某月某日、ドラゴンカフェ。
もうカフェじゃなくなってる日も多いけれど、ドラゴンカフェ。
わいわいがやがやと好き勝手に喋りながら、食べながら。ぽつりといったのは誰だったか。
「おいしかったですよねえ。熊鍋」
「ああ、少し硬かったけど、そこがまた」
「シェフもいいシェフ様がいましたしねえ」
「また食べたいですね」
「いいですね」
「一狩りいこうぜ!」
「明日でいいですね」
――――と、いうことで。
毎度計画性なくやってきました。お山。
狙われているくまさんがいっそかわいそうです。
山
まあ、そんないきさつで。
熊を狩るために私も山に来ている。
…狩るぞ―、ってはりきっているのは、主にイソレナさんとパッチーさんだったけど。っていうかなんか闘争心に火がついたらしいけど。ともかくスタートダッシュ引き離された。、お二人が熊を探しに行くことより競争しているように見えたのは気にしないことにする。で、そんなお二人にやっぱりなんかに火がついたらしい乾さんも、やっぱりダッシュでかけ上っていってしまわれたけれども。まあ、別に。大丈夫だと思う。一本道だし。
で、他にも羽堂さんと朱音さんと真夜さんがいらっしゃったのだけれども。
こちらは本当に熊を見つけて、おっかけっていってしまわれた。正確に言うと、羽堂さんがうかつな熊さんを見つけて。朱音さんがのしのしと歩くイノシシ見つけて。真夜さんがまるまると肥えたキジを見つけて。
それぞれ追っていってしまった。
私がちまちまきのこをとっている、ほんの少しの間のできごとでした。
………。みなさん仕事が早いなあ。
つーか豊漁だなあ。飢えた狩人がいるのに迂闊な動物達だ。ちょっと追いかけ損ねた私が迂闊とかいう正論は聞かない。
………。
……誰もつっこんでくれないと、口に出す気にもならない。
風矢辺りを呼べば、いっきに山頂まで飛んで行ってくれるだろうけれども。歩いている内に、誰か戻ってくるかもしれないしなあ。だから歩こうと思うんだけど。…地味に疲れたなあ。
さくさくと足の下で葉っぱの割れる音がする。帽子を脱いで汗ばんだ髪を仰ぐと、いい感じに涼しい風を感じる。僅かに仰ぎ見た空は、美しく青い。
……けど。
それも口に出して共有する相手がいないと、そういえば物足りないんだよねえ。
久々に感じる感傷は、足を重くする。さく。さく。乾いた音と自分の息遣いと、どこかで鳴くなにかの声だけが聞こえる。さく。さく。さく。この道で間違っていないだろうかと、不安がちらちらと脳裏をかすめる。さく。さく。落ち葉の割れる音は、少しだけ寂しい。
ああ、そういえば、昔もあったっけなあ。
こんな風に、山の中で――――…
なんとなく重くなる胸に、足を速める。さく。さくん。さくさくさく、ざっ。
…ざ?
何かを思い出しそうになることと。
なにかでつんのめって、地面の冷たさを感じるのは、ほぼ同時だった。
――――長く伸ばした茶褐色の髪を、乱暴にかき乱す子供が見えた。
あれ私、こけたんじゃなかったっけ? なんて、思うより先に夢と知る。
山を登ると言うのに黒いワンピースを着た、子供。
背中しかみえない子供の顔を、『私』は知っている。
山登りだというのに長いワンピースを着ている理由も、私は知っている。覚えている。
同じ町の子供達に急に誘われて、嬉しくてついっていった。どうせ追いつけないと、追いつけなくともまってくれないと。たまたまそこにいあわせてしまったから、義理で誘われただけだと。知って、いたのに。
今より幼い私は振り向かない。
前だけ見て歩いても、もう追いつけるはずもないのに。
疲れたから休むね。先に言っていいよ。
そう言ったのは、私なのに。
私、なのに、まるで。待っていてくれることを、期待するみたいに。
子供は前だけを見て、歩いている。
結局、追いつけるのは、山頂なのにね。
思いながら、目を閉じる。
夢から覚めるようにと願ってではなく、ただ。ただ。
見ているのが、辛かったから。
………
…………………――――
目を開けると、三対の目と出会った。
……近っ。
「あ。無事におきられましたねー」
「近くば寄って目にも見よエルフの蘇生術ーですからね」
「おはようございます。かなた様」
とても近い距離にびっくりしていると、そんな風に声をかけられた。
「お……おはようございます。っていうか蘇生?」
蘇生って、私死んでたの? なんか夢的なもの見ていた気がするんだけど、あれ、噂の走馬灯!?
新しい驚きを感じる私に、丁寧な解説が入る。
「私がキジを捕まえて戻ってきたら、かなた様は倒れていらっしゃって」
「イノシシを捕まえた私も皆さんと合流したいなあと降りてきて」
「そこに熊を追うのに飽きた私が戻ってきました」
その説明で、悟る。悟ってしまう。
「…こけてダメージ1判定…?」
「1で止めなほど疲れていたんですね」
「ものを探しながら歩くと探索判定ですから」
どういう身体してるんでしょうね。私達。朝町だから仕方ないんですけどねー。笑顔で言いあう真夜さんと朱音さんを見ながら、地味に落ち込む。私、戦闘系なのに。スタートダッシュをかけてもはやみえないお二人と、同じ種族だというのに……
……しかし。
「ちなみに起きぬけに覗きこまれていたらびっくりすると思って3人ですたんばっていました」
なんでわざわざ覗きこんでいたんだろう、皆様。そう思っている私に気付いたように、すごくいい笑顔で羽堂さん。
楽しそうだなあ。うどーさんが楽しそうだと私も嬉しいなあ。嬉しいけど最近こんなことが多いなあ。…まあ。いいけれど。
立ち上がって、服についた落ち葉を払う。軽く足首を回して、とりあえず笑ってみた。
「じゃ、お待たせしてすみませんでしたー。いきましょうか」
「今度は追いかけるものもいませんし、ゆっくりと」
「折角お天気もいいですからね。景色を楽しんでいきましょうか」
「先行組はもうついているかもしれませんけど。適当に騒ぐでしょう」
並んで歩きながら、絶えることのない声に、私は笑う。
枯れ葉を踏む音は、聞こえなくなった。
*おまけ
「そういえば、結局熊はしとめたんですか? それとも飽きたまま?」
「熊に関しては、しとめたと言うより、粉砕でしたね。私が切る必要が少なくなるくらい?」
「です。…いーたんとぱちさんが前を見ないで走るから…」
「お二人の前方不注意で熊が粉砕!?」
「間近で見た乾様がそうおっしゃっていましたから、そうなんでしょうね」
「食べれるところは残っていますから、大丈夫ですよ」
「ふん、さい……?」
熊鍋は一口サイズのお肉がごろごろと入っていて、大変おいしゅうございました。