「あったかいんですよー。炎龍は。ぬくぬくです。まるで湯たんぽのようで湯たんぽよりやさしいぬくもりです」
「光龍もあったかいですよ。奴ら鱗がお日様の熱を吸収していますからね」
「火乃香さんあたりさぞや素晴らしいぬくぬくでしょう。しかもふかふかです。あと10…20、30分の1くらいなら抱きしめたかった」
「人型の火乃香を思う存分もふもふする手もありますよかなたさん」
「すごく魅力的だけどそれをやったら私社会的に死亡フラグな気がします羽堂さん」
これは、そんな話でカフェが盛り上がったことと―――関係あるようなないような、微妙なできごと。
ひとついうなら、そう。この話をしたのは、その出来事のはるかにあとだった。
あったかい
―――それは、今より昔。
ある寒い日のできごと。
111番地のチーフは、オーナーシェフの視線をかんじてふりかえった。
目があった彼女は一瞬驚いたように瞬いて、にっこりと笑う。
笑ったまま、何も言わない。
「なんだ?」
「ポコス」
尋ねる地龍に、主はごくごく真面目な顔を作って言った。
「あなた、だっこしたらあったかかったりしませんか?」
…………。
なにをいっていらっしゃるんだろうこのシェフ様は。
「地竜は果たしてぎゅーっとしてもあったかいかどうかが気になりまして」
渋面を浮かべるポコスを見、楽しげな笑みへと表情を変えた彼女は続ける。
彼が言葉を失ったことでできた沈黙を埋めるように。
「ムンダーをだっこしたらあったかかったんですよー。昔灯磨をだっこしてもあったかかったんです。
炎龍ってあったかいんですね」
だから、あなたで実験を。
にこにこ。にこにこ。
悪戯っぽい色はあれど、警戒心のケの字もない笑顔を受け止め、ポコスは深く息をつく。その反応こそ楽しまれているかもしれないと思いつつも。
「仕事してりゃ熱いだろ」
シェフとは火から離れることはすくない職業である。
動き回っているからなおさらだ。
朱音はにっこりと笑った。
「私はあなたがいいのですが」
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なにをいっていらっしゃるんだろうこのシェフ様は。
再び凍りついた青年に、朱音はさらににっこりと笑った。
「ほら、他の方でもいいのかもしれませんが。大事な方にだっこされた方が。あったかい気持ちになれそうですし」
どういう意味で大事なんだろう。彼が口に出せない間に、彼女はそれに、と笑った。
「あなたが竜に戻ったら、ちょうど良い大きさじゃないですか♪」
サイズか。サイズ的な意味なのか。
こみ上げる色々な思いを押さえて、彼は深く溜息をつく。
あったかいを通り越して熱くなった頬を抑えつつ。
「絶対に駄目だ」
きっぱりと言って背を向けるポコス。
どことなく肩を落とす従者を見ながら、朱音はやはり笑顔を絶やさない。
悪戯っぽく、どこか黒っぽい笑顔だった。
―――そして。それからしばらくたって。
「試してみるか?」
「咲良さんに頼みますので。大丈夫ですよ」
にこにこと、笑顔の種類をほんの少しだけ変えて。
似たようなやり取りが繰り広げられている、かもしれない。