祭壇は神に捧ぐ供物の為
幾千幾万の血に濡れた歴史
その歴史を捧ぐ供養の台
その祭壇に捧げられた命を持って
祭壇に捧ぐ勝者にのみ
神の祝福は与えられる
祭壇
物陰に隠れると共に息を殺す。
装備を確認し、身体もチェックを入れようとした瞬間悪寒を憶えて身をかがめる。
ズッッッッシャン!!!!!!
一瞬の後頭のあった場所に横に突き刺さった大剣。
見上げればそこに赤き狂戦士の姿。
その目を通わすことなく前に転がりながら返ってきた大剣の領域から跳んで逃げる。
『しゃもじ』という名前が付けられたその武器は話し合いの場合ならば笑いやギャグだが、この場においては洒落にならない。
狭い路地では普通大型武器は使えない。
当たり前だ、振り回そうにも武器や腕が壁に当たれば威力は落ちる。
それどころか振り回す事もできないだろう。
だが、無論例外もある。
例えばそうやって当たる壁すら全て破壊する事のできる、細かく考えられた技すら嘲笑うような人知を越えた……
「お、おおおおおおおおおおお!」
圧倒的なパワーが存在するならば。
「っく」
当たる壁粉砕しながら縦に放たれた剣を横に転がりながら避ける。
両手に細く普通より小さい槍を取り出し構える。
彼女にとってそれは、ほぼ苦渋の決断での武器。
良く使うシューティングスターは重量武器。
対峙する相手のように壁などを破壊する程のパワーは持っていない以上このような場所では使いこなせない。
得意武器の刀はさっきまでの攻防で一撃を弾いた際に粉砕されてしまった。
三叉槍は……無論勿体なくて使えない。
それに、相手の武器を受け止めて破壊する事も可能な三叉槍も今回の相手では余りに荷が重すぎる。
よって、選択肢は小さめの槍での手数。
無論……
「は、ああああああああぁぁぁ!
「この、一撃を切り抜けて出さなきゃ行けないんだけど、ねっ!」
振り上げられた剣を見つつ、青い髪を持つ冒険者はそう言って飛び込んだ。
「うーん、あっこはまだ掛かりそうだなぁ〜」
持っていた弓を降ろす。
決着が付き、緊張が抜けたその一瞬の狙撃。
種族特性は……まあ特に関係はないと思いつつ、それを狙っていた彼女はそう呟き……
「それじゃ、ちょっとばかり私に付き合って貰えません、か?っと!」
ギイィンッ!!
反応は声が聞こえるほんの寸前だった。
弓を放り出すタイミングと同時に自身が常に放り投げている短剣で首を狙った鋭い一閃を受け止める。
鉄同士が叩き付けられあった音がする。
ただ、叩き付けられたのは刀。受け止めたのはナイフ。
無論、刀とナイフ。
その一撃でナイフは一瞬にして鉄くずと同程度の価値しか無くなる。
だが、魔力で強化されたそのナイフはしっかりと主人を守るという責務を果たす。
ギギギギギといういやな音を立てて止まったナイフを両手で押さえつつ彼女は斬りつけて来た方向に笑顔で微笑みを返した。
「わっととと、危ないですねぇ」
「ふふ、さっきから遠距離から一撃狙っている人には言われたくないですよ」
ぎんっと刀を弾いて距離を取る。
同じ長髪でも紫と茶色という二つの色が対峙する。
義姉妹ともいう仲の良い二人。
だが、この場に置いては殺気を隠すことなく己の武器に手を置いている。
片方は新しく取り出した左手のナイフを前に、片方は放った刀を鞘に仕舞い再び抜刀体制に……
にっこりと微笑みを浮かべる二人……
シュオ゛ンッッ!
そして、唐突に刀が空中を一閃した。
「無駄ですよ羽堂様」
「って、魔力切り裂きますか真夜さん?普通……」
亜理紗が身体で隠した右腕。
その右腕から普通は黙視出来ない魔力の糸が途切れていた。
構えてナイフに集中させて、黙ったまま魔力で練った糸を首に結びつけて…「きゅっと」と考えていた亜理紗の行動を読んで一閃でもって叩き斬った真夜。
にっこり笑っているその笑顔に寒いものを憶えて、亜理紗は投擲に体制を変えて自分のナイフを全てを空中に放る。
真夜もその様子を見て剣を鞘に仕舞い、抜刀の体制に入る。
建物の屋上で斬撃音が鳴り響きだしたのはそのすぐ直後からだった。
「うーん、どこかで音がする」
自分の槍の血を払いつつ乾はそう呟いた。
ついさっき、ディスティアを何とか打ち倒した彼は広場にでていた。
ほぼ互角の戦いで最後を決めたのは、自らが祈りを込めたアクセサリの効果も有ったのだろう。
貫通、必殺。鎧を貫き、必ず殺すという祈りを込めたアクセサリ。
そのアクセサリの祈りや共に放たれた槍は彼女の心臓を完全に穿ち抜いた。
町並みからぽっかりと空間の空いた中央の噴水の周りを確かめて、ふうっと噴水に腰掛ける。
槍を水につける事はしない。
当たり前だが錆びてしまえば使えなくなる。
無論、後でしっかりフォローはしなければいけないが……
「今、仕舞う気にはなれないなぁ」
そう呟いてほぅっとため息を一つ。
頭上には晴天。
鳥の鳴き声がどこか現実味を喪わせ……
ザバッ…
その音を耳にし、乾が振り返る前に彼は首に手をかけられ、噴水の中に引きずり込まれる。
しまったという頭、一瞬の油断の瞬間手からこぼれ落ちた槍。
そして唐突の事態故に思考が様々な事を考える。そして、気管に入ってきた水。
一瞬で頭を巡ったそれらにパニック状態になりながら手と足をばたつかせる。
その焦りの中で目にしたのは、虚ろな表情で包丁を振り上げるお馴染みコックの姿。
その瞬間、ばたつかせる足が、偶然噴水のヘリを踏む。
躊躇なく振り下ろされる包丁を噴水のヘリを蹴った足で蹴り飛ばす。
そのままの勢いで一回転すると彼は膝程の噴水の水の中、身体を起こす。
動きの悪い頭、酸欠を起こした身体は無理な動きでがくがくと震える。
咳き込み、倒れ込むように噴水から転がり出すと自分の槍の位置を確認する。
そして、噴水の中から飛び出て包丁を振りかぶったコックの姿を目に収める。
ばっと力の入らない足で地面を踏み切り、力の入らない腕で自らの身体を押しやる。
間一髪包丁の一撃を回避し、転がりつつも槍を手に取ると彼はコック…朱音に対峙し……
ドッシュ……
意識外…背後から自らの胸を貫いた剣の姿を目にした。
あり得ないと思われた噴水の中からの衝撃。
唐突に水中の中に放り込まれた故のパニック。
凶悪な輝きを持って目の前から襲いかかる包丁。
そして、包丁を持った相手への意識の集中。
そう、その一瞬……
頭は目の前の迎撃以外の一切の思考を放棄していた。
その時、全てが繋がる。ああ……確かに………
「そう、か……」
再び剣が突き刺される音がし、噴水は赤く染まった。
振るわれるたびに地面が幾筋も削られる。
何でもない事のように振るわれるその中で、彼女は奇跡的に回避を続けていた。
そして、合間で間接部に繰り出す槍。
無論、通常の槍とは重さも長さも異なる。
故にはたしてどの程度聞いているのか、分からない。
それでもむやみやたらに鎧に突き刺すよりも効果的と考えて繰り出したその槍は徐々に狂戦士…パッチーの動きを悪くしていっていた。
だが、それでも有利とは全く思えない。
妙な寒気が彼女を襲っていた。
何度も何度も闘ってきた中で受けてきたそれは…つまりは、プレッシャー。
狂戦士……一撃でもって全ての戦況をひっくり返す強さがそのプレッシャーの正体だった。
動きは悪くなってはいる。
振るわれる剣に精彩は無い。
だがそれでも、振るわれる剣に、そしてその狂気の瞳に……
「う、お、おおおおおおおぉっっっっ!」
「っ!」
っっっっずんっっっっっっっっっ!!!
ただ一点の曇りも無かった。
故に、まだ彼女は迷いの中にある。
そう、つまりは…必殺の一撃を、このタイミングではなって良いものかどうか。
その躊躇の時間……
その瞬間、狂戦士は迷うことなく剣を振るった。
元より闘いという狂気に染まるその戦士に……
闘いの迷いは、ない!
一瞬で増大した筋肉。
ぞくっという背筋を駆け上がる悪寒を完全に感じたかなた。
次の一撃が最後となる。
その事を物語るような、今までの傷すら全て無視するようなその、一撃。
狂気を宿し、恐れを捨て、幾千もの矢を受け…されど止まることなく。
地を砕き、天を裂き、並み居る敵を蹴散らし、神すら粉砕する。
その狂戦士の一撃。
「--------------!!!!!!!」
叫びは声として認識すらできず。
ただ勢いのみが彼女に叩き付けられる。
彼女の身体が一瞬、ほんの一瞬その威力に捕らわれ動けなくなる。
その目に、振り上げられた鉄塊が目に入る。
『あっ…動けない』
冷静な頭がそう呟いた。
迫る鉄塊を、受け止める事は敵わない。
そして、逃げる事ができない。
死
ほん、とうに?
「…っああああああああああああ!」
諦めることなく振り絞り、放った身体。
叫びが自然と出て迫る鉄塊を目が追っていた。
明暗を分けたのは、リーチ差だった。
叫びによって稼がれた一瞬は、ギリギリに突き出された二本の槍と交差する。
その槍を粉砕する一瞬。
そこで、彼女はその威力の中心に踏み込み、最後に残っていた三叉槍で狂戦士の無防備になった喉を貫いた。
屋上からふっと飛び降りる影。
慌てた様子もなく、血に濡れたその刀を払う。
そう言えば、余り闘った事は無かった、そして今まで勝った事は無かったなぁと思いつつ真夜はそっと刀を元に戻した。
勝負は時の運。しかし、今回に関しては本当に相性が悪すぎたと言うのが有る。
亜理紗はナイフ投げで牽制をした直後、切り札を切った。
シルフに転職し見つけ出した、壊れる事なき奇跡。つまりは、神器:朱雀の使用であった。
刀は余り慣れていないといえど、神器はその武器自身が闘いを記憶しているのか、普通の武器に比べ非常に扱いやすい。
戦い、勝つ為の武器。その為に取り出した神器。
同じ刀同士で…だがその判断は間違いだった。
そう、羽堂と真夜は販売系。互いに剣を合わせた経験は本当に少ない。
昔渡り合った経験で取り出した刀を、真夜は既に極めたとされる程まで鍛え上げていた。
その結果を、一合目で羽堂は体験した。
心境としては「あっちゃー、やっちゃった…」。
切り裂かれた身体。いくら人外のみであっても、真っ二つにされてしまっては、生死を確かめる必要すらいらない。
路地に降りた彼女はそっと刀をしまい手を離す。
「西の方のかなた様とパッチー様の方もそろそろ決着が付くぐらいでしょうか?」
そう、ならば残った方を仕留めるチャンス。
何度か手合わせをして相手の実力もある程度把握している。その上で、相手のコンディションは悪い。こちらはそれほど疲労していると言う感覚はない。
ふっと微笑みが出た彼女は……
「それは、良い事を聞きました」
唐突に胸から生えた剣はずっという軽い音しかしなかった。
現実離れしたその光景に、思考が停止する。
「えっ?」
引き抜かれた剣、噴き出す血。
喉の奥から逆流してくる血を吐き出し、反撃の為刀に手をやり、抜……。
その瞬間を狙ったように脇腹を蹴り飛ばされる。
完全に力が抜けた身体が刀ごと吹き飛ぶ。
倒れ込んだからだから容赦なく噴き出す血。
咳き込む全てが血に染まっていく。
赤く濡れ、薄れる意識の中、彼女はふと考える。
ああそうだ、なぜ羽堂様が屋上にいたのか。
そう、魔力の糸を使える彼女は動きが制御される密集地帯の方が強いはずだ。
つまり、なぜ屋上という広々とした彼女に合わないフィールドで闘っていたのか。
それはつまり、彼女以上に密集地帯での戦いに適した存在がいたから。
それは……
「さーって、残るは一人。クライマックスですねぇ…っとと、では悪いですがお手伝い願いますよ、真夜さん。本当は亜理紗さんの方が個人的にはよかったのですが、真っ二つじゃ流石に手間が掛かるんでねぇ」
血に濡れつつにやりと笑う彼の顔を見る事もなく真夜はそっと意識を手放した。
「うー、折角の装備が……」
持ってきていたほぼ全ての武器を壊し尽くしつつかなたは涙ながらに三つ叉槍を胸に抱いていた。
狂戦士化したパッチーを刺し殺したその槍は、運良く壊れる事もなく彼女の手に戻ってきていた。
さっきまでのものが多く、ボロボロの路地と違い、何もものが置かれていない寂れた路地をしくしくと彷徨いながらかなたはそれでも槍を手放さない。
そして……
突き当たり。
大きなゴミ収集ボックスが置いてあるT字路に差し掛かった時、彼女はぴたっと足を止めた。
すっと後ろを見れば、そこに血に染まった刀を構えた血塗れの真夜の姿。
「ま、真夜さん」
「……」
慌てて槍を構える。
何度か手合わせをし、その強さは身をもって味わっている。
いくら槍の方が刀よりも有利な立場にあると言っても油断はできない。
注意深く構え……じっと見た瞬間、血の気が引く。
返り血で汚れていると思った服は未だ止まる気配のない自らの血で汚れていると言う事に気付く。
たじっとなって引いた槍が……
「どわぁっ!」
後ろから気配無く襲いかかろうとしていたイソレナの鼻先を掠めた。
瞬間、意識から切り離された真夜の身体が崩れ落ちる。
一瞬の空白。
そして……
「えいっ☆」
「オウフ、デュクシ……」
先に不足な事態から復帰したのはかなただった。
瞬間の踏み込みと共の突きは体勢を崩したイソレナに回避も、防御もさせる事をさせずにその心臓を貫いた。
「と、言うわけで勝者はかなたさんでしたーーー!かんぱーーーい!」
「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」
『第一回ドラカフェばとるろあいある』と書かれた看板の下、振り上げられるグラスの中身には赤ワイン。
命を捧げる儀式とはほど遠い不殺を取ったあらゆる手段での殺し合い。
飲むのが赤ワイン(或いはブドウジュース)なのは血のように見えると言うのをかけての打ち上げ会datat。
朝町でなければできないこの遊び。
ついでに、豊穣を祈っての人の命を捧げると言う事を組み合わせたこのお祭り。
サーチ&デストロイを地で行った結果、最初の戦闘はイソレナvs朱音、乾vsディスティア、かなたvsパッチー、そして真夜vs羽堂だった。
その中で最も最初に戦闘が終了したのがイソレナvs朱音。そもそも、種族パンドラボックスは密閉空間を自在に移動出来る。
つまり、箱のような閉ざされた空間が有ればイソレナはどこからでも奇襲をかける事が出来る。
結果、開始早々奇襲をかけられた朱音、そして戦闘終了のほんのスキをつかれた真夜はほぼ不運としか言えない。
そして、奇襲によってほぼ損傷のない身体を操る人形使いのスキル。
そのスキルによって死亡状態の朱音は乾を襲い、また背後から乾を刺し殺す。
そんな卑怯な手段をやってきたイソレナは最終的に、かなたの予想できない動きに不意打ちを食らい逆にさくっとやられるという事に陥った。
『人生の勝者』と書かれたたすきを掛けられたかなたはふぅと安堵のため息をつく。
因みに最後に殺されたイソレナは『負け犬』というバンダナを今回はつけている。
毎回、死ぬたびに自龍に苦労をかけ、今回のこのお祭りも参加するという時にはいい顔をされなかっただけ死なずに生き残れたというのは本当に良かったと言う事だった。
体力は本当にギリギリになったものの、生き残れば勝ち。
あと、思い入れのある愛用の槍を出す羽目にはなったものの壊れる事もなく本当に良かった。
「はっはは!楽しかったですよかなたさん、またやりましょう!」
お酒が入り少し酔ったパッチーさんがばしっと、その肩を叩いた。
さて、ここで思い出して欲しい。
朝町では面白い仕組みがある。
石に転ける→HP1減少という形のものだ。
その中に…「酔っぱらいに襲われる(叩かれる)」という旨のものは無かっただろうか?
「本当に楽しかったですよ、またこうやりあいた……あれ?かなたさん、かなたさーーん?って死亡判定!?」
油断大敵、ああまた怒られるかなぁ?今回は私に否はないはずなんだけど……
そんな事を思いつつ、かなたの意識はそっと闇に落ちていった。
祭壇に捧げられた命は恵みを与えるのだろうか?
勝者に与えられた祝福は?
全ては
その一時を生き続けているという奇跡に支払われているのだろう