「あなたはその目に何を見てるんですか?」

17ー目

彼女と会ったのは、まあ仕方のないことだ。
彼女は68番地の龍。
私は68番地の主に会いに来た客人。
それがまあ、例えば12番通りで出会えば偶然だが、68番地で出会う分にはおかしいことは全くない。
だが、彼女が話しかけて来るというのは特殊な状況だった。
そもそも話しかけてこられるとは思わなかった。
巫女服に月と太陽を模したヘアアクセサリー。
光龍の彼女はその青い目でこちらをじっと見てきた。
その目に映る自身の姿。
映し出された姿を返す水鏡を、ふと思い出した。
なぜ、どうしてという疑問は全て吸い込まれるように。
発する疑問は自身に返されるように、その目が私を写して……
そして、発された言葉がそれだった。


さて、返す言葉もなく見られつつ考える。
まず何を聞かれたか。
実に単純な何を見ているのか。
今目に映るのはうん、確か小町さんといわれる彼女の姿。
どこかお洒落をしている雰囲気を感じるに、最近噂になっている126番地にいる風龍の彼とのデートなのではないかと深読みしてしまう。
まあ取り敢えず、見えているというのはそれだけのこと。
うん、後に見えるのは普通の68番地の様子だけ。
おかしい部分もなければ変わっている部分もない……ように思える。
まあ、他人のお店をそこまでしっかり憶えているのかと言われれば自信は無くなるが……
だがまあ、彼女が求めている答えはそんなことではない…と思う。
とすれば一体何を言っているのだろうか?

質問は「この目で何を見ているのか?」

つまり、この目で見落としている何かがあると言うことを言っている?
そう感じてファスナーを触ってしまう自分。うん、大丈夫空いてはいない。

「そう言う事じゃないんですけどね、ご自身の身近にあるものでですよ。いや、この場合は居るものなのでしょうか?」

呆れたようにそう言われて自分の身近にある、いや居るものというのを考えてみる。
最初に浮かんだのは自身の龍だった。
ついこの間も、68番地に色々ちょっかいを出していた。その時に何かあったのかも知れない。
いや、それとも闇竜の方だろうか?あちらこちらに顔を出す彼女のことだ、もしかしたら自分が知らないだけで把握している以上の所に迷惑をかけているのかも知れない。
その可能性を否定出来ないのは何ともしがたいが……

「それでもない…ようですね。ええ」

彼女のその言葉。決して何か確実的なもので言っているのではないそれを聞いてようやく何を言っているのか分かってきた。
いや、分かったような気がするというのが正確な話だ。


彼女…つまり小町さんは大宇宙の意思というものの声を聞くことが出来るという。
実際にどんなものなのかは分からない。
それはそうだ、そんな定義されていないものは理解も出来ない。
でも、彼女の今の服装。それを元に考えてみれば一つの仮説も立てれる。

つまり、神という存在。

大宇宙の意思。それを何かしらの存在が指向性を与えたもの。
その指向性を与えるものというのが人間とすればその仮説に辿り着く事も可能になる。
そこまで言って、質問の意味をようやく理解した気がした。
仮説を使うなら神の声が聞こえる彼女には、この世界の音が違うように聞こえるのかも知れない。
ならば、答える答えは…一つのみ。


「私には私に見えるものしか見えません」


その答えを聞いて彼女は一つ頭を下げて「ありがとうございます」というと共に扉から出て行った。
と、ひょこっと再び扉が開いて一言。
「そうそう、マスターは今日はお出かけで夕方過ぎに帰ってくるって言っていましたよ。今日のラッキー時間帯は8時とのことですよ乾さん」
それだけ言って今度は完全に扉を閉めて出て行く。
「出来れば、先にそれを教えて欲しかったものですねぇ」
肩をすくめ、立ち上がる。自身の修道衣を整え、立ち上がり外に出る。


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