進化と成長は違う。
当たり前だという人もいるが、これは絶対だ。
進化とは、段階を踏み、よりすぐれた物、複雑な物へ変わっていく有様である。
対して成長は物事が発展し、より高い段階になる事である。

言わば、プロセスのマクロミクロの差なのかも知れない。

『ならば……この場合ははたして成長と言って良いのかどうか…』
妙に偏屈で、変な事を言うイソレナならばこんな事を思ったかも知れない。
だが、111番地の看板地龍はそこまで詳しい事を言わないし、気にもしないだろう。
ただただ……目の前で起こっていく現象に対して、こういう気持ちを思うぐらいだ。
ああ、あんまりにも驚くと声って出なくなるんだなぁという事をだ……


3-バケモンだ、この食欲。


格好良くなりたいと思った。
格好いいって言うのがどう言うのかは分からないけど、惚れた女性がそう言った。
そう、それは本当に些細な物なのかも知れない。
ヘタすれば、今の自分を断るだけのただの理由付けなのかも知れない。
でも、思ったんだ。

それなら、本当に格好良くなってやろうって。

格好良くなって、きゃーきゃー言われるぐらいになって……
「それでも、あなただけです」
って、目の前で告白しようって…思ったんだ。


そんな事があった(らしい)数日後。
物語は冒頭に戻る。
ポコスの今いる場所は111番地の厨房。
いつも慣れた、言わばホームグラウンドだ。
だが、目の前で繰り広げられている光景はいつもとは物が違う。
そこには…今まで立入を禁止されていた…というか入ろうとしようものならば真っ先に止めなければいけないというブラックリストの二番目(一番目は彼の母)にその名を刻めるであろう125番地のアプエゲが……

「料理」を作っている。

料理を習いたいと言い出したのはアプエゲだった。
ポコスの主である朱音がそれを許した。
真剣に頭を下げる様子を見て彼女とポコスは幾つかの条件を守る事によってそれを許可した。


だが、彼によってもたらされる本当の驚きを、この時のポコスはまだ知らなかった。
確かに食材の状態で手をつけないというのは未だ守っている。
そう、食材の状態では、なのだ。

「……んー、ちょっと違う、出汁濃すぎたのかー、と言う事はあれぐらいの目分量かなぁ」
また一品料理(厚焼き卵)が完成すると同時に彼の口の中に料理が消える。
確かに、料理は経験が必要だ。
作って食べて、その経験と感覚が料理の上達に繋がる。
そして、彼は今まで大量の料理を食べてきている。
食べた際に味など感じてないのではと考えていたが、どうやら違うらしいと言うのがポコスの感想だった。
これは、始めにポコスが見本で料理を作った際にいつもと同じ味で安心ですーと言ったときに感じていた事だが、ほとんど驚きの領域に達している。
ポコスの見本の後、あっという間にやり方を憶え、味を確かめると同時に自分の何が足りなかったかを考察し、料理を瞬間的に食べ尽くすともう一度同じ料理を作る。
この繰り返しで、取り敢えず納得のいく味になるまでこれを繰り返す。
この結果が……コピーとまでは行かないものの似た味で、彼曰く彼の好きになった味…らしい。

因みに、既に教え始めて四時間。簡単な料理からといいだしたものの、作った料理の数は五品を超えている。
彼のお腹の中に消えていった料理の量は、大凡四倍以上。
因みに、量を減らす事や、少量で作るという事はせず全て一人前で作られている料理である。
見事に、余った料理という物は欠片もないが……

そして……それ以上にポコスが驚いているのは…アプエゲの身長だった。
始めは、気のせいだと思った。
だが、既に四時間も経った現在ではどう考えても気のせいや、目の錯覚ではすまなくなっている。
さっきまで届いていなかった(出すのに手伝っていた)調理器具の位置に手が届いている。
大きく振り回されるに近い扱いだった包丁を難なく使いこなせるようになっている。
そして、鍋の中の具の具合などを飛んだりすることなく確認出来ている。

明らかに……大きくなっている。
「……タケノコか?」
「?タケノコなんて使ってましたっけ?」
つい漏れた言葉を聞いたのかアプエゲは首をかしげる。それに対して首を振りなんでもないと答えつつポコスは…驚きと共に、関心もしていた。
悪い意味で盲目、でも良い意味では素直なのだろう。彼の格好いいの中に、きっと背が高いかなにかが含まれているのだろう。そう、好意的解釈をしてポコスはうんうんと頷く。
だが……
「寝て起きて、って言うのは聞いた事あったけど、なぁ……」
まさか、起きて動いている最中。それも本人がほぼ無自覚に成長しているというのは中々聞いた事が無かった。
……そして、大きくなる度に食べる速度は早くなり、食べ方は段々とキレイになっている。
丁寧な食べ方。しかし、手の動きが高速という不思議な光景を見ている気分になれる。
そんな事を感心しながら、ポコスは再びフライパンを取る。
あの様子ならば、卵焼きも次作るもので納得をするだろう。
勤勉な生徒を教えるのは、何だかんだ言って講師としても楽しい物である。
主人が帰ってくるまであと少し。それまでは、まあ、この小さな…段々大きくなってきている少年の望むように物を作ってやろう。
そんな、優しさを伴った考え。

だが、彼は知らない。この後、更に増した貪欲さ、勤勉さ故に主人と彼会わせて六時間、教える事に費やされる事になろうとは……。
そして、無論学び方も変わらず。家の中にあった全ての食材を食事という形で食い尽くされ、営業出来なくなった故に終わりという末路を辿る事になろうとは……この時、全く予想も出来なかった事である。


おまけ
「まあ、食材が無かったら作れませんし。今日はありがとうございます」
「あ、ああ……しかし、腹は大丈夫か?作る→食べるのコンボの連続だったが……」
「んー……腹八分って言うのが健康にも良いって、エゲリアお姉さんの本にもありましたし……」
「……バケモンだ、この食欲。いや、貪欲……」



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