いつもの通り道。
その途中にあった、広大な空き地。
今日はそこに、変な囲いが出来ていた。

10-地の精霊

囲いとは言っても、非常に簡素なものだ。
棒っきれを四つつっ立てて、その間を紐で通しただけ。
紐にはひらひらと白い紙がついているが、侵入防止の役に立ちそうも無い。
囲いの中には白木の階段があって、木の枝やら酒やらが乗せられていた。
「ねぇ、太陽。あれは何?」
咲良は立ち止まり、くい、と太陽の袖口を引っ張る。
引っ張られ、太陽も立ち止まってそちらを見た。
「おお、珍しいですね。地鎮祭という奴ですね」
「ジジンサイ?」
「文字の二つ目はチです。せーの、チ」
「チ」
「ジチンサイ」
「ジチンサイ」
「ぐーっど」
ぷち駅前留学。
やってみる太陽も太陽だが、素直に繰り返す咲良も咲良だ。
わしゃわしゃ咲良の頭を撫でて、太陽は再び歩き出す。
咲良は慌ててその後に追いすがった。
「…で、ジチンサイって何?」
「家を建てる前に、地の神様に立てるお伺い…とでも言いましょうか…」
あそこに引っ越してくる人はきっと東方の国から来た人だ、と太陽は言った。
ふぅん、と咲良は首を傾げる。
「お前って本当色々知ってるなぁ」
「はっはっは。もっと褒めてもいいのですよ」
「…きゃー。すごーい。すてきー」
素直な咲良だった。
一頻り褒めた後、口を噤む。
太陽も軽く咳払いをした。
「似た様な儀式は世界各地にあると思うのですが。この辺りでは珍しい形式ですね、あれは。
 地の神となると私達とは他人の様な気がしませんな、はっはっは」
「ふーん…地の神、か…
 …………
 いるの?そんなの
「今この子ファンタジーの世界観を根本から揺るがしたっ!」
いや、ちょっと身の程知らずじゃないか?
関わりが無い訳じゃないけど、そこまで言うと言い過ぎだろ。
と、そんな突っ込みを期待していたであろう太陽が逆に突っ込んだ。
相当驚いたらしい。
咲良は目をぱちくりさせる。
「いや、目に見えないものは取り敢えず疑う。普通のことだと思うんだけど」
「…そう言われると普通の事の様に思えますが」
「だろう?」
「…うーん」
だが、何だろう。この釈然としない感じ。
考え込む太陽。
咲良はその横顔を見詰め…声を落とし、呟いた。
「…ぶっちゃけ、私の中で地の精霊とか神とかって相当影薄いんだよな…」
「…あ、それは解ります」
地龍といえば、龍族随一の武闘派。
精神集中したり呪文唱えたりしてる暇があったら、近付いて殴った方が早い。しかも効く。
そんな種族的特徴の為か、彼らの魔法習得率はやたらと低い。
頭が悪いとか脳ミソ筋肉だとかそういう訳では無いのだが、性に合わないというか。
魔法習得率が低いということはつまり、力の貸借主…つまり精霊との遭遇率も低くなるということ。
そもそも精霊との遭遇自体がある程度魔術の素養を必要とする為、一度も地の精霊を見たことの無い地龍も多そうだ。
ついでに言うと、属性が異なればシンクロ率とでも言うべきものも落ちる。
地の精霊を見た事が無いのに他の精霊を見ることができる道理があろうか、いや無い。
「…一応お祭りはやるけどさ。地龍祭とか。
 …だけど、精霊って、本当にいるの?みたいな…精霊召喚とかなんとかいうけど、正直何も見えないし」
咲良は笑う。
「…むぅ」
太陽は肯定も否定もせずに、考え込む様な素振りから動かない。
はっきりとした肯定もせず、はっきりとした否定もせず。
彼自身がどうなのかは、その仕草から推して知るべし。
咲良はきゃたきゃたと笑いながら、続いて言った。
「地の精霊に干渉とかしなくても、日常生活も戦闘もあんまり困らな…」
その瞬間。
ぐらり、と地面が揺れる。
ほんの小さい一揺れではあったが、確かな地震。
太陽と咲良は立ち止まり、顔を見合わせた。
「…………」
「…………」
「滅多な事は言わない様にしましょうか」
「そうだね」
小声で囁き合い、二人は足早にその場から立ち去る。
とある平和な午後の神秘体験(?)であった。



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