。
かなたと羽堂を見る朱音。
「…そんで、どうします、これから?」
「多分一時間程すればけろっと戻ってくるとは思うんですけどねえ。本当遭難自体は何回目だって感じなんで」
「遭難しないのがこれほど不安なものだとは思いませんでした」
「うん…まさか…
 水を汲みに行ったパッチーさんが脚を滑らせて
 転んだパッチーさんが咄嗟に魚釣りしてたイソレナさんの足を掴み
 イソレナさんの釣り針が乾さんの服をひっかけ
 乾さんが持っていたビーフジャーキーに乃亜さんが飛びつき
 乃亜さんが食べ物を根こそぎ食べないように見張っていた真夜さんが乃亜さんをつかみ
 なんだかよくわからないけどなんかしなければならない気がしたピオニアさんが真夜さんを捕まえ
 それで全員流れていってしまうとは…」
再びの沈黙。
「…すっごい説明的なセリフですね羽堂さん」
「…なんかあんまりにもあんまりなのでもう一度繰り返してみたくなって」
「…なんか、巻き込まれなかった私たちがすごい薄情みたいじゃないですか」
「…なんかのネタかと思って指さして笑って見送っちゃったんですよ私」
「…ああ…私も…指さしはしなかったけど…」
「…………」
溜息。
「…夢オチだといいんだけどなあ」
なんとはなしに空を仰ぐ三人。
青空が目に眩しくて、涙が出そうだった。
そんなとある夏の日の、実によくある出来事である。



追記
十五分後に全員無傷で帰ってきた。



back