4,剣

ぎいぃんっ
互いに互いの金属の刃を弾き会う音。
しかし……
「ははっ、やります、ねっ!」
「ええっ!」
刃を交わす最中の短い受け答え。
直後力をかけて相手をはじき飛ばすと距離を取る。
互いに有効範囲から離れる。
と見せかけて一気に踏み込む。
「わわっ!」
「よっ!」
下からすくい上げるように剣を動かし……
「ってね!」
振るわれた上段の剣にぶれはない。
つまりは誘い作られた隙。それは踏み込んだ地点の頭蓋に安々と到達し……
更に踏み込まれた為に空いた空間を切り裂いた。
「……あれ?」
「はい、終わり」
「うぐっ」
ずんっと胴にめり込んだ剣。
無論鎧をつけているし、力を余り込めていないので切り裂かれてはいないがはき出された声は随分痛そうだった。
取り敢えず剣をひいて床にしゃがみ込んだ彼女の様子を確認する。
「……大丈夫ですかかなたさん?」
「……だい、じょうぶです。はい、たぶん……」
大分、いや随分痛そうだった……。


「うー、良い所までいったと思ったのですがねぇ」
「いやいや、実際騙されましたよ。対応が出来たのはまあ運みたいなものでしょう」
紅茶を飲みつつ話す内容はさっきの組み手。
俗に言う拳で語り合う友情という奴だ。うん、間違いはない。
一時期彼女自身が襲いかかってくる時に言っていた台詞だから……
「……そう言えばイソレナさんまた新しい剣にしたんですか?」
「?ああ……折れまして」
箱から取り出すのはさっきの戦闘で使っていた剣。
素っ気ないといってしまえば素っ気ない装飾の少ないロングソード。
「でもそれも新顔ですよね。この間少なくともストックが二本あったような……」
「ですから……折れたんです。塔で……」
塔……それは一部の人間にとっては最悪のダンジョン。
ある程度の実力がつけば行くのは問題がなくなる。
しかし、運が悪ければそこは次々と壊れゆく武器達の墓場である。
「……レア、でしたよね」
「レア、ですよ」
「二回強化、してましたよね?」
「二回強化、していましたよ」
「……因みに何回目で?」
「因みに、対アンノウンの一回使用で……」
流れる雰囲気はまさに氷っている。
作り上げて攻撃力を高められた武器が一回の通常敵の戦闘で消える。
「……つらい、ですね」
そして、それは恐らく誰しもが体験したことのある悪夢。
トレジャーハンターという職業、つまりは戦闘系にいる彼女もまたどこかしらで体験したことがあるのだろう。
取り敢えずは二人で温かいお茶を啜って空気を暖める。
ふぅっと一息。美味しい茶請けと美味しい紅茶。
「あれ?でもイソレナさんって剣もう一つありますよね?この間の二つ以外にも」
「?……ああ、これですね」
引き寄せた箱から引き出すは一本の炎を纏った剣。
神々の黄昏(ラグナログ)ですか」
万神の終焉(らぐなろぐ)ですね」
そう言ってイソレナは剣をふんっと振るい、箱にしまう。
「それは、大切にされてますけど……」
「ええ……思い入れが凄い強い剣で……戦闘で、壊れるとちょっと……まあ本末転倒なのですけど」
「いや、その気持ちは分かりますよ」
誰だって壊れて欲しくないと思う装備品があるというのが分かるのかうんうんとかなたさんは頷き。
「しっかし……なんか私その剣見たようなことがあるような気がするんですよねぇ……どこかで……気だけなのですけど、生前とかそう言う記憶ですかね?」
「?そうなんですか?うーん、オリジナル、なのですけどねぇ一応……まあ、亜理紗さんもそんなようなことを言っていましたが」
人、それを電波と呼ぶ。とは誰も突っ込まず話は続く。
「亜理紗さんって事は……それを打ってもらったのは羽堂さんなのですね」
「ええ、まあ亜理紗さんに基本を打ってもらって零さんに強化してもらって亜理紗さんに名を付けてもらってです」
「う、うーん……凄い経緯ですねぇ」
かなたさんが震える。その様子を見て、
「持ってみます?」
「え、いいのですか?あっ、じゃあ……」
近づいた先から出た柄をかなたさんは掴み……
おっかなびっくり剣を手にする。
だが……
「……なんか、さっきみたいに火が出ないんですねぇ」
「まあ、そこが不思議なのですけどね……」
ラグナログを見つつ不思議そうにかなたさんが言う。
持った瞬間から火を噴き出したさっきの剣と本当に同じか不思議に思うような表情だ。
置かれた剣を苦笑しつつ僕が持つとぼうっと火がまた灯る。
「……なんか、悔しいですねぇ」
「ははは、僕も不思議なんですけどね」
そう言いつつ箱に再びしまう。
「不思議ですねぇ。伝説の剣ってあるじゃないですか石に刺さっているのを引き抜くととか……」
「いや、エクスカリバーとかグラムとかと同じ……なのかなぁ」
言い淀んだ様子にきらんっとかなたの目が光る。
瓦版に出来そうなネタの匂いというのを感じたのだろう。
「ほほぅ、何か裏がありそうですけど……」
「裏って……うーん……」
少し考える。そう、その話はどちらかというと過去のこと。
話して良いものかどうか……
ほんの一瞬の躊躇。だが、
「そうですねぇ、これはある人からその形とかをもらって作らせてもらった、っていうのが関係してるのですかねぇ」
隠す必要もない。
特に、もう今は……そう思い口を開く。
「ほほぅ、それはどんな」
興味津々といった様子でかなたさんは聞いてきて……
「身長は……今の僕と同じぐらいかな?赤髪で黒目。で奥さんを捜してましたねぇ」
「……う、うーん?」
首をかしげるかなたさん。
「……もしかして、奥さんは赤髪で緑眼の美人さん?」
「あれ?知っているんですか?ええ、そう言ってましたけど」
「………いえ、会ったことはないです。何となく、勘なのですけどね、いや何というか……」
首を捻るかなたさん。ついでに僕も首を捻る。はて?
「なんか、うーん……」
少し目を閉じ腕組みをして悩み、かなたさんは諦めたかのように肩をすくめた。
「憶えはないんですけど、不思議ですねぇ」
「ははは、瓦版のネタには出来ますか?」
「いや、無理でしょう。余りに現実味が無さ過ぎますし、確証もありませんから」
仕方ないというように肩をすくめる彼女の様子が面白くて僕はついくすくすっと笑ってしまっていた。


「ではでは、また来ますねぇ〜。今度は勝ちますよ」
「ははは、いつでもお待ちしていますよ。拳で語り合う友情ですから」
「ははは、ではでは〜」
お茶会を終えてかなたさんの帰りを見送る。

見上げれば星空。
冬の綺麗で澄んだ空気によって宝石のように散らばる星達を眺める。
此処より北の大地でこんな事をしていた夜はあっただろうか……
そう、剣でなくもっと簡単に人を傷つけられる武器を持って……
手に取る剣は名も無き無骨な鉄の塊。
冷たいその感触を感じながら、そっとこれからの在りし日を思った。



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