指輪をつけてはくれないだろうか。
それも、ただの指輪ではなく、自分の贈った指輪を。
その光景を想像して、恒磋は幸せそうな顔でほぅ…と息をついた。
2.指輪 −胸いっぱいの愛を−
「愛してます昊陽嬢ー!」
声と共に、かけよる銀髪の青年に、金髪の美女の拳が飛んだ。
恒磋は綺麗に放物線を描いて飛んでいく。
その体が地につくのと同じく、昊陽はぴしゃりと言い切った。
「馬鹿じゃないの!? なんでそう考えなしに飛びついてくるのよ道端で!」
「誤解です! 僕は常に考えています! 昊陽嬢、あなたのことを!」
情熱的な言葉と共に、彼は再び空を舞う。
往来で言いあい、吹っ飛ぶ青年をちらりと見る住人も幾人がいたが、その心は皆一つ。
またやってるなあ、である。
ちなみにその視線の中に某126番地の光龍が含まれ、「同じ光龍としてああはなりたくねえ」と思いつつ、レース片手の地龍から逃げていることと、
後に彼が「恥ずかしさという点なら君だって似たようなもんだ」と主人に評されるようになることは、先の話である。
そんな生暖かい視線を知ってか知らずか(知ってても無視しているのか)恒磋は自らを吹っ飛ばした愛しい愛しい愛しい(以下省略)恋人をうっとりと眺める。
―――彼女は綺麗になった。
狩りに邪魔だと言って厭っていた装飾品に凝るようになってから、なおさらだ。
無論、着飾ろうが着飾るまいが、彼女の美しさに勝る装飾品などあり得ない。
ただ、たまに思い出したように耳元の飾りを照れくさそうに探る仕草や、ショーウインドウに映りこむうっすらと紅で彩られた唇を確かめるように眺める仕草がたまらなく愛らしい。
その心境の変化には己の存在が関わっていると言うのだから、高性能だった恋のフィルターはより一層進化を遂げようと言うものだ。
例え抱きつこうとする度に熱い拳が応えても、それもまた愛の戯れである。
少し前なら戯言と評された論理だが、今は違う。
いまや彼と彼女は想いを確かめ合った仲である。今だって、二人で出掛けている。恒磋がついてきただけという説もなきにしもあらずだが。
ともかく、今はこれが僕達の愛の営みなんです胸を張って高らかに主張することができる。
もっとも、それが理解されるとは限らないけれど。
バシャン
と、音を立てて水飛沫があがる。
恒磋が吹き飛ばされた地点が丁度噴水だったのだ。
彼女はあわてて駆け寄ってくる。
「なに落ちてるのよ! これくらい避けなさいよ!」
「心配してくださるのですか、昊陽嬢!」
水浸しのまま彼は笑う。金の瞳は歓喜に輝く。
抱きつくことを思いとどまったのは、そんなことをすれば彼女も濡れてしまうからだ。そうでなければ、間違いなく抱きしめていた。
「ば、馬鹿じゃないの!? 心配に決まってるじゃない、この噴水壊したらどうしようかと思ったのよ!」
だから心配したのはあんたじゃない!
真っ赤になって叫びながらも、彼女は恒磋に手を差し出す。己の台詞を裏切る行為だ。
けれど昊陽自身はその矛盾に気づかない。手を差し伸べたことにすら気付いていない。そのくらい、自然にそうしていた。
彼はそれを見逃さない。彼女がそれに気づき、照れてしまってしまう前に、ぎゅうと握り返す。
その時点で彼女は青の瞳を大きく見開いたが―――何も言えずに頬を赤くする。
愛おしい。
日に何度口に出しているか知れない言葉を改めてかみしめる。
何度口に出しても足りないし、何度思っても足りない。
そのくらい、彼女は眩しい。
毎日、キラキラと輝きながら、ほんの少し違う側面をのぞかせる。
きっと一生―――否、この生涯が閉じようとも色褪せぬ想いなのだと確信しつつ、恒磋は微笑む。
少し、悪戯っぽい風に。
「ねえ、昊陽嬢」
呼びかけながら、指と指を、特に薬指を絡ませて、つなぎ合った手のひらを掲げる。
「こうしていると指輪のようだと思いませんか?」
ペアリングみたいで幸せです、と言い切ることは、思い切りのよい蹴りに邪魔されできなかった。
再び吹き飛ばされながらも、彼は幸福に微笑む。
あの指にあうのは、どんな指輪だろう?
どんな指輪だろうと、彼女の美しさにはかなわないけれど。
精一杯に似合うものを探すのは、恋人の義務で特権だ。
思い、恒磋はこぼれるような笑みを浮かべた。
落下地点に女装させられた銀髪の光龍がいて、見事に潰されるまであと5秒。