さて此処に見るは神の所業
されど為すは罪持つ魔物
そして魔物は世界の不思議を間の辺りとする
63-ホムンクルス
「で、これ…なんですか?」
のんびりとしたいつもの68番地での昼。
やってきたのは125番地のイソレナ。
此処まではいつもと変わらない。
彼の、その横に……68番地の主人と同じ顔をした『モノ』を連れていなければ……
「何って……ホムンクルスですよ?」
「私の?」
「はい、うーちゃんの」
そこまで言って二人がニッコリと見つめ合う。
綺麗や、美しいと言うまでの完璧な笑顔で……
「取り敢えず死んでください」
「なして!?」
無言で取り出した剣。
きれいな笑顔のまま暴走した亜理紗を何とか宥めれたのはそれから十分程後だった。
「で、まあどうやって作ったんです?」
違和感はありながらも自分のホムンクルスという存在と対峙しつつお茶を飲む亜理紗の額には怒りマーク。
「ほら、人形使いって死体操れるじゃないですか」
「ええ、そうですね。そう言えば、この町だとネクロマンサーよりもよっぽど人形使いの方がネクロマンサーですよねぇ〜」
「それは言っちゃオシマイですヨ。取り敢えず、そん時に成分は分かっていますし特徴、傾向から人体精製の構成図は興す事ができるんですよ」
イソレナが何気なく言った言葉に対して羽堂が静まりかえる。
紅茶を飲み反応がないなと思ったイソレナが首をかしげるその時に亜理紗は少し固まりながら口を開く。
「……なんか、黒い手が出てくる門とかって…いえ、ナンデモアリマセンヨ」
「?一体何を言ってるんですか?」
ここから先は言っちゃ色々不味い事になる。主に版権とか何とかがと頭をよぎった亜理紗がぶんぶんと首を横に振って思考を切り替える。
そして、気にはなっていた事をそっと口に出した。
「で、何でそれは淡いクリーム色なんて言う訳の分からない髪なんですか?」
ホムンクルスは亜理紗のホムンクルスとイソレナは言った。
実際に、対峙してみると面白いぐらいに顔の形、身長、体型、目の色、エルフ特有の耳、髪の形も整えてない時の亜理紗そっくりだった。まあ、服装…は白いワンピースなんて言う完全に制作者の好みが見えているが…。
ただ、一つだけ明らかに変わっている部分。
それが…紫色ではない髪の色であった。
「何でだと思います?」
イソレナのにやりとした笑い。それに対して亜理紗は口を開き……
「趣味」
「いや、ちょっと、含みも足せたんですからちょいとばかり悩むとか、分からないから教えてくださいみたいな……」
「うふふふふ、ありさ、わっかんなーい。おしぇてほしーなー」
「うわぁ、微妙に腹立つ……」
にっこり笑う二人の顔。また一触即発かという雰囲気は、イソレナが折れる形でため息をついた事によって流れた。
「うーちゃんの髪は元来この色のはずなんですよ。肉体が持つ色素、それを記した肉体の設計図とも言えるもの…そこに記してあるものを作り出すとこうなるんです」
「でも、紫色ですよ?」
自身の髪を手にとって差し出す。
その手には特徴的な紫の髪。
明らかにクリーム色の様な金髪とは異なる髪色。
その様子を見て、イソレナは苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。
「調べようがないんで仮説ですけどね…その色に見えているというのは世界があなたを特徴的な人として定めているから…何じゃないかなと」
人がものを認識するプロセス。それは光の反射によって眼という感受器から色の認識情報を電気信号として脳の方に送る形である。
言ってしまえば、私達は脳で世界というものを認識している。
「その認識の際に、もし世界意思というものが存在していて介入していたら……例えば、あなたの髪は必ず「紫色」に認識するように世界自身がそれを変えているならば、設計図にかかわらず見えているのはと言うのが有り得るんですよね」
「……よく、分からないですよ」
「まあ、取り敢えず「あなたという存在である=紫色」「あなたの形はしているがそうではない=紫色じゃない」ように世界が見せてるっていう仮説です」
「更によく分からなくなりましたよ」
にっこり笑ったままの亜理紗にイソレナはガシガシと頭を掻く。
実際、彼自身も分かっているわけではないのだ。ただ、最も考えられるかなぁという事を挙げたに過ぎない。
「で、結論は?」
「世界って不思議だなぁと」
「オチがつきましたね。ありがとうございます」
ふぅっと飲み干す紅茶。二人の間に何とも言えない微妙な雰囲気が流れ……
「うわ、キショイ!」
扉を開けた音と共に響いた声。
振り向く先には今日も麗しい火乃香の姿。
しかし、明らかにどん引きの眼。
その眼は、クリーム色(金髪)の亜理紗の姿を迷うことなく射抜いていた。
「キショイって……ただ単に髪が色違いなだけなんですけど……」
「だって、金色ですよ!紫色ではない、ワンピースなんて着ているうーちゃんですよ!気色悪いに決まってるじゃないですか」
「そんじゃ、普通の亜理紗さんがワンピースなら?」
「……それは、それで気色悪いかも」
「更に酷い!」
あんまりと言っちゃあんまりの台詞に亜理紗は既に涙目。
台詞がつくとしたら「止めて火乃香嬢、もう亜理紗のHPは0よ!」という状態である。
非常に酷い。
だが、言った本人は全く気にする様子はない。
言うだけ言って満足したのか、ふぅっと空いていた席に着いている。
「で、何で金髪なんですか?」
「いや、それはね……」
「イソレナさんの趣味デスネ分かりました。イソレナさんは金髪巨乳の森ガールもどきが好き、と……」
「いやいやいやいや、何でいきなり分からない設定つけられてるの僕!名誉毀損!」
何か自己完結しかけた火乃香にイソレナが食ってかかる。その様子を見て火乃香はそっと微笑む。
「ほぅ、ではイソレナさんはツルペタ貧乳の黒髪、未来系ロボット少女が好みと……」
「酷い、いーちゃん。私とはお遊びだったのね……」
「ちょ、勝手に人の設定捏造しないでくださいというか。勝手に訳の分からない好みの方向性をつけられた人の気持ちって理解した事有りますというか、違うって、何でそう、と言うか未来系ロボットっていったい、というかなんと、あぎゃあー」
発狂して頭を抱えるイソレナ。
まさに、一瞬の攻防によるマス…ごほんごほん火乃香の印象作成並びに添付。
効果はばつぐんだ。
イソレナはたおれた。
「って!倒れてない!まだだ、まだ終わらんよ!」
「いーちゃんふっかーつ」
「やっぱり一分瞑想→蘇生は強いですねぇ」
全くもって台詞に対する突っ込みも、状況に対するフォローもなくただ淡々と交わされる会話。
イソレナは心折れそうになりながらも何とか椅子に座り紅茶を飲んでいた。
そう、この程度で心折れているわけにはいかない。
この程度の事で心折れていては物事を進める事なんてできるはずがない。
訳の分からない励ましを自分にしつつイソレナは顔を上げ……
「そう言えば、イソレナさんは何でこんなホムンクルスなんて作ったんですか?」
火乃香の一言。
そう言えばと亜理紗も思う。
錬金術士→ホムンクルスという流れは非常にまあ考えられてもおかしくはない流れである。
俗に言う「作ってみた」の感覚。
だが、今のイソレナは人形遣い。
確かに種族:パンドラボックスというのを使い色々表に出せない所で使っているのは分かる。
だが、言葉は悪いが、彼は殺害状態に相手を置けば相手を人形にする事ができる。
つまり、自分の手足としてのホムンクルスは必要ではないのだ。
二人の視線がイソレナに集中し……
「それはひ、み、つです」
ニヤリとしたイソレナの表情は非常に楽しそうに、そして思わせぶりにその答えを紡いだ。