大切なものは、手に触れてそう伝えよう。
片手で足りぬのなら、両の手で。
両の手で足りぬなら――――………
両腕
ある日、ある道。
黒い髪の青年が歩いていた。
にっかりと笑顔を浮かべる青年は、豪快に片手を振り回す。反対側の手に、ぐったりとした青年を担ぎあげつつ。
長身と重たげなコートを意に介すこともなく担ぐ青年と、担がれる青年。二つの顔はよく似ている。笑顔と渋面。まるで正反対の表情を浮かべていても、そう映る。彼らは双子の兄弟だった。
兄は弟を背負い、笑い声を響かせつつ歩く。
歩くと言うか、濛々と土煙を上げるその姿は、走り去る。
―――それは、とても奇妙な光景で。それでも朝町の日常だった。
どどどと音を立て走っていく青年は、ふと町中に見慣れた顔を見つけた。
土煙をどこか遠い眼差しで見つめている、黒い髪の少年だ。これまた二人と同じ顔をした少年は、やはり同じ顔なのに表情が違う。モノ言いたげだ。もはや表情書きわけ練習ができそうな勢いだ。なにかつっこみたそうな少年は、青年と目が合い、小さく息をつく。
けれど、彼がなにかを言うより早く、青年は少年に駆け寄る。
そしてその手をぎゅっと握り、彼の名を嬉しげに呼ぶ。そうして大きく笑って、なぜか引きづるように歩きだす。
突然どこぞやに連れて行かれることが決定したと悟り、少年は大きく息をつく。かつがれた青年と諦めたような目線をかわす。
けれどずんずんと引かれる手を離すことはなく、どこか楽しそうに小さく笑った。
三人に増えた行進は、ずんずんと進んでいく。
住人の殆どは、三人の歩みを止めない。親しげに挨拶をかわすものはたまにいるが、大抵は二人の弟をひっぱる兄の勢いに道を譲るように、苦笑や笑顔を送ってくる。
そのようにどんどんと進む歩みは、やがてぴたりと止まる。
彼らの行く先に小さく見える、黒い髪の女性。細い肢体に布を捲いた彼女の顔もまた三人にとても似ていることを、彼らは知っている。
その視線に気づいたか、女性が振り向く。そして、きゃらきゃらと笑った。
あら楽しそうね。笑う声は明るく楽しげ。
それでも手を伸ばすことをしない彼女に、青年も手を伸ばさない。どこか躊躇ったように。迷うように。
そんな2人を見、少年はああ、と小さく呻く。そして一歩踏み出し、女の手をぐいと引いた。
女の丸い瞳が、数度瞬く。そうして、すぐににんまりと笑みに代わる。
その表情か、己の行為か。それとも兄の目線か。僅かに赤くなった顔をしながら、少年は歩きだす。
レディをエスコートするならもう少し笑顔がなきゃ駄目よ。姉さんをつれていくのにわざわざいらないだろう。そんな会話を交わしながら、行進は四人に増えた。
増えた行進を見ながら、弟を抱えた青年は、心から嬉しげに笑った。
大切なものは、手に触れてそう伝えよう。
片手で足りぬのなら、両の手で。
両の手で足りぬなら、繋いだ誰かの手で。
触れ合って、伝え合って、共に。
時許すまで、いけるところまで。
「なあ、メフィ兄、結局どこに行くんだ?」
「ピリオドの向こうたい!」
「え」
「行くんじゃなかと。感じるけん…アラン!」
「いや、感じるとか意味わ」
「行くばい!」
「メフェ兄、待てくれ―――!?」
この後、彼らの姿を見たものはしばらくいない。