春。長い冬の名残は完全に姿を消し、穏やかな日差しに包まれたある日のこと。

「朱音〜、グアムに行かないか?」
「………」

ポコスが太陽になった。



動転し、これは呪いか病気か?とりあえず神官呼ばなきゃ!と知り合いの神官である乾に電話をした辺りで朱音は冷静になる。目の前に居る地龍に何があったか聞けば手っ取り早いのでは?
とりあえずポコスを店の食卓に座らせ、カツ丼を作り目の前においてみる。

「話す気になりましたか?」
「いや何を?」
「故郷のお母様も鳴いてるよ〜?」
「字違うし、故郷に母ちゃんは居ない!!」
「生まれた瞬間死別しちゃうからね」

言い切ったポコスに、うんうんと頷く灯磨。
朱音は微妙になった空気を「それは置いといて」と仕切りなおし、

「………中々話しませんね」
「主人さん、ライトライト。ライトを顔に当ててチカチカさせないと」
「お前らは俺に何を……いや待て言うな、頼むから」

ポコスの言葉に目を輝かせて何かを言おうとする主人と灯磨。その様子に無駄だと感じながら発言を制止するポコス。朱音がどこからか取り出した電灯を使い、尋問を再開しようとした時店のドアがカランコロンと来客を告げた。

「いらっしゃいませ〜」
「こんにちは〜乾さんお届けにあがりました〜」
「届けられました〜」

ドアを開けて乾と、それからもう一人。箱に首までずっぽりと埋まった人物が姿を現す。

「ポコっちが大変だと聞いて急いで駆けつけたんですが無事ですか?」
「その情報を道すがら聞いて野次馬に来まし、冗談ですよポコっち」
「わぁ、最後棒読みですよイソレナさん」

誰がどの台詞かはご想像にお任せするとして、朱音は二人に椅子を勧める。

「そうです忘れてました。実は宅のポコスが、パッチーさんの所の太陽君に影響を受けて不良に……」
「成る程、それは大変ですね」
「成る程。『子供の非行を他の子供による影響だと学校に乗り込んだ母親』ですか。演技派女優顔負けの演技です」

沈痛な表情で朱音の言葉に頷く乾。乾に続くようにイソレナも真剣な表情でそう言った。

「それで、症状が出たのはどんな状況でしたか?」
「それは今朝のことでした。お店の仕込をしているとポコスが情熱の篭った瞳で私を見つめ、『朱音、俺と一緒にグアムに い か な い か 』と………」
「青いツナギを着て言ったんですね」
「帰って良いですか?」

席を立つ乾に二人して謝り倒すことしばし。
再び着席した乾は、朱音の説明を聞き終えた後数分黙考したあと、テーブルの隅で居心地悪そうにしているポコスに向き直り。

「結局、何故そんな台詞を言ったんですか?ポコっち君」
「……朝方、引いてきたクジで『グアム3泊4日家族旅行』ってのを当てたんだよ」
「ああ、そういえばクジ引き券あったね」

乾の言葉に気落ちした様子でポコスが答え、思い出したように灯磨が頷いた。
その言葉に朱音は驚いたように目を見開き

「そんな!何でそんな大事なことを早く言わないのよ!」
『いやいやいや』
「言った!めっちゃ言った最初に!!」
「クジ引きのことよ、楽しみにしてたのに!!」
「そっちかよ!」

やいのやいのと俄かに騒がしくなった店内。

「帰りましょうか、馬に蹴られる前に」
「そうですね」

苦笑して席を立つ二人に灯磨は苦笑いを浮かべながら頭を下げる。
店の外に出て、男たちは二人して深いため息をつき。

「乾さん、パッチーさん誘ってラーメン食べに行きましょうか」
「そうですね。濃いぃトンコツでも」

二人は手を扇のようにして顔を扇ぎながら、近場のラーメン屋に向かう。
グアム土産は木の置物でした。幕。



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