「龍だけで調理を担当するのは問題ない。むしろ望むところだがこの龍選はどういう意図があるのか小一時間決めた奴に問い詰めたい」
「駄目ですなぁ兄は。ストレスは貯めこむものじゃなく丸めて打ち出すものでしょうに」
「いやな物体を作るんじゃない」
「俺に言うな」

女が三人集まれば姦しいと言われるが、はて男が三人集まった場合はどうなるのか。
恐らく知り合い以上親友未満と言える地龍とその兄を眺めて、ふとそう思った。
言葉こそ思い浮かばなかったが、喧しい事に変わりはないだろう。
あと選定の理由は恐らく、こいつを抑えられる人(龍)材で料理に精通しているからだろう。
甚だ迷惑である。

「む」
「おっと今はつまみ食いはしておりませんぞよもし」
「お前は後でアイアンクローだ」

ジュウジュウと肉の焼ける音をBGM変わりに行われる取り留めもない会話は、エプロンを着けた水龍がふと黙り込んだことで終わりを告げる。
といってもすぐ隣にいるのは歩くジュークボックスの異名を名乗る地龍だ。すぐさま茶々を入れかつ盛大な自爆をかますというウルトラCを演じて見せる。
この兄弟を眺めていると鎮まるという単語を忘れそうになるなぁ。

「いや。今何故かひどく服のほつれを直しに行かなければいけない気がしてな」
「どういうこっちゃねん」
「電波系水龍……だとっ……すんませんマジ痛いんで勘弁してくだしあ」

全龍種最大の重量を誇る地龍を持ち上げる腕力を称えるべきか地雷原だと分かっていてタップダンスを踊った度胸を褒めるべきか。
悩ましい光景が展開される中、ふと、妙に軽い感触に違和感を覚えて手元の中華鍋を見やる。

「………空鍋ならぬ空中華鍋とは恐れ入った」
「あ、ありのままに今起こった事を説明するぜ!俺達は今追加の料理を作っていたと思ったら料理がなくなって痛たたたたた」
「すまん、突っ込む気も起きないくらい状況についていけてないんだ」
「うまいのじゃー」

中華鍋の中にはアテ変わりに作っていた肉炒めの肉汁だけが名残として残っている。
本来表に出すべき食材は、影も形も無くなっていた。

ふと視線を切ったその瞬間に、10人前は予定していた大量の料理が消えたのだ。
周囲を見渡す。
大盛りの肉を乗せた皿を抱えて床に直座りでバクバクと食べる少女と、馬鹿とその兄。自分。
調理室の中にいるのはこの4名だけとなる。

「……おかしい。こういう場面でいの一番に居るはずの龍がいない」
「おかしいのは現実を直視しない君の眼だと思うんだが」

うるさい。流石にこの状況で気付かないわけがない。
こういった場面に暴食龍が居ないというだけでこれほど衝撃を受けるとは、自分でも思わなかったのだ。
自分のことも全部知っていたよとは言えない。この不完全さが龍と人間の共通点ではないだろうか。

「馳走になった!もう少し焼き加減がれあな方がわしの好みじゃの」
「そうか。美味しかったか?」
「うむ!」
「そっちはそっちでほのぼのしてちょっと何でツッコミ二人いてボケ担当()の私が機能不全してますよっ」
「わかっている。良いかい。あそこのテーブルで料理が出るのを待っていてくれ。つまみ食いは駄目だぞ?」
「でもお腹が空いたぞ」
「ならしょうがないな」
「おいぃぃぃぃ!?」

現実逃避はやめよう。
信じていた兄が普通につまみ食いを許容した件について。
弟を自称する地龍に目を向けると、苦笑いを浮かべながらたはー、とため息をついた。

「兄は。。。自分を怖がらない小さい子にめちゃ甘なんで」
「それで良いのか長兄!お前今まで何人弟妹居たんだよ!?」
「たんとお食べ」
「調理早いな!『たんとお食べ』じゃねえよはよ大広間に持っていけ!」
「わかった」
「のじゃー」

返事とともに片手に皿を持った少女を持ちながら、兄はドアをくぐって調理室から出て行った。
持たれた少女がばくばくと皿の中身を平らげていたのは見なかったことにしよう。
弟は腹を抱えて笑っていたので、脛をつま先でけり上げる。むしろ痛かった。

後日、赤毛の龍に「ごめんして」と言われたのでまあ許した。
朝町は今日も平和だな。



あとがき
やっべ、文章つくれねえええ



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