もしも俺の性別が雌だったら。
俺は「トゥエルヴ」になっていたのだろうか。
それとも「姉さん」になっていたのだろうか。
67 供物
カフェまでの道を、真夜の後ろを黙ってついて歩く。
空にはほんの少し欠けてはいるものの丸い月。キンと冷えた空気に月は鮮やかに輝いていて。白く霞む吐息もはっきりと見えるほどの光量。
真夜の後ろ姿が、昔満月が見せた夢の女性とダブる。
夢に出てきた綺麗な黒い髪の女の龍は、嬉しそうに幸せそうに笑って、俺の頭を撫でて消えていった。
あの女性は「姉さん」だ、と本能が告げていた。
俺の両親は、雄と雌の双子を産んで逝った。
雌はイソレナさんと羽堂さんの儀式により「トゥエルヴ」に。
俺はそのまま真夜の手で孵されて「アラン」に。
元は真夜の方に雌が生まれたので交換したというのも聞いた。
もし、生まれたのがアニスとアシャンのように雌同士の双子だったら?
きっと供物となっていたのは俺の方だ。
――本来存在しないのは、俺の方だったのではないか?
――雄は「イラナイ」から生きているだけなのではないか?
――本当は「姉さん」がこうして立っているはずだったのではないか?
正直、自分の中で兄弟姉妹という定義もあやふやだ。
自分達の間柄は特殊だと周囲にも言われるし自分でも思う。
「ダクデビ4兄弟」とか言われているが、実際に本当に兄弟と定義をして良いものなのか分からない。
メフィ兄とフェレス兄さんは兄弟でエル姉とフェレス兄さんとは双子でエル姉と俺は姉弟。
けれど、本当にエル姉と俺は姉弟と言っても良いのかを時折悩む。
肉体が同じでも魂が違うというのに。
伸バシタ 手ヲ 拒絶サレルノハ 辛インダ
拒否サレタラ 居ラレナクナル
俺ハ 何処マデ 近クニ 行ッテイイノ?
……なんて事を悩んでいた時期もあった。
つらつらと考え事をしているうちにカフェについたらしく、真夜はドアを開けて店内へと入って行った。
「こんばんわ、お邪魔いたします〜」
「こんばんわ〜」
真夜越しにカフェの奥をのぞき見れば、フェレス兄さんとメフィ兄がいつものようにいつもの如く大騒ぎをしていた。
担いで拉致られそうになっていないところを見ると、今日のメフィ兄は比較的大人しいようだ。
元気な時だとフェレス兄さんと俺を両腕に抱えて走るなどという芸当をするのだからある種尊敬する。
……多分、メフィ兄には一生かかっても勝てないんじゃないだろうか。
そんな事を考えていると、『アラン〜!!』という声と共に背中に衝撃が走った。
『ぐえっ!!』
『ぐえっ!! って何よ。失礼ね〜』
前につんのめった体は、後ろから伸びてきた白い腕に支えられて床と接触せずに済んだ。
肩越しに振り向けば、予想通りエル姉の顔がすぐそばにあった。
『失礼も何も自分より重量のある相手に突進されぐえ』
言葉の途中で体を支えてくれていた腕がするりと首に回り、ぐいっと絞められた。
『せ・の・た・か・い・あ・い・て』
一文字一文字を区切られて言われ、以前真夜に「女性に体重の話をするのは失礼なんだよ」と言われた事を思い出す。
とりあえずこのままだと絞殺されそうなので、言いなおそうと口を開く……が、声を発しようとしても声帯が締めあげられていて上手く声が出せない。
少し緩めてもらおうとエル姉の腕に手をかけて引っ張るが、きっちり決まっているらしく全く緩まない。
……ちょっと、いやかなり拙い。
そんなこんなしているうちに呼吸が苦しくなってきて頭がクラクラしてくる。
『姉さん、それ以上締めるとアラン落ちるよ』
フェレス兄さんの言葉にようやくその事に気がついたらしいエル姉は、ぱっと腕を放した。喉が解放され、酸素が肺に流れ込む。
ゴホゴホと咳き込みながら喉に超回復をかけていると、背中をさする大きな手を感じる。
何とか咳が落ち着いたので振り返れば、メフィ兄がさすってくれていたようだった。
『落ち着いたかと?』
頷けば、笑顔でぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた。
『ごめんごめんアラン。うっかり手加減忘れちゃって。
……で、何か言うべき事は?』
『……ゴメンナサイ』
素直に謝ると、『よろしい』という言葉と共になでなで、と頭を撫でられた。
『丁度よかったよアラン。良い酒貰ったんだけど一緒に飲まない?
皆あんまり飲まないしさ』
一升瓶を片手に、フェレス兄さんが笑う。
『……俺で良いなら』
『嫌なら誘わないって』
笑ってぽんぽん、と頭を撫でるフェレス兄さん。
飲むぞーと背を押されて、先程まで兄さん達が座っていた席へと歩いていく。
少し前までは随分と余計な事ばかり考えていたのだ、と今なら思える。
「もしも」は所詮「もしも」だ。今ある「現実」ととってかわる様なことは無い。
以前真夜に「俺はいらない子」と言ったら「いらないならとっくに売っている」と泣きそうな顔で言われた。アニスに「店主を泣かせてどうするの」と怒られた。アレスに「アランは馬鹿だねぇ」と苦笑された。
夢で見た「姉さん」は、いつも笑っていた。目の前に居る兄も姉も、皆笑っている。
……だから、それが答えだと思う。
この町以外を俺は知らない。
この町から一歩外に行けば、自分達は否定されるべき存在なのだというのは知っている。
けれど。
こうして皆で笑っている事が楽しくて。温かくて。
……口には出せないけど、大好きで。
それぞれがそれぞれの道を選択するまで、まだもう暫くは……こうやって居たい。
ほんの少しの感傷を含んで飲んだ酒は、優しい香りと共に喉の奥へと流れて消えた。
おまけ
「そういえば、さっき何かあったのか? 急に突進してきて」
「突進って……まあいいわ。
アラン、服交換して」
「………は?」
「フェレスにお願いしたんだけど拒否されちゃって」
「いや普通は断る。
というかなんで交換なんだ?」
「読者サービス?」
「何で疑問形!? というかどの層に対するサービスだ!!」
「大丈夫大丈夫。アランは私に似て可愛いから似合うって」
「嬉しくない! というか無理! 絶対無理!」
「つべこべ言わないでおねーさまの言う事は聞きなさい♪」
(何処からかとりだした縄でアランを拘束)
「いーやーだー(涙声)」
……合掌。