ぽかぽかとした陽気、そよそよと吹く風。
それらを一身に受ける森の木のした、すやすやと寝息を立てる男女がいる。
そして。
『コマチ。君に予言をあげよう。
起きてすぐ手にしていたものを、今日一日手放さずに過ごしなさい』
その片割れの少女は、そんな声を聞いて、目が覚めた。
01.おひさま
ぱちりと目をあける。はっきりと聞こえた声の主は目には見えない。それは、彼女にとっていつものことだった。
だから彼女が探すのは声の主ではない。己の手のひら。
そこに確と握っていたものに、彼女はわずかに眉を寄せる。
手の中にあるのは、緑色の髪。
長いそれの持ち主は、彼女の膝の上ですやすやと寝息を立てている。
健やかな寝息に、思い出す。眠りに落ちる前のこと。
彼と彼女は、本日、この大きな木の下で、ピクニックにいそしんでいた。
お弁当を広げていちゃいちゃ―――もとい、しばらく触れ合った後、彼女はぱたんと本をあけた。
穏やかな日差しのした、なぜいきなり読書。
目線でそう語っていた彼だが、すぐにふっと笑った。このあたりは慣れだ。今でなくてはならない理由があるのだろうと、納得した。
納得し、彼女の隣で日向ぼっこにいそしむ彼。
その姿はそれなりに満足げで、それなりに幸せそうだ。
そうなのだが、どうにもしょんぼりしているようにも見えた。
だから彼女は、自分の膝をぽんと撫でていった。
ここは膝枕でも差し出すべきでしょうか、と。
その言葉に彼はきょとりと目をみはり。数度瞬き。君はたまに心臓に悪いですよとか、愚痴愚痴といった後。
明らかにいそいそと嬉しそうに頭をよせてきたのは、言うまでもない。
そう。
だから彼はやけに心地よさそうに寝息をたてているし、本を読み終えた彼女もいつしか睡魔に誘われた。
起こすのも忍びないからと眺めていたら、いつしか。
起こすのも忍びないけれどとなんとなしに頭を撫でていた覚えも、彼女にはわりとしっかりとあった。
だから、なのだろう。
握りしめた髪を眺めながら、彼女はそう納得する。
納得の後に、ひそかに困惑する。
理由を話し、髪のひと房がほしいと告げてみる。
そうすれば、彼は間違いなく希望を聞いてくれるだろう。
しかし、機嫌は良くない気がする。何か不満げな、我慢をしているような顔になりそうだ。
――――それが俗にいう拗ねている顔だと彼女は知るよりもないが、なにやらこらえていることは良くわかった。彼は分かりやすい竜だから。
ならば、どうしよう。…どちらにしろ、今はなにもいうべきでもないかもしれない。
今は寝ていることだし、このままでいた方がよい。
起こしてまでする話ではないだろう。やけに幸せそうなことだし。
諸々の考えごとにそう結論づけ、彼女は小さくうなづく。
頷き、そっと目を細め。
髪を握りしめていた手と逆の掌で、静かに彼の頭をなぜた。
ぽかぽかとした陽気、そよそよと吹く風。
大きな木が作る木陰のしたで、穏やかな顔をした少女と、幸せそうな顔をした青年は、日が暮れるまで寄り添ったまま。
そうっと時間を過ごしていた。
○おまけ
「おはようございます風矢さん」
「…な、に律儀にずっと膝枕してたんですか。疲れたでしょう」
「いいえそれほどでは。ところでお顔が赤いようですが大丈夫ですか」
「いえ…その、大丈夫ですけどね…」
「それはなにより。
ということで髪をください」
「懐かしいフレーズですね!? なにがということで、なのか分かりませんよ!?
ああもう……あー…でも、いいですよ」
「しかし悲しげな顔をしていらっしゃいます」
「いえ悲しいというよりあれの声の指示かと思うと………、…いや。やっぱりどうでもいいです」
「嬉しげになりましたね」
「ここはほら。僕は君のものってことで。いくらでもあげることにします」
「…意地の悪い顔をしていらっしゃいますね風矢さん」
「なんのことでしょうか」
「そもそも風矢さんはものではないのでその言葉はおかしなお話ですわ」
「……僕は君のそういうところが、すごく好きですよ」
握りしめた髪は色々あって朱音さんちのあつあつコロッケに化けました。