ふたつあるから君にあげるよう。
 最初はそう思ってた。


ふたつ


 68番地、店先で。
 陽にすけるような金色の髪を持つ、幼い少年が立っている。
 少年の手の中には、ほかほかと蒸された肉まん。
 つい先ほど、店番をやっていた彼に個人的に差し入れられたものだ。
 少年は笑顔でそれを持ちながら、居住スペースへと入っていく。
 きょろきょろと視線を巡らせながら、廊下を歩く。
 澄み渡った大きな瞳は、やがて目当ての影を見つけた。
「ミルクさん」
 目当ての影は、彼に声をかけられるより早く、にっこり笑った。
 空の籠を持っているので、恐らく洗濯ものを終えたところなのだろう。
 彼に気付いて嬉しそうに笑う彼女は、ただいま諸々の事情から居候だった。
 その「諸々の事情」はそれなりの人間の頭痛やらなにやらの種ではあったが、彼にとっては遊び相手が増えたという喜ばしい事態。
 彼はこの可愛らしい友人を好ましく思っていた。
 彼は誰だって好ましく思っている。
「えへん。みるといいですよ」
 なぜか偉そうに、彼は肉まんを差し出した。
 素直にそれを見つめる彼女の前で、えい、と二つに割る。
 ぽっかり割れて二つに分かれた、白くふかふかの肉まん。
 こぼれて指を汚す肉の餡をぺろりとなめとりながら、彼はにっこりと笑った。
「あげます」
 彼としては非常に珍しく、分かりやすい言葉で紡がれた用件。
 純真無垢そのものの笑顔。
 ほかほかと湯気を上げる肉まん。
 いきなりの要求に驚いた顔をした彼女は、それでもそのすべてに、嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます」
 頭を下げる彼女に、彼はえへんと胸をはった。

 それから、少したって。
 彼はぐんぐんと伸びた背丈をめいいっぱい使って、高い木になる林檎をもぎ取る。
 そのままぱかんとふたつに割って、にっこりと笑った。
「ヨキちゃん、どうぞですよ」
「…ありがとうございます」
 彼女は笑う。あの頃と同じように。
 彼も笑う。あの頃と同じように。
 ついでとばかりに軽く頬に唇を押し付ける辺りは、あの頃とは違ったけれども。

 今思えば最初から『違った』のだから。順当な結果なのだと思っている。


 ふたつにしてあげよう。大切な君に。
 大事なものは分け与えて。
 二倍の喜びになるように。

 大切な君と、笑い合うように。


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