ある夜のドラゴンカフェ。
 111番地地龍ポコスは、傍らの主を見つめる。
 今宵も誰かくるでしょうし、と軽食を作る己の主。またの名を思い人。
 人を餌付け、もとい料理をふるまうことを趣味とする彼女は、ほう、と息をつく。
 うっとりと息をついた彼女は、刻んだキャベツにマヨネーズを絡めながら、つぶやく。
「ねぇ、ポコス」
「なんだ」
「女の子って、本当にかわいいですよね」
 うっとりと、ボウル片手に頬に手まで添えて。
 とろけるように言う朱音に、彼はただ無言を返した。

先行き不透明

「ああ。咲良さんとかこれまでおつきあいのあった方々がかわいいのは当たり前なんですよ? でも最近、つくづくかわいい子が増えたと。わくわくしますね」
 甘い呟きに答える声がないことに構わず、彼女は続ける。
「頑張り屋さんで可愛くてほめると照れちゃうような照れ屋さんで。彼女がバイトに来た時ほど飲食店を始めたのを嬉しく思ったことはないかもしれません」
 そこまでか。知ってた。
 浮かんだ言葉を口にせぬまま、美味しく和えられたキャベツへハムを投入するポコス。
「とはいえ羽堂さんも可愛いです。私が意表をついた時の反応などが。いつぞやハロウィンに面白いお菓子を作ってみた時の反応はよかったですね。意表を突くの楽しい」
 ああ、あの色とりどり各種多様なカボチャ菓子を作りまくっていたときか。
 カボチャを潰すのはそれなりに力仕事だというのに、嬉々と輝いていた彼女の記憶が眩しい。
「かわいい女の子の意表を突くのは楽しいです。
 素直な方を餌付、おいしいものを食べさせるのも楽しいですが」
 ああ。言っていることは正しいというか美しいのに、なぜこんな微妙な気持ちになるのか。
 しばし悩む彼を置いて、彼女の語りは続く。
「素直にお礼を言ってくれる真夜さんも可愛いし、最近後の展開におびえながら食べてるかなたさんも可愛いですね。
 ああ、素直と言えばそうです。話を戻しましょう」
 できあがったサラダを皿に盛りつけつつ、朱音はにっこり笑う。
 戻すもなにもずっと歪みなく歪んだ真っ直ぐな女の子愛を語っていただろう、と彼がつっこむことはない。
「最近よくいらっしゃる乃亜さんもかわいいですよね。
 よく食べて、元気で。底なしなところが腕がなりますしね!」
 その姿を眺めつつ、彼は悩みの正体をおぼろげに悟る。
「ピオニアさんもかわいかったですねぇ…きょろきょろと儚げで。
 けど笑うとぱっと色々明るくなって。かわいいかわいい。女の子は可愛い。ジャスティスです」
 悟り、それでも無言を貫くポコス。
 完成したサラダをこんもりと盛り付けた皿をテーブルへ設置し、彼女はびしりと彼を指さす。
「ねぇそうでしょうポコス!」
「ちょっと何言ってるのかわからない」
 うきうきと問いかける主に、彼女の従者はふうとため息をつこうとして、やめる。
 代わりに、
「俺には君が一番かわいく見えるから」
 真顔で言い切る彼に、今度は彼女が沈黙を返した。
 その反応を知っているが、彼は伝える。先ほど悟った違和感を。
 彼女の忠実なる従者かつ思いを寄せる者として、落ち込むよりもあきれるよりも、なによりも正直な気持ちを伝えた言葉がもたらしたのは、沈黙と。
「……駄目な男ですね」
 冷たく失望したかのような言葉。
 けれど彼はそのことに構わず、仕方ないだろとだけ返す。
 その言葉に、彼女はもう何も言わず、ため息だけを落とす。

 照れた風ではなく、心底あきれたように。
 あの可愛さが分からぬなど頭わいているんじゃないですかとでも言いたげな表情で。
 ひんやりとした反応をさらした朱音は、片手で頬を隠してふうと息をついた。



○おまけ ―龍の聴力は扉の向こうの会話くらい拾うんじゃないでしょうかね。
「………」
「…どうしたんだいメー君、カフェの扉の前でアホのように佇んで」
「っ!? ……なんだかなたか。じゃあどうでもいいわ。
 っていうかお前ついてなかったのかよ。一人で夜にふらっと出ていったからあぶねーかとおっかけたつーのに……いや。ならいいよなおさら……」
「どうでもいい発言を誠に遺憾に思うのだけど…その泳いでるを通り越して、溺れてるような目をみると、私何も言えない……」
「おぼれてねーよ。そこまでびっくりしてねーよ。そこまでびっくりするのはふーやの人格が変わってた時くらいだよ…あれはほんっと怖かったけどよぉ…」
「メー君、訳が分からない。それよりどいてよ。私カフェ入れないじゃん」
「駄目だ! お前にさばける空間じゃない!」
「え、なんなのそれ!?」
「帰るぞ! たまには早く寝ろ!」
「ちょ…マスターの襟首をひっぱるなよ!?」
「ひっぱってもいいだろ! 首がしまるより!」
「いやなんなの!? なんなの!?」
「俺はこれ以上お前が自分で自分の首を絞めるの見てるのしんどいんだよ!」
「だから何の話なの!?」
「俺にもいい加減分るんだよ! こういうのに俺とかお前が首つっこむと! 最終的にちぎれる勢いでしまるって!」
「メー君、なんだかわからないのに切ないこと言わないで!」



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