嵐の後。
何処までも高く澄み切った空。太陽の光は穏やかで、よく晴れているのにうんざりした気分にはならない。爽やかな風に、秋の始まりを予感する。
空を見上げると今日も、色とりどりの龍たちが腹を見せて飛んでいる。白い腹に日光が反射し煌く様は美しい。いつもよりも数が多い気がするのは、嵐の間棲家から出られなかった鬱憤を晴らす為だろうか。
「風龍は嵐があると神経が昂るというのは本当ですか」
「誰から聞いたんですかそれ。…まあ、無くは無い…ですけど」
「テンションの上がった風矢さんを見てみたいものです」
「何を期待してるんですか、何を」
一方、地面の上を歩いてる龍たちもいた。二人並んでのんびりと、未だ湿った世界を楽しむ。
嵐の後は空気が清浄だ。外に出るだけで何だか気持ちいい。それを最大限に楽しむにはやはり空を飛ぶのが一番なのだろうけど、それでは二人連れの楽しさは味わえない。
そういう訳で、綺麗な空気と二人連れを同時に楽しむには地面を歩くのが一番だという結論に達した二人である。
ただ歩いているだけなのに楽しい。
きっとその場に立ち止まっても楽しい。
『ふたり』というのが、たまらなく幸せだ。
「あ」
道の途中で、大きな水たまりに出くわした。
風矢は構わず進もうとする小町を制する。
「?」
首を傾げる彼女。
彼は彼女を置いて先に進み、水たまりを跨ぐ。
片足を水たまりの向こう側に、もう片足を水たまりの中程に漬け、彼女の方を振り返った。
何も言わずに片手を差し出す。
「…………」
「せーの」
小町はその手を取る。
彼の手に導かれながら、ふわりと跳ぶ。
下駄を濡らす事無く、無事向こう岸へと辿りついた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
「…………」
「不思議そうですね」
小町は龍である。その運動能力は見た目よりもずっと高い。
ひらひらとした衣装を纏っていても、あの水たまりくらいなら楽に飛び越えられただろう。
風矢もそれを解っている。解っている筈、なのに。
「反射的なものですよ」
「?」
「可愛らしい女性の世話を焼きたいだけですよ」
「…………」
風矢は早口気味に言う。
小町より少しだけ早足に、小町より少しだけ前を歩く。
どんな表情をしているのかは見えない。
だけど、さっき取った小町の手を離そうとはしない。
手を繋いだまま、二人は歩く。
「…もっと幸せです」
小町は握られたままの手を見て呟き、静かに微笑んだ。