「男には逃げちゃいけない時があるらしいっすね」
「男らしいって素敵だと思います」

砂浜の上に立つふんどし男の肩を叩きながら、イソレナは荒れ狂う海を眺める。 にゅーにゅーと吹き荒れる風と、青というよりむしろ黒い海。季節は冬真っ盛り。雪こそ見えないが、風とともに体を打つ海水が海の冷たさを教えてくれる。
さて。どうしてこのふんどし男またの名をパッチーがふんどし一丁で真冬の海に挑むことになったのかというと。
まあ平たく言えばノリである。

「どうして俺はあの時『じゃあ負けた奴海ね☆』なんて言ってしまったんだ!」
「真冬に海は死ねますねー。ははっ」

仁義無き野球拳にて敗北の味を知ったパッチーは準備万端の水龍さん(ダニルウ)に連れられ、「死にたくないー!逝きたくなーい!」と叫びながら海の中へ旅立っていった。

「無茶しやがって……」
「乾さん、奴は我ら四天王最弱の小物ですから」
「あ。そっちでしたね」
「四天王の面汚しめ!ですね!」

遠くで波打ち際を跳ね回る肌色の物体を眺めながら、決められた台詞を思い思いに語る。
彼らがなぜこのような特訓をしているのか。
話は数時間前にさかのぼる。



その日。戦闘大好きサークル『殴り愛』の第2回会合が暗号名『カフェ』で開かれていた。
殴り愛随一の実力者イソレナ(プロマイド好評販売中)、殺戮神父として名高い月読乾(恋人募集中)、魔法少女戦士かなた(リアン)に、発起人であるパッチーを合わせた全メンバー4名はこの日、初めて会合に集結した。最初に発起人であるパッチーが立ち上がり、彼らに向かって話した演説は伝説に残るだろうが割愛しておく。
そしてパッチーが席に着いた時、会合は最初の難関に当たることになった。

「まず、我々の最初の課題だが」
「殴り合う以外になんかあるんですか?」
「………次に当面の目標だが」
「…………殴り合う以外にあるんですか?」
「……………………」
「…………………………」

―――大変見苦しい所をお見せして申し訳ありません。暫くお待ちください―――

「まず最初に。現状、これ以上の人数増加が見込めないという我が組織最大の弱点について考えましょう」
「やりなおした……」
「何事も無かったかのようにテイク2.そこにシビれ(ry」
「弱点って。これ以上人数いるんですか?」
「やはり現状村で戦闘しててもメリットがあんまり無いことがあげられる」
「「「スルー!?」」」

3人分の突っ込み力でも足りないとは。と驚愕する3人を尻目に、パッチーは小さめのホワイトボードっぽい何かを取り出し、テーブルの中央に置く。

「そのデメリットを上回るメリットが必要だ。我々で何かイベントを行い、戦闘が楽しくて嬉しくて脳みそ沸いちゃうもんだと証明したい」
「それは何か病気じゃないかなーと愚考する次第です」
「というか戦闘しててメリットないって。ないって。。。」
「かなたさん。諦めたらそこで試合終了ですよ………ってカナタリアン言ってませんでしたっけ?」
「第345回公演ですね覚えてますよいえーい」

光の消えた目で斜め上を見るかなたと親指を立てる乾を尻目に、とりあえず何をするかパッチーとイソレナによって話し合われることとなる。
そしてその結果。

「武闘派四天王を倒そうキャンペーンとかぶちたてるって事で」
「倒されるのは僕たちですねわかります」
「俺、挑戦者倒したら結婚するんだ……」
「じゃあ私帰ったらパインサラダ作らせます」
「それが、かなたを見た最後の姿だった……」
「話が進まないんで5分だけ黙っててください」
「「hai!」」

ピシッと音を立てて乾とかなたは背筋を伸ばした。

「ところで四天王って何をやればいいんですかね」
「………何考えてその企画立てたかによるんですが」
「よし。練習しましょうか」



そして冒頭。
四天王とはかませであるという学術的見解を下に、彼らは敗北後の行動を練習していた。

「い、いのちをだいじに!」

右人差し指を鼻につっこみ、尻でパンをはさみながら左手でボクシングする乾。敗者となった男は尊厳の全てを砕かれた。

「い、乾さん………ごめんなさい。私が、私がこんな罰ゲームを考案したばっかりに!!」
「かなたさんノッリノリでしたよね」
「てへぺろ♪」

やっちまったぜ!とばかりに満面の笑みを浮かべるかなた。だが、それがイソレナの罠だった。

「笑いましたね?かなたさんアウトー」
「し、しまったーーー!」

イソレナの言葉に我に返るかなた。しかし、時すでに遅し。

「めくるめく負け犬ゾーンへようこそ♪」
「歓迎しよう。盛大になっ!」
「い、いつの間に!?」

彼女が気づいたときにはすでに、両脇を掴まれ拘束されていた。
そのままズルズルと引きずられていく姿は、馬車に乗せられた子牛に似ていたと後にイソレナは語る。
そして笑ってはいけないサドンデスバトルを制したのは下馬評通りイソレナとなった。

「………ふぅ」

だが、勝者であるはずの彼の表情は暗い。海に向かってキメ顔でポーズを取るかなたと戦闘員二人を眺めながら、イソレナは小さくため息をついて、噛み締める。
………虚しい、勝利の味だった。
危機感を持たせるため手酷い罰ゲームも付け加えられた彼らは、この時一つの答えにたどり着く。

こんなので人が、来るわけない。



「やあやあ咲良さんこれ父っつあんからのお土産ですなんでも仲間内で海に行ってたそうでああもちろん知ってますよただの潮干狩りらしいですね寒いのによーやるわHAHAHA」
「………カナタリアン、真冬の一人海辺ショー(首)ポロリもあるよが開演されたって」
「それ以上いくない。真実がいつだって人に優しいわけじゃないんだ!」

虚しい戦いが一つ、終わりを告げたある春の日。
終われ



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