それまでも、見かけたことがなかったわけではないけれど。
まともに言葉を交わしたのは、うちの廊下が最初。
―――いや。
会話した、つーか、髪ひっこぬかれたんだけどなあ、あれは。
目の前の光龍を見て、そんなことをしみじみと思い出す。
銀色の髪と、どこみているかが分からなくなるほどの蒼い瞳。龍の中でも際立って綺麗と言える顔立ち。
風矢の嫁ってことで増えた同居人とじっくり顔を合わせると、思う。
…こいつ、水鳥に似てるな。
笑顔
なんとなくかつての友―――…友達か?あれ?でもなんだったんだろう。…し、親戚?―――…ともかくちょっと懐かしい少女は、なんとなく浮いてた。
すげえむやみに丁寧な言葉遣いとか、しゃんと伸びた背だとか。巫女服だとか。
いや、そんなことより、さ……
うちのリビング。
この度増築したし、緋那の尽力でこざっぱりはしてる。けど、六人が別に広々とは住んでいない、スタンダードな家。
こいつの実家。
なんか、ピアノとかおいてあったことがものすごく印象に残ってる。
…バランスわりいなあ。
気まずい。
こいつ喋らないから、余計に。―――でも。
ああ、と思う。
こういうところも、あいつに似てる。
ディアの傍で、なんかおとなしくしてて。超とっぴょうしもないことしてたあいつと。
…あいつとはどう打ちとけた(?)んだっけなあ。あの、髪ひきぬかれた後。似てるんならこいつにも通用しないかな。でも、ディアが間に入って…っていうより、なんかときはなってたよなあ、あの女は。
ああ、そうだ。確か、動物に接するような気持ちか、とか思って。…笹かまとかやったっけ。
そうか、笹かま、か…。
…笹かまか? 本当に笹かまでいいのか? いや今は駄目じゃないか…?
「はい、メー君。なんか変なの考えて煮えるのはいいけど。レディをじっくり見るのは止めようね」
声と共にカタと置かれた茶に、はっと我に返る。
…うん、そうだな。水鳥相手でも、笹かまは。どうだったかと思ってる。今は。
―――自分より先に。
むやみやたらににょきにょきと、妙に美しく成長した姿を見せつけられた今では。少し。
少しだけ、そう思っていたし。ましてやこいつは見た目がしっかり同年代。駄目だ、餌づけは。なんか、すごく。
「可愛い同居人に見とれてたとかいったら風矢君が怒るんだからー。その前に私がおこるんだからー」
「は? …………。…ああ、そうか、可愛いって、小町か!」
「え、なにそのすごく失礼な間」
…いや、だって。可愛い同居人だとは特に思ってないし。
なんつーか、同居人はいいんだけど。可愛いはなあ。別に。むしろ綺麗だろ、こういうのは。
特に何も思わないだろ、可愛いとかそういうのは、普通。
「んもう、わけのわからないメー君だね。ぼさっとしてると老けるよ」
「な、何怒ってるんだよ…」
「別怒ってないよー。なんか心にやましいことでもあるんじゃなあい? …はい、うるさくてごめんね。
気を取り直して、小町さんもどーぞ」
同じように茶を勧められた小町は、ありがとうございます、と受け取る。
丁寧に、礼儀正しく。
知っていたけれど、その辺りがすごく、…なんか、いいとこのお嬢様みたいだ。
「仲がよろしいのですね」
けれど、いいとこのお嬢様っぽく浮世離れした少女が浮かべたのは、なんだか微笑ましげな微笑。
それを見て、ああやっぱり似てる、と思う。
まあ、風矢辺りにはまったく違く見えているんだろうな、なんても、思ったけれど。
俺が思い出すのは、昔のこと。
いなくなったと聞いた時、少しだけ寂しいと思った。
あの二人が最後まで一緒で、少なからず安心したけれど。どこかで、妙に。
だからこいつを見た時、少しだけ安心した。
ああ、いなくなってないな、と。
残っているな、と、
そう、残るから。
いつか。遠くない未来に、俺達いなくなったら。
きっと寂しがるあいつも、同じように思ってくれたらいいのだけれど。
思えばあの時の寂しさは、恐らく己自身の感情と他に、もうひとつ。自覚していなかったけれど、置いていく痛みをいつか与える気がしてたから。
だから、寂しくて。安心した。
ほんとに、同じだと、いいのだけれど。
違うものだと道を別ったあいつに、今はそれだけ、同じを願う。