龍とは伝説の生物だ。
その翼は空をうちはばたく者におそれを与え、
その顎は、それまでの捕食者たちですら自らが捕食される側であることを再認識される。
紡ぐ声は、万の人の神秘の技を超え、
その寿命は、他の生物を圧倒し、
その知は、他に追従を許さない。
絶対なる暴君にして、絶対なる統治者。
人には真似のできないような、超常生物。
なので、試してみた。
【ぼくは口笛がふけない】
■ ver:水竜(アニス&アシャン)
「口笛…ですか?」
「うん、こんな感じ?」
口をすぼめて、ピューと鳴らすその音に、おーっという歓声。
此処は129番地。ふとした思いから、何気なく話に上がった口笛を、
ドラテンとともに訪れていた真夜家にて話題に上げた…という流れだ。
「イソレナさん、うまいですね」
「まあ、なんというかね…」
必要にかられれば、人間なんとかなるものだというその実績に目をそらしつつ、会話を続ける。
真夜さんはそのままピューッと音を鳴らして、音階を作っていく。
僕は、そこまではできず、一音で曲を何となく紡いでいく。
その様子を見ていて、楽しそうと思ったのか、水竜二人がこちらをジーっと見て、アニスちゃんがのんびりと声をかけてきた。
「アニス、試してみていいですか?」
「まあ、やってみ?何というか、口をすぼめながら、唇で形を作り、吐き出す感覚…?だ」
「あ、アシャンもやるー!」
アニスとアシャン…二人教えていたのは、店番ということはなく、久々の姉妹でのドラテンに伴う結果だ。
似た姿の二人が、共に口をすぼめ……
話は変わるが、ウォーターカッターと言う道具を知っているだろうか?
正式な名前を「ウォータージェット切断」といい、
金属面や硝子に付いた汚れを落としたり、熱を発生させず熱に弱い物質の加工を行う…そんな技術である。
条件さえ揃えばではあるが、世界でも最硬と言われるダイアモンドすら切断できてしまう…そんな威力がある。
まあ、高圧で吹き出した物が脅威であるという、その認識だけ、持ってもらえればありがたい。
感じたのは……絶対的な死の予感。何度も助けられたその『勘』に従い、倒れるように地面に伏せた次の瞬間に、それは起こった。
ドッという音とともに放たれた何かは、僕の頭上と、髪の先を吹き飛ばし、壁を突き抜け、その向こうのモノと共に、ドコかで見たような何かを吹き飛ばしていった。
あとに残るのは、目を丸くして呆然としている二人の水竜と、目を丸くするしか無い真夜さん。
そして、命の危機をギリギリで回避した僕だけだ。
何が発生したか…状況を整理してみよう。うん、何事も解析と次回への対策というものは大切だ。
まず、状況…
@水竜二人が、口笛を吹こうとして口をすぼめる
A音がでないため、何度か息を吹き出す。双子なので同時に息を吹き出していく。
B息が足りないのかと思い、息を強める。双子なので同時に考えに思いつき、実行する。
C誤ってブレスが入り込む。双子なので、同時にブレスが入り込む。
Dウォータカッター、ツヴァイの発生
2体のディアボロス放たれた水のブレスの威力は凄まじく、壁を突き抜け、先にあった扉を吹き飛ばし、
扉だけではなく一瞬見えた何か布のような、ふんどしのようなものごと、扉を空の方に吹き飛ばし、店の中をびっしょびしょ仕立てあげた。
無論、商品含めて、生活空間全てである。
「イソレナ、さま?」
僕が悪いはずじゃきっと無いけど、それでも振り向いた先の真夜さんの顔が、少し、そうほんの少しだけ怖かった……
■ ver:地龍、炎龍(咲良&火乃香)
「ってなわけで、大変だったんですよ」
少しヨロっとなったイソレナを見つつ、羽堂はウンウンと頷いている。
イソレナが相槌を必要としていない時から頷いていることから、聞き流していることはわかりきっているが、
イソレナ本人もさして気にしていないようなので大丈夫だろう。
そう結論づけ……
「ということで、不器用そうな咲良さんがやったらどうなるか、見たくてきました」
「殴っていいか?このびっくり箱」
「まあまあ」
ナチュラルに売られた喧嘩をサラッと買おうとしたがやんわりとした笑顔の火乃香に止められる。
此処は68番地…外のテーブルだ。
唐突に現れたイソレナに、何故か皆で紅茶でも飲みましょと言って連れだされた先で、
なんの脈絡もなく話しだした内容が、129番地の話だった。
「まあ、不器用っていうのは冗談として、『此処ぞ!』っていう場面で、思いっきりやってくれそうなので」
「やっぱり殴る」
「じゃあ、口笛吹けます?」
「それぐらい、…多分、吹ける…」
「では、お願いしまーす」
ニヤニヤとした奴の顔を横目に、わざとブレスをぶつけてやろうかと思いつつ、
それはそれで負けを認めるような気がして、仕方なく目を閉じて深呼吸し、
「あ、私も試していいです?」
「是非ともお願いします。うちの子だと、コツが上手くつかめないのか吹けないようで……」
すっと響く声は火乃香…にっこり笑いつつ、手を上げた姿はやはり、どこかサマになる。
ちなみに席順は私の正面に、『フーン』とばかりのんびりしているフェレスと火乃香。
その横にオモチャ箱…もといイソレナと亜理紗。
そして私だ。
口笛を吹いている様子は何度も見たことがある。太陽が良くピューッと言っている、あれだ。
あれぐらい、私にだってできる。うん、きっと出来る。
半ば挑発された状態で、頭にきつつ私は口をすぼめ……
同じく口をすぼめた火乃香が、ふと目に入り……
先に言おう。
言い訳じゃないが、絶対に悪いのは火乃香だ。
私は、どちらかと言えば被害者だ。
いや、一番の被害者は、もう言わずもがななんだけど……
すっと火乃香が息を吸い込み、ほんとに自然な流れでクルッと真横、フェレスの方に顔を向け……
カヂッ、ヅボオウウウッッ!
口笛の代わりに、超凝縮され吐き出された炎のブレスが完全に間が抜けたフェレスに襲いかかった。
その様子が、ドコかツボに入ってしまい、あヤバイと思う前に、ぶっと息が吹き出た。
そう、……砂袋の中身と一緒に………
結果、哀れフェレスは炎のブレスの直後、砂のブレスを叩き込まれるという、
前代未聞の発火から消火のプロセスをたどることとなった。
爆笑するイソレナと羽堂。そりゃそうだ。第三者からしてみれば、こんなコントみたいなこと笑わずにはいられない。
意図せず当事者になってしまった方からすれば、どうすればいいかわからない事態だが……
ともかく、フェレスを心配するものの、さすがにそこは最高位闇竜。吹き飛ばされた地点からバッと立ち上がり……
「ほのかかあああああああ!」
「ごめんなさい、つい間違ってブレスのほうが出てしまいました(棒・冷笑)」
「明らかに、火打ち石の音したよな!したよなおい!」
「さあ、気のせいじゃないです?指パッチンの音と間違えたとか」
「誰が!いつ!同タイミングで指パッチンしてるんだよ!」
「フェレスさん自身が、私の口笛(偽)を吐き出すタイミングで」
「僕はやってない!」
「この年で、ボケが始まるのって大変ですよねほんと」
「だああああああ、かあああああ、らああああああああああああああああ!!」
私の謝りの代わりに始まった言葉の応酬に、取り敢えず目の前の紅茶はもう飲めないなぁと、
砂だらけのテーブルを見て私は現実逃避に走った。
ver:風矢
「え、口笛ですか?普通に吹けますよ?」
そう風矢くんは答えると共に、ピューッと口笛を鳴らす。
鳴らす口笛は、真夜さんと同様、音階を変えてその器用さを魅せつける。
「おー、やっぱり風竜はそういうの器用なのかな?」
「器用なのかなって……」
「一応、できるだろうなーと思いつつシンギに聞いてみて、そのままできたから……」
「じゃあ、なんで僕にやらせたんですか」
「いや、そこはオチというか尺というか……」
68番地からの帰り道、通りがけの風矢くんを捕まえて、ちょっと頼んでみた結果がこうだった。
あまりにも簡単にやられてしまい。
うーんと悩みつつ、顎に手をおき……
「あ、そうだ、音階のやつもう一回やってみて。僕上手くできなくてさ」
「お安いご用です」
そう言って、風矢くんは口をすぼめ……
後日、イソレナの証言より、以下の内容が上がっている。
「研究者たるもの、好奇心に勝てなかった」
全く情状酌量の余地がないその言葉に、しばらくの間の黒子業務はかなり苦戦したとの事だった。
口笛のため息を吐き出そうとしたその瞬間、
バッと、イソレナの箱が開き中から、ある人が…いや2人の竜が飛び出した。
両方共、風矢には顔なじみの、よく知る人物のそれ。
目を丸くし、リボンを持つ磨智。
スリッパなところが明らかに予定外に此処に来たということを暗に示していた。
そして、もう一人は……
ブバフッッ!
その姿を見た瞬間、風矢の細められていた口から、高圧縮のブレスが吐き出された。
そして…予定外の突風に煽られ、いくつかの人や洗濯物が空をとぶこととなった。
その中に、唐突にイソレナのイタズラによって引きずり出された、女装メーの姿があったことは言うまでもないだろう。
こうして、いくつかの家・町に損害を与えた「竜の口笛」は、
実施させることならびに、口笛実施中に相手を笑わせるような行動をする事を禁止することが正式に決定した。
後記:
ちなみに、作者は口笛吹けませんのであしからず。
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