秋も近づいたとある夏の日。
カフェで唐突に水龍が言い出した。
「海に行きたい」と。
……ここで「何で今?」と思っても許される事と思いたい。
まあ龍に海月の被害は関係ないだろうし問題ないだろう、と言う事でカフェに居た希望者で海に行くことになった。
……思い立ったら吉日と言う事で即時移動となったのはもう諦めるしかないだろう。



18 海



海、浜辺、満天の星空の下。
そんなロマンチックな舞台の上で、男女が追いかけっこのようなことをしていた。

「そう、簡単には、当たりません、よっ!」
「ならば、当たるまで、やるだけです!」

そして、そんな二人を少し離れたところから眺める影5つ。

『とうとうとっつあんに春が……』
『『『『いや絶対違うから』』』』
『もう秋に近いとはいえ、海辺に綺麗な星空にいつもと違う服装の男女。
 すっごくロマンティックなシチュエーションなのにね〜』
『色気の欠片もないね、あの二人』
『普通全然意識していない男女が、二人きりの時のハプニングで急接近☆
 ……なんていうのは物語によく有るパターンのですが』
『現実は小説より奇なり、で良いんですかねアレ』
力いっぱい勘違いしているメフィ兄。
含み笑いのエル姉。
苦笑するフェレス兄さん。
フェレス兄さんの隣で小首をかしげるリーヴァさん。
因みに、先程まで皆で海で遊んでいたので自分を含めて全員水着だ。
……海に到着した時に危うくエル姉に女物を着させられそうになったのは忘れようと思う。
閑話休題。
俺は現実をうんざりしながら指差す。
そこに居るのは真夜とパッチーさん。真夜は水着の上に膝丈のTシャツを羽織った姿で、パッチーさんは毎度お馴染み褌姿。
薄く広がる砂煙。砂を蹴る独特の音に砂をザクリと叩く音、木の棒(木製の武器相当と思われる)同士がぶつかる音。
時折かすかに聞こえる上がった息遣いと減らず口。
これを見て色気を感じろと言うほうが無理だ。
少し離れたところに設置されている焚き火。その周囲に立てられた魚がいい匂いを周囲に振りまいているのも間抜けさを一層際立たせている。
……暴走するのは水龍だけにして欲しい。
因みに水龍ズはここからそれなりに離れたところで大はしゃぎしている。
ディアボロス2匹相手に互角以上に渡り合っているダニさんは心底尊敬する。
『……あれ、放っといて焦げないかな』
『焦げますね』
『火の番かねて焚き火の側に行きましょうか』
『そうね。あの二人はアランに呼びに行ってもらう方向で』
『俺確定か?』
『当然でしょ、他に誰が出来ると思ってるの?』
『フェレス兄さんとかメフィ兄だって十分できるだろうが!
 ……ってなんで二人とも目を逸らすんですか』
『いやまあほら』
『人にも龍にも、向き不向きというものがあるけん』
『というわけで頑張って』
ぽん、とエル姉に肩を叩かれる。
エル姉の顔には『断るつもりないでしょうね?』と赤文字で書いてあるように見えた。
…………………。
思うことは色々あったが、諦めて真夜とパッチーさんを観察する。
先程に引き続き、ぱっと見た目には追いかけっこ、その実戦闘を行っている。
所々に砂が陥没しているが、おそらくパッチーさんの一撃が原因だろう。まともに受けるには無理と判断した真夜はかわしつつ攻撃の機会を窺っているのだろうと思われる。
……正直近寄りたくない。巻き込まれるのはごめんだ。
周囲を見回す。焚き火の側に無造作に積まれた薪が目に入る。
幾つか手に取り適度な重さの物を選ぶと、ゆっくりと真夜達の右脇に回りこむ。
あまり表立って言わないが、真夜は右目の視力が弱い。見えない訳ではないが、どうしても視野が狭くなるというのは本人談。
弱点を突かなくてどうする、と真夜自身が研究所で言っていたのだからそれを突いたって問題はないだろう。
3m程距離を取り、慎重にタイミングを見る。二人の動きとリズムを観察して動きを予測する。
深呼吸を1つ、2つ。ゆっくりと振りかぶり……持っていた木の棒を力を込めて投げた。

がすっ!

木の棒は狙い違わず真夜の米神に直撃した。
無事戦闘は中断された。



「私は龍の教育を間違えたかもしれない」
『一応聞いてやろう。どの辺りがだ』
「本気で言っているなら泣く」
『攻撃する時は誰であろうと情けはかけるな隙や弱点を遠慮なく突け』
「うっ……」
『そう言ったのはお前だ』
「そんな事教えていたんですか?」
「それは……その……」
『それを忠実に守り、死角からの投擲攻撃を仕掛けた事に関して文句を言われる謂れは無い』
「……やっぱり間違えた。全力で間違えた。過去の自分を殴りたい」
「ま、真夜さん血涙出てます怖いです」
攻撃したくらいで泣くな鬱陶しい、と言いたいが更に面倒な事になっても困るので言わないでおく。
流れる血の涙を無視し、真夜の米神に手をかざして超回復を掛ける。木の棒の直撃が原因で米神が見事に腫れて流血したのだ。
放置しても治りそうだが、一応生物学上女に辛うじて分類されるべき相手だ。顔に傷が残ったりすれば寝覚めが悪い。
『それにしても、どうして急に戦闘していたんですか?
 ついさっきまで釣りとかなさってましたよね?』
料理を配りながらのリーヴァさんの言葉に、顔を見合わせる真夜とパッチーさん。
因みにメニューは焼き魚・ホイルに包んだ芋三種(じゃがいも・サツマイモ・サトイモ)・焼きホタテ・海草サラダ・めかぶの叩き酢味噌味。
若干焦げている所や切れずに繋がっている若布があるがまあ問題ではないだろう。
「どうしてって……」
「ねぇ……」
「「暇だったから」」
非常にシンプルが答えが返ってきた。
「最初は食料採取したり調理したりしていたんだけど、終わったら暇で暇で」
「普通にじゃんけんしていましたよね?」
「たしかじゃんけんに飽きてあっち向いてほいになって、それにも飽きて追いかけっこになったんすよね?」
「そうそう、確か追いかけっこだと体力的に真夜さんが不利だから、そばにあった枝使って戦闘もどきに移行したら二人でムキになってさっきに至ったんですよね〜」
「あ、あと夜食べると太るからちょっとでもカロリー消費したいというのも個人的にありました」
『お前はもう少し太れ特にむ「おーけーセクハラ発言ありがとう後で崖の上に来い」
『自供するんですか?』
『床を破壊しました、とか、おやつを取りました、とか?』
『いや、俺は直す方。基本的に被害者』
「成る程、加害者を追い詰めて突き落とされる側と」
「問題は龍を突き落としても確実に殺れるか分からない所ですよね」
『飛べるけんね』
わいわいがやがや。
普段のカフェと全く変わらないノリ。いつもと違うのは服装と手に持つ食料くらいか。
……悪くはないな。
もう少ししたら水龍達の暴走を強制終了させて町に戻るのだろう。
それまでこうしてのんびりするのが一番か。
そう思っていた矢先に、フェレス兄さんが硬直した。
『? フェレス兄さん?』
声をかけるが、兄さんは虚空を見つめながら何かブツブツ呟いている。
『……分かった、伝えておく』と言って、彷徨っていた視線がこちらに戻ってきた。
「羽堂様ですか?」
『はい。これからこっちに来るって』
真夜の言葉に頷くフェレス兄さん。なるほど、召還石経由で話をしていたのか。
フェレス兄さんの言葉に、真夜がきょとんとした表情で聞きかえす。
「山組全員がですか?」
水龍達が海と言い出したのと同時に「山に行きたい」という龍達も出たので、そちらはそちらで別に行動している。
メンバーは羽堂さん・イソレナさん・朱音さん・ポコスさん・咲良さん・太陽さん……のはず。
『熊と猪獲れたから、皆で食べようって』
『はい?』
「あらまあ凄い」
「それは大漁ですね」
今一つ状況が理解できないでいるこちらを尻目に、真夜とパッチーさんは嬉しそうに笑う。
「ならば山組の分の魚も準備しますか」
「私も貝とか追加採ってこないと。
 ついでにフカとかも居れば面白いんですけどね〜」
「出たときは呼んで下さいね。俺リベンジしたいので」
「リベンジですか? よく分からないけど了解です〜」
『……生身の人間って、猪や熊や鮫って獲れるのか?』
『出来るわよ』
俺の呟きに、間髪いれずに答えるエル姉。
『ゆゆさんやジュンさんは生きたのをそのまま食いついていたし』
『………………は?』
『昔水泳大会があってね〜その時に』
『ず、随分凄かったのですね』
『まあ朝町だしね。ありえなくは無いけど』
引きつったリーヴァさんの言葉に、苦笑しつつ答えるフェレス兄さん。
……その頃に居なくて良かった。
『山組も合流するなら、もう暫く遊んでいても平気よね。
 次は仁義無きビーチフラッスグしない?』
『良いですね。
 一位は最下位になにか命令できるとかにしましょうか』
エル姉さんの提案に、うきうきと賛同するリーヴァさん。
凄まじく嫌な予感がするが、あそこまでうきうきとされると止める気力がわかない。
とりあえず1位にも最下位にもならないように努力をしよう。
……今夜は長い夜になりそうだ。
そう思い、俺は小さくため息をついた。
こういうバカ騒ぎも悪くはない、か。



おまけ
真「で、お約束で最下位になったわけね」
ア『……』
ト『因みに私が一位よ♪』
真「似合うよ。その格好」
ア『うるせえ』
(どんな姿かはご想像にお任せします)



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