「まあ、上がってよ。辺鄙なところだけど。お茶くらいは出すよ?」
軋んだ音を立てながら。錆びの浮かんだ鉄門がゆっくり開いていく。
ダージリンの目の前にいるのは、先日お世話になったばかりのピオニア宅のベル。
――
――
――
そんなベルは少し前にも、購入した主と自分の分の食材を抱えての外れを歩いていた。いつもと違い食材を手に町外れの方の草原に足を向けた理由は他でもない主のためによりよい物を提供したかったからだった。
「あら?」
ベルはそこで足を止める。それは自分の前にある人の姿と自分と似た気配――龍の気配を感じたから。
「ん?」
目の前の小柄な龍も背後の気配に気づいたのか、後ろを振り向く。
蒼い目をした少女の顔が覗く。『覗く』という表現になったのは他でもない。
その小柄な少女の姿をした龍は、金色の長い髪の上に網目模様の帽子と呼ぶにはやたら大きなもので覆うと言った表現がふさわしいものを着用していたからだ
「これはこれは面妖な?こんな辺鄙なとこに用ですかな?」
ちょこんと自分の頭の倍近くもあるような編み笠を外して、その龍は頭を下げる。ワイシャツにスカートの格好とにミスマッチな取り合わせの龍にベルもまた丁寧に挨拶をした。
「あ、いえいえ。こちらこそ。実はこの辺でよいスパイスが取れると言うお話を聞きまして」
「?!これは新参の方ですか?いえ、そういう私も中々出不精なものでして」
龍は編み笠を外すとベルに近づいてきた。その編み笠が僅かにほつれているのにベルの目は気づく。
「はい。私はこの間から仕立て屋を始めたピオニアというところの龍でベルと言います」
「ピオニア……ああ!」
そこで龍は何かに気づいたように大きく蒼い目を開いた。
「これは失礼!先に名前を名乗るべきでした。私は――」
――
――
――
「まさか、ベルサンにペーシェンスがお世話になってたとは思いませんでした」
至和子と乾がちょうど不在だったため、棚から取り出した紅茶とカステラを自分で盆に振り分けたダージリンが、それをベルと乾宅を共にする同居者――光龍ペーシェンスに配りながらそう話題を切り出した。
「私もまさかスパイスを採りに行ったところでダージリンさんのお友達に会うとは思いませんでしたので」
「お友達……と言いますか……」
カップを傾けながら、おっとりとした仕草でそう微笑むベルとその『友人』と評された光龍を交互に見比べながら、下げた盆を胸にダージリンは困り顔になった。
「人は知遇を得るものですからね、苦手な者なのは仕方がありゃせん」
指でここに来る途中、ベルの紹介でピオニアに補修してもらった愛用の三度笠を弾くとペーシェンスはおもむろに立ち上がって笑顔でダージリンの傍に歩みよる。
「ペーシェンス??」
「お陰でダージリンが欲しがってたの、殿のばれないように持ってこれましたよ?」
「ええ?」
「この間からうずうずしてたの誤魔化しきれてなかったですよ?」
自分より長身のダージリンに目線を上げる形になって耳元でそう呟くペーシェンスが、ピオニアに縫ってもらったハンカチの包みを手渡そうとしているのに、身を引いたダージリンが気づくのはすぐだった。
「アッシには関係ねえこって!!」
「??そう言えば、ペーシェンスさん、さっきもスパイスのことを教えて頂いたときにそう口にしてましたけど……それは一体どういう意味なんですか?」
笑顔のまま眉を下げて小首をかしげるベルを目にして、今度こそダージリンはこの同居者の口癖にため息をつく
「それ、ツンデレの言葉じゃないよ」
久しぶりに交わしたダージリンとの乾宅での定番のやり取りに、ペーシェンスは笑顔のまま舌をぺろりと出した。