1.私 ―私の名前は何でしょう?―


これは、許されないことだとわかっている。自分は今、犯罪者へと転落してしまったのだ。
擬態をして、他人の家屋に忍び込む。決して許されないことだ。
父が知れば叱責程度ではすまないだろう。
ぎりぎりと音を立てて、良心という鎖が心を締め上げる。
叫びたい。私は罪を犯しました、と。天に向かって叫んでしまいたい。
しかし、それは許されないことなのだ。今、この場で飛び出してしまえば確かに良心の呵責から逃れることは出来るだろう。
けれど、その選択は破滅を意味している。
きっと嫌われる。彼に。
今、目の前でバラの世話をしている彼に嫌われるということは、私にとって、死ぬよりも辛いことなのだから。
………最低だ。私って。
こんな私では、きっと彼にはつりあわないだろう…………けれど、それでも。
私は、彼を―――




「なあ、メティー」
「はい、何ですか? リュコラさん」
羽堂家の昼下がり。庭でバラ園の世話をしていたメティーに、リュコラが声を掛けた。
メティーは後ろを振り返り――全くこちらを見ていないリュコラに気づき、彼女の視線の先を見る
「ああ、朝からあの状態なんですよ」
「……そ、そぉか」
ひくひくと頬を引き攣らせるリュコラ。最初にメティーがあれを見たときは、恐らくこんな顔をしていたのだろう。
彼女の視線の先には、両手に木の枝を持った真っ黒で真っ白な女の子が、いやんいやんと体をくねらせていた。



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