例えばそれが運命ならば、
 受け入れるべき、なのだろうか。

運命

 晴れた空の下、長い茶色の髮がぴょこんと跳ねる。
 軽い足どりで歩く少女は、楽しげな微笑を浮かべていた。
 その小さな背中には、銀髪の青年が、重い足どりで続く。

「こんなになに買ったんだ、お前…」
 青年は、うんざりとした声で自分の抱えた荷物を見つめる。
 それを受けた少女は、にっこりと笑った。
「メー君のためのものv」
「この布とかリボンが!?」
「メー君のために色々作ろうと思ってv」
「いやいやいやいや嬉しくねえ!」
「なによう。彼女の好意を無下にするのぉー?」

 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら、茶色と銀色はてくてくと歩く。
 たまにべったりとくっつかれて、ぎゃーとかやかましい悲鳴を交えつつ。
 一つの果物屋の前で立ち止まった。


晴れた空の下、赤い傘がくるくると回る。
その持ち主である少女は、優雅な微笑を浮かべて歩いていた。
その華奢な背中には、黒く長いコートを着た青年が、大きな布袋を下げて続く。

「どうして僕が荷物持ちなんだよ」
 疑問というよりは、ただなんとなく洩れたとでもいうような、溜息にちかい呟き。
 それを受けた少女は、にこと笑った。
「あら。か弱い淑女と殿方がいれば、殿方が荷物を持つのは当然のなりゆきでしょう?」
 頬に手を添えて、愛らしい笑顔で。軽く告げた彼女は、何とも言えない顔でこちらを見る青年に、不意に声色を静かなものへと改める。
「そもそも、重いのですもの」
「僕だって重いつーの」
 軽口を買わしながら、赤と黒はてくてくと歩く。
 たまに背後に紫が見えたり見えなかったりするのはご愛嬌。
 てくてくと歩き、そうして。
 一つの果物屋の前で立ち止まる。

 銀髪の青年ことメイベルドーのメーは、日陰の壁にもたれながら、果物屋で楽しげに買い物をする少女を眺める。荷物を持って歩くのに疲れたからである。主に心が。
 黒いコートの青年ことダークデビラゴスのフェレスは、日陰の壁際へ歩みながら、果物屋で買い物を始めた少女を横目に捕えた。顔見知りの闇竜の少女と少し話している間に、彼女は新しい買い物を始めたらしい。

 同じく壁際へよった光龍と闇竜。その眼差しがばちりと会う。
 町で生活しているだけならかみあわないわりに、あるカフェで交流を重ねるそれぞれの主人のお陰で、ちょくちょく顔をあわせる仲だ。
 もっというなら、そう。
 ある夏の日、台風のような某ダークデビラゴス(同じ顔四つ)のお騒がせ兄貴になぜかピリオドの向こうなどという地図にないところへ拉致されたりされなかったりした仲である。
 だから二人は軽く手をあげた後、とりとめないことを話す。
 とりとめないことを2、3と話すうちに、目線は自然におたがいの手もとへと辿り着く。
 カラフルな布がアホなほど入った布袋と、芋などの根菜がたっぷり入った布袋。
 それぞれ違う袋を見て、顔を見合わせ。果物屋でなにやら世間話に興じる赤と茶色を見て。
 わずかに遠くを見るような眼差しを作った。
「…大変だな」
「そっちもね」
 言葉少なに言いあって、溜息一つ。
 何がとは言わない。つらいとも言わない。
 ただ静かに眼差しをかわして、取り留めない会話に戻る。
 時に声を荒上げ、笑い声をあげ。とりとめなく。
 言葉をかわしながら脳の片隅でちらちらと瞬く言葉を、どちらも口にしない。
 なんかちょっと弄られる運命、なんて。そんな言葉は。
 口に出しても空しくなるだけなのだから。


 例えばそれが運命ならば、受け入れるべきなのだろうか。
 口に出さないままも脳裏に張りつく言葉に対して、メーは僅かに自問をする。<br>  自問して、少しだけ笑う。なぜなら―――

 とりあえず、俺としては。
 別に悪くない運命だと、思っているから。

 メーは短い挨拶を残し、フェレスへ軽く手を振る。
 そうして、ぶんぶん手をふりながら歩み寄ってくる恋人を眺める。
 たぶん、この女が笑うなら。大抵のことはどうでもよくなるのだろう。
 口に出せない思いを少しの微笑みの乗せて、彼は彼女に歩み寄った。



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