「またせたねポコス君」
「今すぐそこで会っただけだろ?」
朝色の町、商店街の一角。
臨時の買い出しにいそしんでいたポコスは、メガネをくいと直す太陽にそうつっこんだ。
妄想癖な君にカンナを
「まあそういう説もありますね。
それはおいといて、改めてポコス君。
これを君に」
いって彼が差し出したのは、鉢植え。
ぴんと茎をのばして、堂々と咲き誇る赤い花。
町の花屋で最近見た。園芸種に改良されているらしい姿。その名前は、確か、カンナだった気がする。
つれづれと思いだしたポコスは、そのうえで言った。
「なんで」
「日ごろの感謝の気持ちですよたぶん」
だからどうぞ、と差し出された植木鉢。一見無害どころか美しいそれだが、ポコスは素直に受け取る気にはなれない。
男が男に花を贈るってどうよ。花を贈るといえばいつかそれで暴走したな。男が女に花を贈るのはもっとどうかと思う。いやそれ自体はいい。自分の主人がよその男に花を贈られたあの時、派手に暴走し、手痛い思い出ができたな。あの時の地龍殿の反応はいっそ妄想でしたねなどと脳内のエゲリアが告げてくる―――などと、思い返しているからではない。
これは太陽のもってきたものだ。
彼が普通の花を育てるだろうか。
太陽が持ってくる花が普通だというだろうか。
「なんで俺に持ってくるんだ。これは普通の花なのか。変な改造されてないのか」
否。断じて否。
積み重なった付き合いの分だけ強く響く己の直観に、ポコスは逆らわなかった。
じっとりじとめの問いかけに、太陽は派手に胸を押さえて見せる。
「なんて疑り深い顔でしょう。いつから君はそんな子になってしまったのか!」
「割とおまえのせいだろう」
「ああなんて嫌そうな顔で。しかしね、ポコス君、私は思うんです」
「なにをだ」
「普通の、冒険心を忘れた龍など! つまらないと!」
「普通でいいと思うぞ。お前はもう少し」
なにやら天を仰いでいい笑顔のバイト先の上司に、突っ込み役の地龍は全力でつっこんだ。
厳しいつっこみにしばしさめざめと泣き真似をした太陽は、顔をあげると同時にぴっと指を立てる。
「まあお察しの通り私が品種改良を加えたものではあるんですよ」
「なんでそれを俺に渡すんだ…」
「別に怪しいものではありませんから。店の外にでも飾ってもらえないかと思いましてね。なに、日ごろお世話になっていますから。お礼です」
「それはかまわないが…どんな改良なんだよ」
危険があるようなおかしな改造を加えられたものなら、贈り物にしないとは思うのだが。
おもしろおかしい改造をされている可能性は捨てきれず、問いかける。
胡乱な瞳を受け止めた太陽は、ねこのように笑う。
「咲良さんがね。店に飾る花を探していたのですよ。
長持ちする丈夫な花を探していましたからね。ためしに作ることにしました」
「へぇ。…じゃあこれは失敗作か? 長持ちはしないとか」
「いいえ。失敗というか…鉢植えの姿ではありますが、何を間違ったか、ドライフラワーのようなものになってしまいましてね。枯れないんですよ」
「…長持ちするじゃないか」
一見すると生花にしか見えないのだから、たいしたものだ。
それなら問題なく彼女に渡しにいけばいいのではないだろうか。―――その方が絵になりますしね!照れてる咲良さんお持ちかえりしたいくらいですよ。
脳内で彼の主人がなにごとかを呟く錯覚を押さえ、ポコスは問いを重ねる。
「なんで持っていかないんだ?」
「…なんでといわれましても」
何気ない問いに、太陽は笑う。
猫のように、いつものように。
いつもとは少し違う、遠くをみるような瞳で。
その差に気づいたポコスは、思わず言葉を失う。一体どうしたというんだ、と。
「停滞したものに価値はないそうですよ」
「なんだいきなり」
「いや全くその通りだと思います。思い出したから、やめました」
一瞬の陰りは幻のように消えて、彼はなにやら得意げに笑う。
太陽の名にふさわしい、晴れやかな笑顔で告げる。
「咲良さんに停滞するものなど似合わないとね」
晴れやかで、満足げで。どこか自慢げですらある表情に、ポコスは静かにそうか、と呟く。
太陽のいうことが唐突なのは、よくあることだ。
ならばそれにつきあうことだって、よくあること。
どうやらこの鉢植えに危険はないようだから、素直に受け取ることにしよう。店が華やぐことを、彼の主人はきっと喜ぶだろう。
「じゃあこっちでもらっておくよ」
「ええ。お願いします」
軽く手をふり踵を返して、ポコスは帰路へつく。
買い物袋と植木鉢の重さを気にすることもなく、さくさくと進む。
ぴんと真っ直ぐに咲くこの花を持ち帰った時の主人の反応を想像しながら。
誰からもらったの、などと間違っても妬いてはくれないだろうな、と自嘲しながら。
もれた笑みは少し苦く、夏の日差しの中にとけた。