寄せてはかえす波の音、それは美しくも荘厳で、命のざわめきに満ちている。
けれど、今。この砂浜には。
常のざわめき以上の騒がしさに満ちていた。
水の精霊
そんな砂浜の片隅に、恋人が一組座っていた。
人目を避けるように二人で過ごす彼らはらぶらぶ甘々恋人同士―――だけれども、妙に間が空いているのは、彼がとてもとても初心と言う名のヘタレだからである。
「ねえ、メー君。君、前、言ってたよね」
「あー…なにが?」
水着姿の恋人からそっと目をそらしつつ、ヘタレもといメーは言う。
慎み深いというか、遠慮深いというか、へたれ120%のその様に、磨智は小さく頬を膨らませる。だが、すぐに気を取り直して言葉を続ける。この程度は慣れたことだからだ。
「かっこいいって、言ってたよね」
主語のない静かな言葉に、メーは力強く頷いた。
誰を話題にしているかは、彼女の目線が物語っていたから。
「かっこいいじゃん、力強そーで、なめられてなくて、なにかとびしっとしてて、なめられてなくて、背高くて、なめられてないしな」
――――なめられてないって3回言ったよ……
複雑な衝撃に苦笑する磨智に、メーは不思議そうな顔をしながらも続ける。
かっこいいと思うのだ、男らしい容姿とか、なめられずに『あの』一家の中で兄と呼ばれる辺りとか。
なにより―――
『きょうだいが甘えているようなものかと思ったがな』
それは、かつてひょんなことから彼の龍に言われた言葉。
うちの連中には迷惑かけられてばっかだ、と毒づく彼に送られた言葉。
『…んなもんじゃねえだろ、あれ』
心底嫌がってそう答えると、そういうものかと頷かれた。
軽いその様が、また少し嫌だったけれど―――なんとなくそのまま話を続けた。
『あんたは……嫌になったりしないんだな』
『兄だからな』
しっかりとそう答える彼に、ああそうかと納得しながら、なんとなくそれを口にするのは憚られた。
まだ、今傍らにいる彼女になにも告げずにいたあの頃。
その時、きっと、彼の龍は、自分のなりたいすべてだった。
「かっこいいってさ、思ってるよ。…今も」
今も、かっこいいと思い。
なりたいものは、違うものだと気づいてしまったけれど。
「それはすごいね。」
彼にそれを気付かせた存在は静かに頷く。
その顔に、やはり苦笑を浮かべたまま。
「…そうだな」
言って、彼は海を見つめる。
遠くを見つめるような瞳で。
「うわっほーい! 海だ、水だぁぁぁぁ! 泳ぐぞ泳ぐぞ泳いじゃうぞぉぉぉ!」
たくましい体を太陽(空の)にきらめかせ、そう叫びながらあっという間に海へとダイブする姿は――――さながら、水の精霊のような―――
とも言えなくはないんだけどどこからどう見ても壊れです。本当ありがとうございました。
先に海を楽しみ始めた水龍も同じテンションでもはや素晴らしくカオスです。
彼の行く先にいたらしい赤ふんどしの見覚えのあるマスターがはねられたらしく太陽(空の)へ逆バンジーをしているのも気になるけど気にしません。平穏のために。決して以前あそこの闇龍につれさられた(?)ときの恐怖が蘇ったりはしてません。
「行こうぜ…ピリオドの向こうへ!」とかいうハイテンションの謎言葉が蘇ってません、決して。
「…水龍って、残酷だねえ」
しゅん、と肩を落とすメーに、磨智は小さく呟いた。
2人の眼下で、水龍達の狂宴は続いて行く。
どこまでも、どこまでも。まるでさざなみのように。
「この海の王に、俺はなる!」
「ぁあ? てめぇどこのシマのもんだ、誰に断ってヒトの海でデカい顔してんだ?」
「そうさ、主役はこの私なんだ!」
「はっ、そっちこそ誰に断ってここがてめぇの海だなんてほざいてんだ」
なにやら乱闘まで始まったそれを、二人は主が帰ろうと誘いに来るまで、ただただ見つめ続けたのだった。