水は水龍の力の源。
だからなのか、雨季には水龍達が元気になる。逆に炎龍はしんなりするので面白い。真夏は水龍がしんなりして炎龍が元気になるのだからおあいこだろう。
88 天国
しとしと、と静かに雨が降っている。
雨の日は基本的に体が重いし頭も重くなる。体調不良というほどではないが、元気に動き回れるほどの状態でもない。
そんな自分とは正反対に元気な姿が窓の外にある。
「……元気だねぇ」
窓から外を見ながら私はひとつため息をつく。
楽しそうに雨に濡れ、走り回るアニスとアシャンちゃん。
くるくると追いかけっこをしながら笑っている。
ああ、水龍にとっては静かに振る雨の日はお手軽な天国なのだろうか、等とよく分からない言葉が脳裏をよぎる。
水龍にとって一番の天国はきっと海なのだろうけど、それなりに遠出をしないといけない。しかも龍であることを隠して、だ。
幸せそうに、楽しそうに遊ぶ姉妹。人から龍へ、龍から人へとくるくる変身しながらの追いかけっこはなかなかに白熱しているようだ。
そんなことを思いながら時計に目を走らせる。
まもなく3時だ。そろそろ外遊びを切り上げても良い頃合だろう。
私は窓を開けると、二人へと声をかけた。
「アニスー、アシャンちゃーん。
おやつにするからそろそろお家に入って〜」
「「はーーい」」
アニスとアシャンちゃんは素直に返事をして玄関へと歩いていく。
その姿を確認して、私は洗面所からバスタオルを数枚引っ張り出してから玄関へと向かう。
「ただいま、店主」
「おじゃまします、真夜お姉さん」
「お帰りなさい、アニス。いらっしゃい、アシャンちゃん」
そう声をかけて、二人へとバスタオルをかける。
「まずは二人とも体を拭いてね?」
「「はーーい」」
素直な返事とともに拭き始める二人。二人の水分を吸って、バスタオルはどんどん重くなる。
「アシャン姉さま、まだ髪びしょびしょだよ?」
「アニスちゃんもだよ?」
重くなったバスタオルを受け取り新しいバスタオルを渡せば、二人はそう言いながらお互いの髪を拭き始めた。
楽しくて仕方がない、といった風情で笑いながら互いの世話を焼く姿は非常に微笑ましい。
「風引くと悪いから、二人ともおやつの前にお風呂に入ってね?
着替え準備しておくから」
「「はーーい」」
綺麗に重なった返事は本当に楽しそうで、こちらまで嬉しくなる。
「久しぶりに姉さまとお風呂だ〜」
「久しぶりだね〜」
そんな事を話しながら仲良く手をつないでお風呂へと向かうアニス達を見送り、着替えを取りに向かう。アシャンちゃんとアニスの体格は似ているので、服は同じのを使えるのが便利だ。
二人分の着替えを持ってお風呂に行くと、浴室からきゃぁきゃぁと楽しそうな声が聞こえる。
「着替え置くよ〜
のぼせない程度にね?」
「「はーーい」」
元気な返事が返ってきたのを聞いてから、今度は台所へと向かう。
朱音様の所で購入したカステラを切り紅茶を煎れる。お風呂上りの二人にはアイスティを、自分には暖かい紅茶を。
準備したおやつと飲み物を持って居間に行けば、タイミングよくお風呂から上がった二人が入ってきた。
ソファーに座ったお姫様二人の前にカステラと飲み物を給して私も座る。
「「「いただきます」」」
今度は三人の声が重なり、3時のおやつが始まった。
幸せそうに食べる二人を見ていると、こちらもなんだか幸せな気分になる。
「二人とも、楽しかった?」
そう尋ねると、返ってきたのは綺麗に重なった返事。
「「うん、とっても!」」
嬉しくて楽しくて仕方がない、という声色も口調もぴったり同じ。
きらきら輝く笑顔もよく似ていた。
「それは良かった」
……ああ、今日の様な光景が見られるのなら、雨の日も悪くない。
現金なことを思いながら、二人にお茶のおかわりを差し出したのだった。