男物の学生服に三叉槍を携え、フクロウを肩に止まらせた女性と、男物のブレザーを着て指抜き手袋をはめ、腰に剣をぶら下げた女性が対峙している。
ツッコミどころ満載の服装だが、この町の場合服装が強さと比例しているとは限らない。
二人の間にはピリピリとした空気が流れていた。
72.勝利
「……まさかこんな形で貴女と対峙する日が来るとは思いませんでした」
ブレザー服の女性――真夜は腰に帯びていた剣の柄に手をかけながら学生服の女性――ささのんへ声をかける。
「そうですね。まあこれも仕方がない事です」
穏やかな声。いつもならその声に安心しているというのに、今回ばかりは真夜の背中に冷たい汗が流れる。
「通しては……いただけませんか」
駄目元で真夜がそう聞いてみると、ささのんは困ったような表情で首を横に振った。
「そんな事をしたら怒られてしまいますから」
ひゅん、とささのんの持っていた三叉槍が空を切る。
きっちりと着込まれた上着の首元を軽くひっぱり崩すと、ささのん様は戦闘態勢をとった。
現在ささのんが装備しているものの殆どは真夜が強化したものだ。お陰で大体の防御力と攻撃力は把握している。
真夜の攻撃力ではささのんの守備に殆どダメージを与えられない。逆もまたしかり。
長期戦は避けられないだろう。だが、それは真夜にとっては好都合だった。真夜の目的は時間稼ぎ。この場で少しでも長くささのんを押さえる事が目的であり己に課せられた勝利条件。
時間が稼げれば稼げるほど、自分達に勝利への道が開かれるのだ。
真夜は覚悟を決め剣……神器カリブルヌスを抜き、正眼に構える。
「……全力で、行きます」
「それは楽しみです」
ささのんのどこか楽しげな言葉を皮きりに、戦闘は始まった。
* * *
「危ねえかなた!」
「!!」
目の前を弓矢が通り過ぎる。
メーの声がなければその矢はかなたの額に直撃をしていただろう。
「ありがとう、メー」
「この状況で油断するなよ。多分ここには……」
メーの言葉を遮るように響く爆発音。その音と同時に遠くで
「うわあぁぁぁ!」
「せやから足元気をつけなはれと言うたのに……」
「行ってはいけませんマスター!
これ以上貴方を危険な目に会わせるなんて耐えられません!」
「やだやだ、行くの〜!」
という声が聞こえた。
落ちる沈黙。それを破りメーは絞り出すような声で言った。
「……間違いねえ。瀕死爆弾も埋まってる」
瀕死爆弾。金箱には勿論銀箱にも設置されているその名の通り瀕死の重傷を負わせる爆弾だ。
なぜかこれが原因で死ぬことはなく、ある意味生殺しという説もあるがそれは別の機会に論争するとして。
かなたは心底うんざりした顔で目の前に広がる広場を見つめる。
「……銀箱レベルのトラップ地帯って、正直勘弁してほしいなあ」
目の前に広がる広場は一見いつもと変わらないように見えて、数多のトラップが仕掛けられているのは先行していた仲間達の力尽きた姿で嫌というほど分かる。
「ハズレひかないうちにさっさと抜けるぞ。ここを抜ければもうすぐ終わりだ」
「先行している羽堂さんに早く追いつかないと。
……なんだか凄く嫌な予感がする」
メーの言葉にかなたは覚悟を決めると、共に走り出した。
* * *
「これより先は通行止めですよ、亜理紗さん」
紅く染まった鎌をぶら下げたイソレナが羽堂の前に立ちふさがる。
彼の前には夢鏡が横たわっていた。ピクリとも動かない所と見ると、イソレナに狩られたのだろう。
傍に控えていたリーヴァが夢鏡を端へと引きずっていく。これから始まる事の邪魔にならないようにという配慮からだろうか。
ひゅん、とイソレナが鎌を振る。血糊が消え、何かを切る前の状態に戻る。
ちらりと視線を走らせるが、血糊は何処かに飛んだようには見えない。おそらく刃に吸収されたのだろう。
吸血鎌とは厄介な、と羽堂は心の中で舌打ちをする。
「……予想はしていましたけれど、やはり妨害に来ますか」
羽堂の言葉に、いつもと変わらぬ口調でイソレナは告げる。
「これも勝利の為ですから」
ふう、と羽堂はため息をついて剣を抜く。
「ならば、力ずくで通らせて貰いましょう」
羽堂の言葉に、イソレナは場違いなほど明るい笑顔で返した。
「可能なら、どうぞ」
そして始まる恋人達の死のダンス。
それを止めるような野暮な者は……止められるものは居なかった。
* * *
ジーという低いノイズが小さく響く中、軽食を食べつついつものメンバーで銀幕を見つめている。
今カフェで流れているのは某月某日に行われた町主催の運動会の光景だ。
赤:由貴・フレイム・パッチー・イソレナ・朱音他
白:羽堂・夢鏡・カプチーノ・かなた・真夜・乾他
上記のようなチームに分かれて行われた。
競技は、玉入れ・100m競争・ムカデ競争・借り物競走・二人三脚・カステラ食い競争・棒倒し・騎馬戦、そして最後に障害物競走。
競技の名前だけを見ればごくごく普通だが、内容が半端じゃ無かったのだ。人龍入り乱れ、最初から最後まで破天荒なものだった。
特に酷かったのは役所の黒子さん達と共に実行委員会も悪乗りした障害物競争。
障害が実行委員本人たちだったり、障害である罠の数がとんでもなく多かったり、競技参加者自身が障害となったり等々。予想以上に大惨事だった。
「これって編集したの誰なんでしょうか」
「太陽さんが販売していたのを購入したので、多分ご本人かその知り合いではないかと」
かなたの問いに真夜は小首を傾げながら答える。
全て実際にあった出来事でやらせも一切ないのだが……編集の妙と言うべきか、まるでアクション映画の様な出来になっていた。
朝町らしい、と言ってしまえばそれまでなのだが。
「これ白組版なのですけれど、紅組版は来週編集が終わるとのことでした」
「紅組はどんな感じでしょうね」
「これと同じくらいにドラマチックでカオスな出来に仕上がる予定だと仰っていました」
これ予約引換券です、と真夜は言って鞄から紙を取り出しひらりと振る。
券には、紅組のメンバーはボロボロの恰好に最高の笑みを浮かべた写真が印刷されていた。
因みに今見ている白組のビデオケースにも、白組のメンバーがボロボロの格好に笑顔を浮かべている集合写真が貼ってある。
その時の事を思い出し、真夜の唇に小さく笑みが浮かんだ。結果云々関係なく楽しかったな、と。
次の機会があるのなら。また参加しよう。
真夜とかなたは笑みを浮かべながらそんな事を思ったのだった。
え、どちらが勝利したか?
それは貴方の心の中にある方です。