「なんでエゲリアって魔女って呼ばれてるんだっけ」
唐突に話を振ってみる。
案の定、ポコスは眉を顰めた。
「…何故俺に訊くんだ」
「そこにいたから」
それ以外に理由は無い。
なんとなくエゲリアの姿が脳裏に浮かんで、横を見たらポコスがいただけだ。
それで訊いてみただけ。
ポコスはじろじろと私を見る。
少し身体を引いて、不審げな目付き。
「なんか失言したら言い付けてやろうとか…」
「そんなに性格悪くない」
多分、と言葉の後ろに付け加える。
ポコスはますます胡散臭そうな眼差しで私を見た。
すっかり疑心暗鬼に陥っている。苦労しているのだろう。
苦労の原因の一端に私がなっているかもしれないということはスルーしておく。
しばらくしてポコスは溜息を吐く。
「気が付いたら呼ばれてた気がするし、忘れてる事もありそうなんで、言い切れはしないけど…」
誤魔化されるのかと思ったら、ぽつぽつと言葉を選んで喋りはじめた。
なんだかんだで付き合いはいい男である。
育ちがいいのかもしれない。
…………。
…ポコスの育ち、ねぇ?
興味深いような気もする。
訊いた所で語っちゃくれないだろうけど。
元々彼は余り口数の多いタイプでは無い。
口にする言葉の五倍、心の中で考えてるタイプだけど。
「気が付いたらって、そんな昔から呼ばれてたっけ?」
「第一楽章の二番目辺りで既に呼ばれてるな」
「…………」
何の話や。
首を傾げる私。
ポコスはこほんと咳払いをする。
「とにかく、大分前だよ」
「ふぅん」
「ところで、何故急に?」
「いや、なんとなく…」
本当に、特に理由がある訳でも無い。
単に、今朝窓を開けたら、人姿で箒に乗って飛んで行く小町が見えて。
普段巫女っぽい服とか着てんのに行動はまるっきり魔女だよな…と思って。
朝ごはん食べながら主人を眺めてたら、そういえばこいつも魔法使えるんだったと思い出して。
魔法が使える女なら魔女だろうか、とか思って。
魔女っていえば後はエゲリアだなぁ、と連想で辿り着いて。
…まぁ、とにかく色々あって、魔女って何だっけ…みたいに思った次第である。
そんな取り止めも無い話を、ポコスはつまらなさそうな顔をして、でも頷きながら聞いていた。
「…俺としては、お前んとこの主人が魔女かって言われたらちょっと首を傾げるけどな」
「え、なんで?」
「いや、魔法を使える女って事には変わりは無いけど…そもそも『魔法』の定義から曖昧だな。
魔力を使って何かをする奴が『魔女』なら、お前だって間違いなく魔女だろう?」
「…うーん」
「龍の女は殆ど魔女になるな、その定義だと」
言っちゃ何だが、私は魔力の扱いが下手だ。
人の形になることと、地の精霊を扱うだけで精一杯。それも『扱える』だけで『操れる』とは言い辛い。
正直殴ったり蹴ったりする方が早いし、威力も高い。
…自分の事を脳ミソ筋肉系とまでは思わないが、…魔女か否かと問われたら『違う』気がする。
「そう言われるとややこしく感じるな…」
「あと、魔法に限らず、錬金術とかそういうことについてもそうだけど。
魔法を使って戦う奴や、錬金術を使って戦う奴を『魔術師』『錬金術師』と言うかについても意見が分かれそうだぞ。
化学兵器を使って戦う兵士を化学者とは言わんだろう?」
「…つまり、そういうのはあくまで『魔法使い』『錬金術使い』であると」
「俺はそう思う」
自分で呪文や学説を研究するのが『魔術師』『錬金術師』。
既存のものを覚えて色々するのが『魔法使い』『錬金術使い』と。
本当に意見の分かれそうな所だ。
「羽堂が普段研究してる所とか見たことないもんな…フェレスとトゥエルヴのアレの時にはそれなりにやってたけど」
「そもそもあの人の場合、種族がエルフだろう。龍と同じで、『ある程度魔力を扱えて当たり前』な種族だし、種族的魔法使いとでも言うのか」
「なるほど…?」
「まぁ、何より本人が『それっぽいか』っていうのがターニングポイントだろうと思うんだが」
「それっぽいかって、魔女っぽいってことか」
ポコスは頷く。
魔女っぽさっていうのもまた人それぞれ定義が違うんだけど、と前説を置く。
「小町に関しては充分条件を満たしてるな。
何を考えてるか解らないし、何をしてるのかも公にしない。龍魔法も使える。
大鍋で何か掻き交ぜてるって噂も聞くし、まず本人が『魔女』になりきってる。あの変な帽子とかマントとか、箒まで用意して」
小町の能力の一つに「龍気功」がある。
魔力というか、気合いみたいなものをぶつけて物を動かす。
人間の言う所のサイコキネシス、みたいな。
で、それを応用できれば、翼を出さずとも空を飛べる訳だ。
そう、小町は元々人型でも空を飛べるのである。
箒や帽子なんて必要である筈が無い。
だけど多分彼女は、箒を取り上げると空を飛べなくなるだろう。そんな気がする。
「…羽堂に関しては、『自分は魔法が使える』とは思ってるけど『魔女』とは思って無さそうだな」
お前は魔女だ、と言ったら、『ああ、言われてみれば魔女だね私』とか言いそうではあるけど。
「で、エゲリアに関しては…龍魔法は使わないけど、よくわからん技を使う」
「よくわからんって言ったら失礼かもしれないけどな…」
私から見ると充分よくわからない。
風を吹かせたり、気圧を変えたり。
…まぁ、彼女から見た私らくらいにはよくわからないのでは無いだろうか。
地から力を吸い上げたり、地中の様子を音で探ったり。
自分に想像も出来ない技術は『よくわからん技術』だ。
「加えて、性格や言動がアレだ」
「アレだな」
ポコスは『アレ』で逃げた。
まぁ、何を考えてるか解らないとかミステリアスとか、そんな所か。
「ついでに、髪が長い。無暗に髪が長い女って、『なんかありそう』じゃないか?」
「お前が言うのか、無暗に髪が長いって」
そもそもなんで伸ばしてるんだろう、こいつ。
いやまぁ、どうでもいいけど。
確かに言いたい事は解る。
何となく、『ものすごく髪を伸ばした奴』には、何かあるのでは無いかと思ってしまう心理。
「そんなのがいつでも本を読んでたら、魔術書か何かを読んでる魔女にも見えるだろう。中身が爆笑エッセイでも」
「…まぁ、確かに、言われてみればなぁ…」
物凄く納得。
エゲリアが爆笑エッセイなんてものを読むのかどうかは知らないが。
そもそも彼女の爆笑を想像するの自体が難しい。
私の想像力にも限界がある。
…今度読ませてみようか。
「…ってのが大体の推測だが、満足したか?」
「ありがとう。…なんか、視野が広がった気がする」
素直にお礼。
いやいや、とポコスは複雑な顔をして首を振った。
後日。
エゲリアに私お勧めの爆笑エッセイと娯楽小説を数冊贈ってみた。
目下の目標は、なんとかして読んでる現場を覗き見る事である。
…当初とは違う目的の方に進んでしまった気もするが、…まぁ、いいか。