*注意。
本作品は食人行為を描写した作品です。
描写は長めで、本作の主題と言えます。
このテーマが苦手な方は閲覧をお控えください。
__________________それでは、注意文をご覧の上、本文をご覧ください_______________________
それは、ふとした何気ない感覚だった。
それは、ほんの何気ない感性だった。
それは、そんな何気ない感情だった。
そう、ふとしたほんの少しのそんな、本能だったのだ。
『君にifをあげる』
「いや、本当にこれだけは試したことがなくてのぅ」
乃亜が、そう呟きながら、手に持った肉を口に運ぶ。
骨に付いた生肉をしゃぶるように口に運び、噛み千切りながら咀嚼する。
口の周りに付随する血。
その血から一筋流れる血の流れが、顎先に伝う。
口調に対して何処か幼さを持つその少女の姿。
椅子に座り脚を組んだその姿は、幼い子が精一杯の見栄を張っていると言うようには見えない。
年不相応の、だが少女と成人の間で女性だけが持つ未知ゆえの妖艶さを、その姿は醸し出していた。
その彼女を見詰める目は一対。
その一対の目の持主は、地面に倒れつつ朦朧とする視界の中で、その姿を何処か現実味離れた風景として捉えている。
肉から流れ落ちる血は、持ち手の手をべったりと濡らし、肘まで垂れて地面に落ちる。
口の周りから流れるそのしずくが、また一滴首から戦闘で軽く敗れた服にまでしみこむ。
そんなことすら、全く気にせず、乃亜は食事を続けている。
骨にしゃぶり付き、骨に付随する肉をこそぎ取り、咀嚼し、飲み込む。
その一連の動作は、何処か健全さと嫌らしさを同時に兼ね備えていた。
遠い記憶の中で、食事の様子は性交に通じるものがあると、そんな文章をおぼろげながらに思い出した。
そう何度も口と骨を行き来させた後、乃亜が骨だけになった「それ」をそっと床に放った。
骨髄を抜かれていない、重さの有る骨ががんっと床を跳ねる。
「正直、何故試したことがないのかと問わるるなら、何故だろうと思うんじゃ。やはり何かしら躊躇が働くものなのかもしれん」
そういいつつ、火で炙り、傍らで良い匂いを立てていた新たな肉の骨を掴む。
「あ……」
「ん?……やらんぞ?前にも、言ったかも知れんが、これはわしのじゃ」
そういって彼女はその焼けた肉にかぶりつき、そして首を縦に振った。
「うむ、悪くない。確かに、生より火を通した方が良いという事か」
その顔に浮かぶのは本当に無邪気な笑み。体相当の、満面と言う単語が紐づく笑顔。
血にぬれた妖艶さもなく、ただただ無邪気に食べ進める少女の姿。
ただ……
「のう、そうは思わんか?かなたよ」
既に大量に流れてしまい失われた血。その為、朦朧とする意識の中で片腕と片足を切断され、痛みと他の色々な感情で言葉を返すことが出来ないかなたは、頷くこともできずその様子を見るだけだった。
「やはりわしも、人の姿をしていると、同じ姿をするものを食うことは躊躇するのやもしれん。狩人といえど…いや、狩人ゆえに他に食えるものがあるならば他のものを狩り食う。これがあるべき姿と考えているからかもしれん」
手にした肉…脚だったそれを見詰めつつ、乃亜が呟く。
「試しで狩るわけにもいかん。腹が減ったその時に、運よく新鮮な死体が転がっておることもなかった」
そして食らう。落ちる肉汁に、食らわれる己に何かを感じることも出来ない。
そう、この町に来て今まで色んな経験をしてきた。
人も殺したし、人に殺されたりもした。
信じられない死に方もしたし、毒に苦しんだことも有る。
でも、今までこんなことはなかった。
こんなこと…あってほしくなかった。
彼女はがつがつとそれを口に含み、そして一言漏らした。
「ふむ、これも勝者の権利…では、残りも頂くかのう」
そう立ち上がり、彼女は古い短剣を構える。
かなたの目の前に彼女は座り……
そして、振り下ろされる剣と共にかなたの視界からは何も映らなくなった。
「って夢を見たんですよー」
響く言葉はドラカフェの机の上。
来たばかりのかなたの話に、羽堂はふーんと頷く。
「なんか、最近アプエゲ君に食われたりと、食べられちゃう夢が多いんですけど…」
「うーん、夢は無意識のなんちゃらかんちゃらって聞いたこともあるから、実はかなたん食べられたいとか?」
「無論イヤですよ!」
絶叫に近い叫びを上げながらかなたがドリンクを飲む。
そこで、ふと周りをかなたは見る。
静かなカフェ。そういえば皆でなかなか集まれることも少なくなった気もするカフェだが、大食漢も多いそのカフェの洗い場は今片付いている。
「そういえば、羽堂さんだけですか?今日」
「ん?もうすぐイソレナさん来るって聞いてるけど、私だけってわけじゃないよ?さっきまで噂の乃亜さんいたし…狩りにいくーってかなたん来る前に出て行っちゃたけど」
「なんか、それにしては洗い物が少ない様な……」
「あ、それ気になったんだけどね」
そういって羽堂は首をかしげて、そういった。
「『今は、お肉食べてお腹いっぱい』だったんだって」
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