03.きらきら
大空に輝く太陽。
抜けるような青い空。
ちりちりと肌を焼く光。
まぶしい白い砂浜。
キラキラ輝く海。
砂浜で追いかけっこしているカップル達。
砂で巨大な城を打ち立てる子供達。
スイカを杓文字で豪快に砕いたり、普通の木の棒に見える何かでスパッと鮮やかな切り口で切りとばしたり、闇龍に「食べ物粗末にしたらあきまへんえ」と言われながらスイカを龍たちと一緒に黙々と食べる漢達。
離れた所でどっぱんだっぱん上がる水しぶき。
砂浜に打ち上げられる、水しぶきの衝撃に気絶した魚たち。
それはもう、余すところなくキラキラと光り輝く夏を叫ぶ要素が詰め込まれた光景だった。
「何だか不適切な表現が混じってませんか!?」
「いきなり叫んでどうしたんですか、かなたさん」
地の文という名の電波を受信して思わず立ちあがってツッコミを入れるかなた。そのすぐ傍で同じような作業をしていた羽堂が驚いて顔を上げる。
「え、あ、何でもないです。
今凄く突っ込まなければならない衝動に駆られまして」
かなたは首を傾げながらしゃがみ直すと、熊手を片手にさりさりと砂浜を掻く。
ころころと砂から出てくるアサリやハマグリを手でつかみ、バケツに入れる。
羽堂も熊手で地を掘り、ハマグリやマテガイを順調に入手していく。
あまりにも小さい貝は別の箱に入れる。こちらは後で砂浜にリリースするのだ。
「調子はいかがですかー?」
にこにこと朱音が二人へと近づいて行く。
羽堂とかなたは水着なのだが、彼女はいつものワンピース姿だ。熱くないのだろうか、というだけ野暮というものなのだろう。
「ぼちぼちでんなー」
熊手を置き、ひらひらと羽堂が朱音へ手を振る。
「それなりに獲れましたよー」
かなたも顔を上げ、貝達の入ったバケツを示す。結構な量の貝がバケツの中に入っていた。
その中を見て、朱音は貝を手に取り満足そうに笑った。
「やっぱり財宝スキル持ちは違いますね。貝の粒が大きいのが多くて助かります」
貝を探す=探索扱いのようなので、レアと非レアの収集確立の差は大きいらしい。
「あとどのくらい必要ですか?」
「この位あれば十分ですよー
もう少ししたら真夜さんが戻ってくるはずなのでそれまでゆっく「只今帰りましたー」
朱音の言葉をかぶせるようにして真夜が三人の所にやってきた。
水着の上にTシャツを着て、色々入っているらしい網とその身の丈の何倍も大きな鮫を小脇に抱え引きずる姿はやたら活き活きしていて満足そうだ。
海から出たてのはずなのにシャツも髪も乾いている理由は「朝町だから」で済ませてしまって問題は無いだろう。
「おかえりなさいませー。首尾はどうでしたか?」
「よく分らない貝と、ホタテとアワビとウニは獲れるだけ獲ってきました。普通の魚は逃げられたので無理でしたが」
出迎える朱音に、申し訳なさそうに言う右手の袋を差し出す真夜。
朱音は笑顔で首を横に振り、海岸を指さして落ちて居る魚を示す。
「いえいえ、大丈夫ですよ
普通の魚は打ち上げられていますから、あとで皆で拾いましょう」
「この分だと暫く海産物には困らなそうですね」
干物などに加工して持って行けば日持ちもするし、料理店や日常でも使えるし、なにより余ったら市場に流せば稼げる。
ふふふ、とよく似た商人二人が楽しそうに笑った。
「ところで真夜さん、その左手に引きずっているのは?」
かなたが至極まっとうなツッコミを入れる。
真夜は指摘されてようやく思い出したかのように左側に視線を移すと、それをがしっと両手で掴んで持ち上げた。
「移動中に襲われたので返り討ちにしてみました」
ほめてほめて、と言わんばかりの子供の様な笑顔で真夜は返事をする。
ぐい、とすぐ傍に引き寄せられたひれを朱音は躊躇わずにペタペタ触る。
「鮫っぽいのですが、食べるか加工するかできそうですか?」
「そうですね、鰭はフカヒレにするとして、身はすり身にして蒲鉾とか、煮物にして食べましょう」
「わーい、蒲鉾好きなのでお手伝いさせていただいても良いですか?」
「大歓迎ですよー」
きゃいきゃい盛り上がる朱音と真夜の脇で、かなたは恐る恐る鮫に触れる。ぺたぺたとざらりとした鮫肌感触を楽しんでいると、顔付近に丸く赤い後がある事に気がついた。
「あれ……これ首(?)の辺りに歯形がある」
指でなぞりながら呟くと、照れたように真夜は笑った。
「スキルの吸血発動しまして、ついガブッと」
「それでそんなにお肌つやつやなんですね」
つんつん、と羽堂が真夜の頬をつつく。つやつやとした肌はとても健康そうに見える。
「はい、つやつやぷにぷにです。お陰様で結構減っていた体力も全快しました。
所持が一杯になったので戻ってきましたが、もう一度他の物獲りに行こうかなと。
さっき沖の方でマンボウ落ちていましたし、まだ色々入手できそうなのですが」
「落ちていたって、それって泳いでいたんじゃ」
至極居まっとうなかなたの言葉に、真夜は首を横に振る。
「いえ、既に死んだ状態でぷかぷかと浮いていました。
マンボウは勢いで飛び跳ねて、時々着水の勢いで死んでしまう事があるらしいので、それで死にたて新鮮な状態でぷかぷか浮いていたのかもしれません」
「死にたて新鮮って、凄い字面ですね」
「それはもう直ぐにお刺身にして食べてしまいましょう」
「え、山葵やお醤油あるんですか?」
「こんなこともあろうかと持ってきました」
「流石です朱音様♪」
「今日のお昼はとても豪華になりそうですね」
「それじゃあちょっとマンボウとか色々拾ってきますねー」
くるりと海に向かって走りだした真夜に、羽堂は慌てて制止をかける。
「あ、待ってください」
ぴたりと足を止め、どうしたのかという視線を向ける真夜に、羽堂は笑顔で言った。
「真夜さんも水着姿になりましょう」
笑顔で告げられた言葉に、ぴし、と真夜が固まった。
「着衣水泳の訓練じゃないんですから、脱ぎましょうねー」
わきわき、と手を動かしながら近寄る羽堂。硬直から復活した真夜はじりじりと後退していく。
5ターン凌いで海まで逃げてしまえば、と真夜は羽堂の動きに意識を集中して距離を取る。
だが、甘かった。
横から伸びた白い手にがしっと腕を捕らえられ真夜はバランスを崩す。
「真夜さんも水着になりましょう」
かなたが隙をついて真夜の腕をしっかりと捕獲したのだ。
「え、ま!?」
振りほどこうとして失敗する。武器を装備している状態ならまだしも、素手で販売系が戦闘系の本気をそう簡単に振りほどけるものではない。
助けを求めるように朱音へと視線を向けるが、によによと見守る体勢に入っていて望めそうにもない。
笑顔で近づく羽堂と、おねだりする様なかなたに、真夜は慌てて言う。
「着ているのはちゃんとした理由があるのですよ!
うっかり海で遭遇した魚との戦闘に負けて水着(よろい)が壊れたら海で素っ裸ですよ。
猥褻物陳列罪ですよ、誰も得しないじゃないですか。
Tシャツと言う名の盾を装備することによってそれが回避できるのです!」
なるほど、とかなたが納得して腕を緩めかけた瞬間、真夜の視線がふらふらと泳ぎ出す。
「ですから別に水着になるのが恥ずかしいとか出し惜しみしたいとか、そういうのは一切無いです」
「最後に視線泳がせなければ説得されたのですが。
出し惜しみしていないなら脱ぎましょう」
ぎゅう、とかなたに更に強く腕を掴まれ真夜は顔をひきつらせる。
「大丈夫です。水着破壊は戦闘で逃げ続ければ回避できます」
「なにも怖くなんてないですよー」
「え、ちょ、ま、かなた様ちょっとキャラが違うと思いますよ!?
って羽堂様そこくすぐった……あははは!」
「はーい、ばんざいしてー」
「朱音様助けてくださいー」
「仲良き事は美しきかな、ですねー」
「えうー見捨てられたー!」
わいわいきゃあきゃあと笑いながらじゃれ合う4人。
場所が変わっても、メンバーが変わらなければやっている事は変わらない事だけは確かなようである。
おしまい。