21-手袋
指先に息を吹き掛ける。
白い吐息はやがて乾燥した空気の中に消えた。
「ちゃんと手袋を着けなさいよ」
イソレナさんが声を掛けてくる。
まさか見られているとは思わなかった。
少し恥ずかしい。
「んー…ちょっと、手袋苦手なんですよ」
「ほう?」
「指先の感覚が鈍くなるというか。それがどうも苦手で」
手に覆いを被せるのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
武器の類を握る時に嵌める様な、指の出るタイプならそういうことは無いかもしれない。
しかし寒気で冷えるのは主に指先。指の出るタイプを買っても意味が無い。
「そういうもんですか」
「そういうもんですよ」
冬になり、雑貨屋の店頭に可愛い手袋が並ぶのを見て、ときめきはする。
だけど使わない。だから結局は買わない。そんなことを繰り返してもう数年にもなる。
加えて実は私、帽子やマフラーの類も苦手だ。
とことん防寒具に見放された女と言えるかもしれない。
「じゃあ、指先が鈍らない手袋があればいいんですね」
「ええ、まぁ」
何か考えていたイソレナさんが首を捻って言う。
私も首を捻って頷く。
確かにそうだ、その通りだ。
指先まで覆われていて、なおかつ感覚の鈍らない手袋があればいい。
言えば簡単だが、実際にそれを見付けるのは相当の苦労が必要であろう。
全人類の憧れ、一種のアーティファクトと言ってもいい。
…流石にそれは大袈裟だろうか?
「当てが無いことも無いです」
「マジですかい」
「要するに、指にぴったりとフィットする、薄い手袋ならいいんですよ」
「ふむ」
薄い分、防寒効果は低そうだ。
それでも手を直接寒気に曝すよりは余程暖かそうである。
しかしそんな素材が何処にあると言うのだろう。
錬金術で生み出された新素材、とか。
少し期待した私に、イソレナさんはにっこりと微笑みかける。
「人皮で作ってみるのはどうでしょう」
「却下。」
何処ぞの魔術書か、そりゃ。
手袋に呪文の類を書き込んでやればそれごと呪物になりそうだ。
ある意味レアな一品かもしれないが、普段使いはしたくない。
「うむ、残念」
イソレナさんはそう残念でも無さそうな口調で笑う。
からかわれたのだろうか。
「…………」
取り敢えず、ジト目で睨んでみる。
彼は苦笑して、私の両手を取る。
大きな手で、私の手を包んで、笑った。
「じゃあ、これで」
「…………感覚が鈍るどころか、使えないじゃないですか、手」
「一長一短ですよ、どんな物でも」
上手く纏めやがった。
私は反論の糸口を失い、俯く。
重なった手をじっと見た。
確かに、どんな手袋よりも暖かいに違いない。
…主に暖かいのが別の場所、というのはどうかと思うけれど。