「さあ、今日も突撃!隣の晩御飯の時間がやってまいりました!!」
「………前から言おうと思ってたんですが、本っ当に気の抜ける前口上ですね!」
「……あはは、気持は分かりますよ」
広場の中。でかいしゃもじをぶるん、と一振りしてお決まりの前口上を述べる男……パッチーに、羽堂はそう言い、口上を述べられた相手であるかなたも苦笑気味の笑い声を上げる。
数多居る戦闘系の中でもこの人とイソレナさんの前口上は、聞いた相手のテンションを駄々下げするか駄々上げするかの2択だといわれており、所轄色物の扱いを受けているのだ。
「それで、何の御用……かはまあ分かるんですが、いきなりですね」
「様々な事情があるのですが、そろそろどっかから食料を強奪しないと一家心中しかねず」
「……太陽君が、最近うちでご飯を食べていくのって………」
「悲しすぎます、それ悲しすぎますパッチーさん!」
最近、朝町内で戦闘が諸事情により激減しており、戦闘によって生計を立てていた彼のようなタイプの町民は家計簿がド真っ赤の状態なのは知っていたが……ほろり、と二人の女性が涙を零す。
「ぐず……分かりました、パッチーさん!このかなた、正々堂々真っ向からお相手させていただきます!!」
「おお、その涙は色々来る物がありますが、お受け下さるかありがたや!」
涙を手の甲で拭い、愛用の剣を手に取るかなたとしゃもじを振り上げるパッチー。
二つの剣と剣?がぶつかり合い、勝負は開始されたのであった。
「ぐ、おおおおお!まだまだぁあぁ!!」
「た、盾で剣を弾かれ、あっつ!」
剣と盾を構える剣士二人がぶつかり合うと、宛ら古代ローマの剣闘士のような戦いになる。
身軽な動きで相手を翻弄するかなたと、力技で相手を押しつぶしていくパッチー。実力が近いこともあり、戦いは徐々に熱を帯びていく。
「いやぁ、見ごたえのある試合ですなぁ」
「全くですねぇ」
広場に居た住民達は近くにある椅子や木に体を預け、二人の戦いを見物する。
通りがかった住民も、何事かと足を止めてギャラリーに加わり、人が増えればそのざわめきに何事かと顔を出す住民も増えていく。
「亜理紗さん、いい場所取ってますね。お隣、宜しいですか?」
「どぞどぞ。って完全武装ですか」
「ええ。こう、ちょっと滾っちゃいまして」
隣に腰を下ろすイソレナの姿に、少し驚きの色を含んだ視線を送る羽堂。気付けば、周囲に居るギャラリー達もそれぞれが得意の獲物を抱えている。
その様子に乾いた笑みを浮かべて、羽堂は呟いた。
「ほんと、皆バトルジャンキーですねー」
「ふふ、お恥ずかしい」
「褒めてませんって」
「そろそろ終わりそうなんで、あっちの商人系ゾーンに移動した方が良いですよ?」
イソレナの指差す方向を見ると、広場の一角に何時の間にやらテントが張られており、忙しそうに食料や装飾品を売る朱音と真夜。『死んだらこちら』と書かれた幟を背負い、仁王立ちする乾。何故仁王立ち?
「あー、了解です」
「何か、後ろのほうでディスティアさんがすっごく怖い笑顔で笑ってたんで急いだほうが良いですよ」
「それを早く言ってください」
だっと駆ける彼女に、「死んでたらたたき起こしてくださいねー」と叫び、イソレナは剣を抜く。
視線の先、かなたとパッチーは最終ラウンドで引き分けを出し、ドローになったようだ。
二人の戦いが終わった瞬間、方々で前口上を声高に叫ぶ声が上がり。
宴が始まった。
「……皆さん、良くやりますねー。パンが全部売れちゃいました」
「ふふ、元気一杯なのは良いことです」
「…………元気すぎるのもあれですよ、真夜さん」
「今日は徹夜で蘇生作業……かなぁ」
テントの下で、広場中を覆う乱闘を眺めながら、販売系は呟く。
「「「「まぁ、これが朝町です(ね・か)」」」」