赤、黄、橙、緑、青、藍、紫……
きらきらと輝く滴を前に雛姫はキラキラと目を輝かせる。
その愛らしさに真夜は頬を緩めて言った。
「好きなの一つ選んでいいですよ」


19.いろとりどり


町の空き家を改造して作られた会員制カフェ「ドラゴンズカフェ」。
会員制のカフェ、と言えば聞こえがいいが、その実態は長時間無駄話をしても怒られない飲食の出来る所だったりする。
「今日は雛姫嬢を派遣していただいてありがとうございました」
お茶を差し出しながら、真夜は羽堂へと頭を下げる。
68番地では、龍派遣サービスを行っている。現在真夜の家の龍が2人ほど熱を出しているので依頼をして来てもらったのだ。
「いえ、此方こそお土産までいただいて」
お茶を受け取りながら、羽堂は帰ってきた雛姫がレモン色の水飴を大切そうに両手で持って帰ってきたのを思い出す。日の光を浴びてきらきらと光っていたのを覚えている。
「そうだ、羽堂様も水飴いかがですか?」
実は持ってきているんです、と言って真夜は椅子に置いていた鞄を机の上に置く。ごと、と少し重そうな音が響いた。
「この間倉庫整理していたら色素抽出用に買っていた材料がそれなりに出てきたので、駄目になる前にと抽出したんです」
コト、コト、コト、と真夜は鞄の中から小さな瓶を取り出す。
「発色の確認も兼ねて色々試したら凄い事になってしまって」
コトリ、コトリ、と次々増えていく瓶。机の上に置かれた小瓶達は灯りを受けてきらきらと柔らかな光を返す。
「どれだけ作ったんですか」
机の上の瓶が10を超えた時点で羽堂がツッコミを入れる。真夜は照れたような笑みを浮かべて言った。
「この色羽堂様っぽいなぁとか、かなた様の髪の色に似てるなぁ、とか思ってついつい色々遊んでしまって。
 ふと気がついたら凄い量になっていました」
えへ、と笑いながら言う間も次々に鞄から水飴が出て来る。その数が20を超えた時点で数えるのを放棄した。
一体あの鞄の中にどうやって収まっていたんだろうか、重くは無かったのだろうか、というツッコミが浮かんでは消える。
「色付いているから普通の料理に使うにもちょっと躊躇いますし。
 色素で色をつけただけなので、味は水飴そのままですから量食べると飽きますし。
 香料で香りをつければもう少し違ったのでしょうけど、そこまでする気力がちょっとわかなくて」
机に所狭しと乗せられた小瓶が並ぶ。似た色はあれど全く同じ色は無い。微妙に違うさまざまな色がひしめき合う。
「ですから、どうか好きなのを好きなだけ。さあ、どうぞ手にとってご覧ください」
「真夜さん、なんか商売モード入っていませんか?」
「あ、つい癖で」
指摘され、頬を押さえて真夜は照れたように笑う。
羽堂は傍にある瓶を手に取ってみる。夏の空を彷彿とさせる鮮やかな青色が白い手に青い影を作る。
「青って綺麗ですけど美味しそうに見えませんよね」
「食欲減退色ですからね〜
 あ、薬として使われる実を発酵させて作った色素ですから食べても人体に影響は無いですよ」
「その辺は疑っていませんが」
次いで赤い瓶を手に取る。羽堂の手がルビーの様な真紅に掌が染まった。
その掌を見て真夜がぽつりと言う。
「……手が真っ赤に染まるって、音だけで聞くと怖いですよね」
「ここでは時折あることですけどね。戦闘系は特に」
真夜の呟きにさらりとドライに答える羽堂。戦闘系は拳で友情を語るのだから仕方がない。
ひょいと真夜が掌に黄色の水飴を乗せる。掌が黄色に染まった。
「黄疸ー」
「モノボケですか」
良い笑顔で掌を指さす真夜に羽堂がツッコミを入れる。
真夜は暫く手の水飴を眺めた後、隣のテーブルにコトリと置く。
次いでオレンジ色のを手に取り、その上に置く。
羽堂が手を止めじーっと見ている中、真夜は真剣な顔で赤をその上に積む。
微妙にぐらつきながらも、3段に重ねられた水飴。縦に長く影を作る光景を見て真夜は満足そうに笑う。
羽堂もそれを見て水飴を片手に傍に寄ってくる。
二人は無言で水飴を積み始める。最初は縦に積んでいたが、次第にピラミッド形へとその姿を変えて行く。
最初はバラバラだった色彩も、次第にグラデーションになるようにと整えられて行った。
段々と何かがずれて来たが、それに関してツッコミを入れる者は居なかった。
その奇妙な行動は、カフェにやってきた朱音とかなたのツッコミが入るまで続いたのだった。


因みに。
大量の水飴は、朱音シェフの手により色鮮やかなカステラに化け皆で美味しく戴きました。
どっとはらい。



back