※ほのぼのなお題だけどほのぼのしてない。

 ※色々と駄目なひとたちが話の中心。


 ※当然のようにIFな展開。


 ※この作品と同じ思考回路で本編の登場人物が活動しているわけではないことは忘れないでください。


 ※嫌な予感がする、何か今は読みたくない気分だという方は急いでブラウザバックすることを推奨します。

 ※大丈夫そうな方はレッツスクロール。









 20.またね ―いつかの再会の日まで―


「この町から出て行きたい」

 茶髪の青年は、だらしなくソファに横になってそんなことを呟いた。向かいのソファに座って帳簿の記録を確認していた朱色の髪の少女は、きょとんとした面持ちで彼を見つめる。

「……なんでまた?」

 心なしかその声は震えていた。青年の言葉は氷水のように少女の全身から熱を奪っていった。普段なら少女が少しでも蒼い顔をしていようものならすぐに駆け寄って労わろうとする青年は、横たわったまま身動きもせず、虚ろに宙を見つめたまま黙り続けていた。
 かちりかちりと時計の針が鳴る音だけが響く数分間が経ち、痺れを切らした少女が帳簿を置いて青年の前までやってきて座り込む。青年は目を閉じて、溜息混じりに呟いた。

「居辛い」
「あー……」

 ここ数年の彼の様子を思い浮かべて、少女は思わず苦笑する。彼女自身、彼に関する評判については色々思うところもあったのだが、特に今まで否定も肯定もフォローも何も言わずに過ごしていた。
 彼女としては、彼の言動は色々と心臓には悪いのだが、最近は少し慣れて、彼の言動をむしろ楽しんでいたりもしたのである。
 無論それを悟られないようにと言動には出さないようにしていたのだが、その「暖簾に腕押し」を感じさせる態度にますます彼を追い詰めていったのだが、少女はそれに気付いてはいなかった。仮に気付いても言動を改めたかどうかは少し怪しかったりする。

「それでここから出たい、ですかぁ……」
「そう」
「今すぐにでも?」
「できればね」

 ひどく疲れ切った様子の青年はのそりと起き上がって座り直し、真っ直ぐ少女の目を見据えて口を開いた。

「ということで、契約を解除して頂けませんか、ミストレス」
「んー……」

 少女は曖昧に苦笑して立ち上がり、彼の横に座る。その間もじっと見つめている青年を、困ったように少女も見つめ返す。

「嫌だって言ったら?」
「……その理由が何であれ嬉しいけど……困る」
「でしょうねぇ」

 青年が何をするにも、それを彼女が許さなければ実際何もできなかったりする。自分の生死でさえ、彼の自由にはならない。そういう契約を持ちかけたのは紛れもない彼自身だったりするから、文句や反抗もせずに彼は彼女に従い続ける。

「何かこう、私も連れてってー、と言ってみたいところではありますが」

 普通に生活していると忘れそうになるが、朝町の外の世界では少女は死人である。もし万が一にでも彼女の存在を知っている人物に遭遇したら厄介どころの話ではない。

「分かってるよ。君がそう言ってくれるだけで、充分嬉しい。だから俺一人で出て行きたいんだ。だから――」
「わかりました」

 彼の発言を遮って、少女はにこりと微笑んだ。望んだ返事だろうに少し寂しそうに苦笑する青年に、彼女は囁いた。






 からり、と111番地の店の入り口の鐘が鳴る。
 店の奥から姿を現した緑色の髪のウェイトレスが、入口に立つ二人の姿を認めて営業用の笑顔を少し濁らせて、ぺこりと礼をする。

「いらっしゃいませ。二名様ですね。どうぞご案内いたします」
「……えっと、エゲリア。今日もあいつ、休みなの?」
「はい、終日休みです」
「そっか……」

 きっぱりと答えたエゲリアに案内されて、咲良と太陽は席に着く。
 
「こちらメニューでございます。ご注文がお決まり次第お呼び下さいませ。それでは失礼します」

 慣れた様子で対応して去っていくエゲリアを見送って、二人は軽く溜息を吐く。

「かれこれ三週間……まったく姿を見ないってこと、あったっけ?」
「いえ。二週間くらいならタイミングが合わなかったりで会えなかったことも無きにしも非ずですが、それでも一瞬くらいはあの茶色い尻尾が見えたりはしましたね」
「何せフロアチーフだもんな……店は、ちゃんと回ってるっぽいけど」

 彼一匹がいなくなっても世界は回る。当たり前の事実だが何となく物足りないような感じがして、二人は同時に軽く溜息をつく。

「そういえば咲良さんはここでアルバイトなさってましたね、やっぱり会わないのですか?」
「あぁ、シフト表見ても、一応名前は書いてあるんだけど……ずっと休みってなってる」

 パラパラと咲良はメニューを捲るが、特にこれ、と決められなかった。確かに空腹なのだが、食べようという気分になりきれなかった。
 5分ほど経って、決まったかどうか一応確認した後、太陽は手を挙げた。それに気付いたエゲリアがメモ帳を片手に二人の方に向かう。

「お待たせいたしました、ご注文をお伺いします」
「カステラのカラメルソースがけ一つ」
「コーヒーを一つ」
「はい。ではご注文を確認します、カステラのカラメルソースがけが一つ、コーヒーを一つ、以上でよろしいでしょうか?」

 二人がこくりと頷くと、エゲリアは「かしこまりました、少々お待ち下さいませ」と言って一礼し、どことなく沈んだ二人の様子に少し目を細めた。その若干険しい面持ちはすぐに営業スマイルに覆い尽くされ、何事も無かったかのようにエゲリアは厨房に向かった。

 それからエゲリアが料理を片手に戻ってくるまで、二人は半ば呆けたように静かにしていた。その空気にエゲリアはまた眉根を寄せる。

「お待たせしました、カステラのカラメルソースがけとコーヒーでございます」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとう」
「ご注文の品は以上で揃いましたでしょうか?」
「はい」

 太陽が答えると、エゲリアはさらさらと伝票に書き込んで、伝票入れに差し込む。

「こちら伝票でございます。どうぞごゆっくり」

 ぺこりと一礼して緑色の少女は去っていく。二人は出された料理を黙々と食べ始める。しかし、カステラもコーヒーも美味しかったのだが、やはりどこか物足りなかった。
 食べ終えた二人がかさりと伝票を抜き取って、金額の確認をする。しかし、そこには金額だけでなく、エゲリアの筆跡で伝言が書かれていた。

 『四時にシフトが終わるので、その後なら
  彼に会わせられるかもしれません。
  その気があれば裏口の方でお待ち下さい』

 咲良と太陽は顔を見合わせて、書かれてある時間まであと十分を示す時計に目を送った。






「まず初めに断っておきますが、私は彼の居場所を知っています。しかし、ちゃんと会えるかどうかは不明です」

 裏口で合流した三人は、素早くエゲリアの部屋に移動した。エゲリアが出した座布団に腰かけた咲良と太陽は彼女の言葉に表情を曇らせた。

「ここに居る訳じゃない、ってことか?」
「居るには居ると思います」
「???」
「話をするのは難しい、という事ですか」

 太陽の言葉にエゲリアは頷く。

「えぇ、この三週間、この家の龍は誰も地……ポコス殿に会ってません」
「え? 居場所は知っているのに?」

 エゲリアは溜息と共に肩を竦める。

「その部屋にはいつも鍵がかけられておりまして。まぁ開けようと思えば開けられるのですが……」

 言い淀んだエゲリアは、咲良と太陽を交互に見やり、自嘲気味に笑った。

「……まぁ、お二人なら大丈夫でしょう」

 そう言ってエゲリアは立ち上がり、ドアの前まで歩いてドアノブに手をかける。

「彼がどういう状態で何をしているのか。その辺りが分からないのでもしかしたら御不快な思いをされるかもしれませんが……それでも会います?」

 エゲリアが肩越しに振り返ると、真剣な表情をしてる咲良と太陽と視線が合った。エゲリアは少しだけ口元を緩める。どこか羨ましそうにしているように見えなくもない面持ちで、エゲリアはドアを開けた。



 二階の一番奥に位置するその部屋の鍵穴に、エゲリアは針金を二本差して弄繰り回す。

「エゲリア、この部屋って……」
「マスター殿の部屋ですよ」
「……なんでまた朱音さんの部屋に……」
「さぁ? マスター殿が何も仰らないので分かりません」

 カチャリと留め金の回る音が鳴り、エゲリアが針金を抜く。躊躇いも無い様子でドアノブを回したエゲリアを先頭に、三人は朱音の部屋に入る。
 目的の人物はあっさりと見つかった。勉強机に向かう様に椅子に深く腰かけたまま、突然の侵入者に身じろぎ一つしなかった。

「……ポコス?」

 咲良が声をかけるが、やはり何の反応も無い。ばさりと白衣を翻らせて太陽がポコスの背後に歩み寄る。

「おや、眠ってますねぇポコス君。おーい、起きたまえポコスくーん」

 声をかけながら太陽はポコスの頬をむにゅっと引っ張る。ふわぁ、と間抜けな声がポコスの口から洩れるが、起きる様子はない。
 
「……どんだけ深い眠りに就いてるんだ」
「眠っている、のとは違うのかもしれませんね……」
「いやー、普通に眠ってるだけですよー」

 背後からののほほんとした声に、しかし三人は堅い表情で振り返った。部屋の入口に、空色のエプロンドレスを纏った朱色の髪の少女が立っていた。やたらと友好的な笑顔がこの場の空気に似つかわしくない為に不気味さを醸し出していた。

「マスター殿……厨房の方はどうなさったのです?」
「今の時間は丁度アプエゲ君と灯磨と惣闇が揃ってるので、ちょこっと抜けて来ちゃいました」

 しまった、とエゲリアは小さく舌打ちした。朱音はにこにこと機嫌の良さそうな笑みを浮かべ続けている。

「ふふふ、私が仕事中の時間を狙ったのは良い選択だったと思うですよー。連れてきたのが咲良さんと太陽君なら私も気にするどころか大歓迎ですし。盗みに入ったんじゃなくて、彼に会いに来ただけでしょうからねぇ」
「……どういう事か説明願えますか? マスター殿」
「説明することも特にないですけどねぇ。彼がちょっと引き籠りたがって……と言うか、引き篭もらないとまずそうな感じだったから、引き籠らせてるだけですよ。あー、まぁちょっと表現は違いましたけど」

 町の外へ行きたい。引き籠りたい。まるで真逆の言葉だが、朱音には同じような意味だろうと解釈したし、実際今回はそれで間違っていなかった。他者との関わりを出来る限り絶ちたいという意味ではどちらも同じ行為だ。

「まぁ流石に挨拶も何もなしに引き篭もらせてしまったのはまずかったですかねぇ。とりあえずお二人くらいにはお話くらいした方がいいでしょうし」

 軽い足取りで咲良とエゲリアの横を通り抜け、椅子の横に立つ太陽の視線を受け流して、朱音はポコスの前に立つ。

「ポコスー。起きてくださいですー」

 朱音がそう言うや否や、むくりとポコスは上体を背凭れから起こし、前屈みの姿勢で少し目元を抑えてからゆっくり頭を上げた。

「……? もう夜……って」

 視線を感じたのか、ポコスは素早く椅子から降りて振り返り、目を見張った。

「エゲリアに、咲良、太陽……なんでお前達ここに」
「何でって……そりゃあ、その」
「何の連絡も無くただ一言当分来れない、という書き置きがあったら上司としてはお見舞いしないわけにもいかないでしょう」
「……それもそう、か……そうだな。悪かった」

 久々に顔を合わせる気まずさ故か、ポコスの表情はどことなく硬い。

「なあ、もしかしてどこか悪いのか? だったら篭ってるよりは診てもらった方が良いんじゃないか……?」
「あー……いや、別に特に病気という訳でもないっぽいというか……」
「仮病ですかポコス君」
「……何て言うか……外に出辛いだけだ。体調がすこぶる悪いっていう訳ではないけど」
「どういうことだ?」

 ちゃんと答えないポコスに咲良は質問を続ける。太陽も納得しきっていない様子だった。エゲリアはずっと黙って様子を見ていた。

「何と言うか……この家の二階から出られないみたいなんですよ。出ようとしても気が遠くなったり、人化が保てなかったり、色々不便でして。それで、何か私の部屋なら割とマシだという事が発覚して、色々原因とかがはっきりしたりするまで私の部屋に居ようか―みたいな感じになったのですよ。」
「……大丈夫なんですか? 朱音さん」
「何の問題もありませんよー。男女と言えど主従ですから」

 にっこりと朱音は笑う。気まずそうにポコスは彼女から視線を逸らす。まるで数年前の彼らを見ているかのようで、エゲリア達は少しだけ呆気にとられた。拍子抜けしたとも言う。ヘタレは所詮ヘタレだったのだろうか、と。

「あ、そういえばお二人共、時間の方大丈夫ですか? もうすぐ五時になりますけど」
「えっ、ああっ、そうだ、そろそろ帰らないと夕飯の支度が!」
「おやおや。あっという間にそんな時間でしたか」

 帰らないと。そんな空気になって、咲良と太陽はちらりとポコスの方を見る。二人分の視線を同時に受けてポコスは少したじろいだが、

「じゃあ、またな……今日はわざわざありがとう。その内、良くなったらドラカフェとかにも顔を出すから」

 困ったようにではあるが確かに微笑んで、彼は三人を見送った。



「で、ずっと黙ってたけどどうしたの?」

 裏口から二人を見送って、朱音は傍らの風龍に尋ねた。彼女は氷を思わせる眼差しで彼女を見つめて答える。

「……あまり歓迎されていないというか、私達と関わりたくない、という感じでしたので……」
「あぁー……悲しかった?」
「……まさか。情けないと思いましたよ。ちょっと自分を受け入れてもらえないだけで篭るなんて」
「ちょっと、ねぇ……うん。ちょっと、なのかもしれないですねぇ」
「違うと仰るのですか?」

 無表情に尋ねるエゲリアに、朱音は自嘲的に苦笑する。

「……私は、自分の感情を隠し過ぎたことを後悔しています。反省している、と言った方が近いかもしれないですが……もう少し素直で居れば彼を苦しめはしなかったですからね。そして私が素直じゃなかったのは決して彼の所為じゃないので、そこまで彼の自業自得だなんて言うのは流石に理不尽だと私は思ってしまうのですよ」

 エゲリアはただ一言、そうですか、とだけ答えた。これ以上の否定は聞きたくないという顔をされては、従者である彼女は他に何も言えなかった。






 その日の夜。いつもより少し沈んだ様子のポコスに、いつも通りのテンションで朱音は声をかける。

「久し振りにお二方とエゲリアに会った気分は如何ですかー」
「……変な気分だ。凄く驚いたし、緊張した」

 ベッドに腰かけていたポコスは溜息を零して、背中からベッドに倒れこむ。

「……もう会うことなんてないと思ってた……」
「ごめんなさいねぇ気まぐれで。でもあの三人なら大丈夫かなと思ったんですけど」

 正直朱音は自分が彼を軟禁している事を知られても構わなかった。それを知られて咎められても避けられても構わないと思うくらいには覚悟を決めていたし、実際彼さえいれば他のことは半ばどうでもいいと彼女は思い始めていた。
 同時に、唐突過ぎたと反省もしている。だからエゲリアが裏口から咲良と太陽を招き入れた時も見逃して部屋に入れることも厭わなかった。見られて困るものなんてなかったのだから鍵を掛けなくても良かったくらいかもしれない(そこまで思って朱音は、でも持って行かれるのは嫌だから、鍵は今後も掛けておこう、と思い直した)。
 ついでにあの三人なら大丈夫、と思ったのは彼自身がたまに思い出したかのように咲良と太陽の話を振っていたことと、エゲリアなら口も硬いし察しもつくだろうと見込んでいたからである。

「うん、まぁ、あの三人ならまだ……けど、吃驚はした」
「疲れちゃいましたか?」
「……大丈夫だ。何か頬痛いけど」
「あらまぁ」

 ポコスの横に腰かけていた朱音は眉根を寄せて、彼の顔に手を添えて、両の頬に口付けを降らせた。その柔らかい感覚にポコスは思わず体を固くする。

「……しゅ、朱音……」
「嫌でした?」

 少し残念そうに彼女は首を傾げる。ポコスは少し慌てて首を振る。

「嫌じゃなくて、いきなりは心臓に悪い」
「不意打ちはお互い様でしょう?」
「……それもそうか」

 ポコスはそう呟いて朱音を抱き寄せた。そのままごろんと転がって、その首元に顔を埋めたまま彼は動かない。彼の腕の中に閉じ込められた朱音は怯える様子も無く、ただふわふわと笑っていた。



 全ての話は三週間前に戻る。

「別に出て行かなくても、この町から離れることはできますよ」

 鮮やかに笑う朱音の様子に、ポコスは呆けたように瞬いた。

「貴方の世界を私が奪ってしまえば良いんですよ」

 ポコスは彼女を見つめた。彼女の意図が掴み切れなかった彼は混乱した頭をフル稼働させてそれを探ろうとしたのだが、朱音の演技がかった言葉がそれを制した。

「あぁ、勿論貴方だけ損させるわけにはいきませんからねぇ、私も貴方にあげますよ」
「……何を」
「私の心を? まぁ貴方が要ればの話ですけど」

 今度こそ見事に思考停止したポコスの額に軽く口づけた朱音は、彼の頭を抱える様に抱き締めた。

「ポコス、貴方を愛します。愛しています。甘い夢に溺れたみたいに愛してあげます。だから貴方の世界を私に下さいな」
「…………ぐ、具体的には……?」

 目を白黒させている彼に、朱音は歌っているみたいに上機嫌な口調で答えた。

「私の部屋に軟禁されていれば良いんじゃないかなーと思うのですよ。そこから出してあげません。私が仕事で部屋にいない時は、ずーっと眠っていれば良いのです」
「……エゲリア達には何て言うつもりだ?」
「契約がちょっと変な風に支障きたしたのでちょっと貴方に引きこもってもらってます、ってことにします」

 どこか浮き浮きとしているような感じさえする彼女の口調にポコスは言葉に迷った。

「……というか良いのかよ、俺が居て。お前に一番迷惑かけたのに」
「貴方にそこまでさせてしまったのは私の言動でしょう? なのにどうして貴方を怨む必要があるのです」
「そんな事……それでも、俺がもっとまともなら……」
「仮にまともでも狂わせるくらいの影響はあるって思ってたんですけど、私。流石に自惚れ過ぎでしょうかねぇ?」

 切なげな囁きに、ポコスは視線を泳がせる。

「……い、いつから?」
「何がです」
「その……だって、前は、応えられないって……」

「あの時はですねぇ、貴方の言葉を受け入れられる程、自分の思いが真っ直ぐではないと分かっていたからなのですよ。貴方の言葉を信じ切れなかったこともありますけどね。
 でもそれから貴方は迷子のように私ばっかり考えるようになっちゃいましたからねぇ」

 探していたはずの誰かを見失ってしまうほどに。
 その言葉は呑み込んで、朱音は言葉を続ける。

「なんか、愛しいなぁって思えてきたんですよ、素直に」
「責任を感じた義務感から、じゃないのか?」
「私そこまで真面目じゃありませんよ」

 ポコスはゆるゆると顔を挙げて、暗く揺れる瞳で朱音を見つめる。

「……都合の良すぎる夢みたいだな」
「夢みたいな現実を迎えるには丁度良いと思うですよ」

 それもそうかと苦笑する、そんな彼に朱音は微笑みかけた。

「じゃあ、おやすみなさい、ポコス。私が起きてっていうまで、起きちゃ駄目ですよ」
「ん……わかっ……た……」

 それはお願いではなく命令だったから、彼の体は彼女の言葉に忠実に動く。すぐに意識を飛ばした彼を、彼女は部屋に連れ込んだ。



「おやすみなさい。良い夢を……」

 夢に飽きれば目を覚ませばいい。そうしてまた、この部屋の外の人達と話せるようになれば良い。

「また、ねぇ……」

 その時私が縛り過ぎなきゃ良いけれど。
 一瞬脳裏をよぎったその言葉を流して、朱音もまた眠りに就いた。



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