白い砂浜には波の返る音が響いている。照りつける太陽の下、長い緑髪の少年と白いおかっぱ髪の少女が並んで歩いていた。
「…あの、風矢さん」
パーカーの下に白いビキニを着た格好の小町はすぐ隣の恋人にしずしずと声をかける。
「…今日は、唐突にこんなところに呼び出してしまって、本当に面目ございません」
「…そんな事、ありませんよ」
小町の口からそんな言葉が出てきたのは、やっぱり自分の態度が顔に出ていたのか。と思って、風矢はシャツを羽織ったままの体を気まずそうに逸らす。
「今宵はこのこのような場所で色々とさまようものを鎮めることになってしまって。本当に風矢さんを振り回してばかりでいないか心配です」
夏の終わりも近づいたこの時期。季節の変わり目には、目に見えないものの活動もまた変化をしだす。そのことが原因で起こる混沌を調整するために小町が活動していることは知っている。むしろ、こうしてまた小町と一緒に2人っきりでデートが出来る以上、何も言うことはないのだ。
「気にしないでくださいよ。ただ、僕は小町さんがそうやって色々なことに気を使いすぎることが心配なだけなんですから」
本当は、そうやっている間に小町が自分以外のものに気を向けてしまうのが、ちょっぴり。そう、本当にちょっぴり悔しいだけなのだから。
「それに、こうして夏が終わる前の海でこうしてデートが出来るんですから」
「このような肌の出たお召し物は、本当は恥ずかしいのですが…」
そういって小町は白い頬を微かに赤く染める。その初々しい反応に、逆に風矢の方が何ともいえない気まずさを感じて、思わず明後日の方向に視線を投げてしまった。
「あ…」
小町が小さく声をあげたのは、その時だった。小町の澄んだ蒼い瞳が向かう先。
浜辺の裏には、2人以外に先に来ていたらしい人影があった。風矢と小町の足音に気づいた人影もまた振り向き、目が合う。
「…あ…?!」
驚く…というより呆然とした表情で目を見開くのは割と見知った顔。振り向いた格好のまま固まっているパーカーの下に柄物のビキニを着込んだ姿のダージリンがいた。顔を赤らめているのは、当然自分の今の姿に対して。
「風矢サン?…な、なぜこんなとこに?」
「…女がここにいるとは、私だって驚きましたよ。貴女がここでそんな格好でいるなんて」
一転してクールで素っ気ない体裁をとった風矢は、わざとらしくため息を交えてみせる。後半の部分にわざと毒を持たせた口調で。
「そ、それは…ここにいるのは乾クンたちのお手伝いだよ。小町サンだって、その為にここにいるんでしょ?…それともボクみたいなのもじろじろと見たいって言う気持ちでもあってきたのかな?風矢サンは。こんな格好しているのは…」
口調の攻撃的な内容と裏腹に、わなわなと唇を震わせながら反論する、その雰囲気にはまるで精彩がなかった。
「あら、どないしたん?」
岩場の影から更に横に割り込んできたのは、黒い水着を着た至和子だった。目の前のやり取りを察するかのように今までのやり取りの当人達を見回したあと、ふふっと口を押さえて微笑をする。
「だーじりんちゃんもせっかく似合ってるんやから、褒めてもらえるようせえへんと」
「っっ!だから、至和子サンがボクに着せたんでしょ。御祓いの仕事で水に濡れると大変だからって」
「その割には、ちゃんと素直に聞いとるやない?」
慌てて弁解をするダージリン。それを意に介さないかのように涼しく笑う至和子。
しばらくして、風矢に目をやる。
「ほんにすいませんな、こんなとこでお邪魔してしもうて」
「いえ、いいんですよ。ただ誰もいない海辺だと思っていたので」
2人っきりでいるかと思ったら、予想外の先客が居ただけだという風に、素っ気ない態度を崩さず答える風矢。
「それはすいません。私たちはちょうど要件済ませたとこやから、これでおいとまさせてもらいますわ」
「まあ、ボクたちは別にここに居続ける用はないからね。それじゃあ」
至和子とは対照的にややきつく風矢を睨んだ目つきのダージリン。機嫌はお世辞にも良くなさそうだが、多少の余裕は取り戻せた様子だった。
至和子とダージリンは去っていき、今度こそ砂浜にいるのは2人きりになった。
「その…わたくしやっぱり余計な用件を風矢さんにお願いしてしまったでしょうか?」
さっきから風矢の少し後ろに居た小町は申し訳なさそうに身を縮める。その目は今まで風矢の注意から外されてしまったことに対してのもどかしさも物語っている。
「どころか、これでようやく小町さんが僕だけを見てくれたんですから」
小町の顔をじっと見つめて、まっすぐにそう言う風矢。
「相変わらず、お上手なのですね。風矢さんは」
頬を染め、微笑を返す小町。そんな小町にそうやって自分に興味を向けてくれるのが有難いんですから。そう言おうとして風矢は言葉を飲み込んだ。野暮なことを言うより、この時間に2人でいる夏の終わりを満喫していたかったから。



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